第95話2.33 試作機2

 週明け、授業の合間にソウイチロウ先生の研究室に行くと、珍しく早くからサチさんが来ていた。

「おはようございます。今日は、早いですね」

「トモマサ君、おはよう。今日は、試作機が出来たから持って来たのよ。今、ソウイチロウ先生が裏の倉庫でチェックしてるわ。見て来たら?」

 出来上がり予定は翌週だったはずなのに、1週間も納期を短縮して来た。

 ホンダ魔道具恐るべしである。


 サチさんにお礼を言ってから俺は倉庫に向かう。

 倉庫の扉を開けるとソウイチロウ先生がホンダ魔道具の技術者と出来上がりについて確認を行っていた。

「おはようございます。ソウイチロウ先生、試作機が来たと聞いて見に来ました」

「おはよう、トモマサ君。ちょうど良いから一緒に見てくれ」

 そう言われた俺はソウイチロウ先生とホンダ魔道具の技術者のヒロシさんと一緒に確認して行く。

 このヒロシさん、この魔導車作成の担当責任者だそうだ。


 確認箇所として基本は馬車なので、ボディ部分の確認は必要ない。

 重要なのは動力を除く駆動系部分やハンドル部分などソウイチロウ先生のご先祖様が残した図面を元に作っている部分だ。

 1時間ほどかけて確認した後、俺とソウイチロウ先生で相談する。

「問題無さそうだな」

「そうですね。細かいチェックは、魔石をセットしてからでないと分からないと思います」

「ま、そうだな。よし。ヒロシ、お疲れさん。今日はこれでOKだ。また、変更があったら連絡するよ」

 OKをもらったヒロシさん、ホッとしたのか清々しい笑顔を見せている。

「ありがとうございます。ソウイチロウ先生。いやー、良かったです。難しい仕様だったので大変でしたよ。無事納品出来て安心しました。今日からゆっくり眠れそうです」

 その後も作成の苦労話をマシンガンの様に話すヒロシさんにソウイチロウ先生も苦笑を浮かべている。

 話がひと段落したところでヒロシさんが一枚の紙を出してきた。


「それで、ソウイチロウ先生、代金の方ですが。今、いただいてもよろしいでしょうか?」

 請求書のようだった。

「おお、金額に変更はない様だな」

「はい、少し足が出ましたが、そこはサービスします。なにしろ、これが実現すれば革命が起きるぐらいの魔道具ですからね。先行投資です」

「おいおい、端数削ったぐらいで先行投資は言い過ぎだろう」

 暗に量産に入ったら噛ませろと言っているようだ。

 2人で営業トークを繰り広げながら、ソウイチロウ先生が懐から代金を出してヒロシさんに渡す。

 受け取ったヒロシさんもしっかり数えてからカバンにしまっていた。


 ちなみに支払われた代金は俺のダークな金から出ている。

 ソウイチロウ先生の研究費では魔導車試作の資金が捻出できないという事だったので俺が援助をしたのだ。

 おかげで俺は魔導車開発のパトロンでありながら下っ端開発技術者と言う変な立ち位置に立たされているのだ。

 もっとも金の事は俺とソウイチロウ先生だけのトップシークレットにしている。

 研究室でギクシャクしたくなかったので。


 金銭授受の後、少し雑談してからヒロシさんが帰ったのを見送って、俺達は早々に動力装置の設置に取り掛かった。

 ソウイチロウ先生と動力装置を設置して行く。

 そのうち授業が終わってやって来たタケオとヤタロウも加わったり、俺も授業で少し抜けたりしながら作業を進め、夕方には一通り完了させる事が出来た。

「よし、トモマサ君、早速、動力を始動だ」

「はい。ソウイチロウ先生」

 ソウイチロウ先生の指示の下、俺はテストドライバーとして試作機に乗り込みハンドル横の魔石に魔力を込める。

『ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン』

 試作機から回転音が聞こえて来る。

 順調なようだ。

 その後もソウイチロウ先生の指示で出力を上げたり下げたりして動力の回転を確認して行く。

「おお、凄いな」

「感動だ」

 タケオとヤタロウが歓声を上げている。

 まだ、動力に魔素を込めただけで1ミリたりとも動いてないのだが。


「よし、ギアを入れて発進だ!」

 突然、ソウイチロウ先生が前を指差し大声で叫ぶ。

 うん、モビ○スーツでも飛び出しそうな迫力だけど、残念ながら試作機がゆっくり動くだけなんだよね。

 いきなり高速発進なんて危険すぎるからね。


 そんな事を思いながら、俺は、そっとギアを1速に入れるが――試作機は全く動きませんでした。

 残念。

 その後、魔素量を上げながら動かそうとしたのだけど無理でした。

 遂には動力部分から煙が出だして――今日の実験を終了となった。

 まだまだ先は長そうだ。


 それでも大きなオモチャを前にして皆の顔には笑みが浮かんでいた。

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