第96話2.34 期末テスト
順調な学園生活を送っていると、いつの間にか7月に入り梅雨真っ只中である。
雨の日が多く、中々狩りに行くことができない俺は、ますます魔導車開発にのめり込んでいた。
今は試作機の始動に成功し、学園内に作ったサーキットでテスト走行を行うところまで進んでいる。
前回の始動失敗は魔術式の単純なミスである事がすぐに判明しており然程時間を掛けずに解決している。
ただ、やはり動力の燃費の悪さは解消しておらず、まともな距離を走行させられるのは、魔素量の多い俺とアズキ、それに偶に顔を見せるカリン先生だけだったりするのだが。
「軽量化を進めた試作弐号機は、いつ頃出来そうなのですか?」
「再来週ぐらいの予定だが、今回も早めの納品が可能だと言って来てたな。大体あれは――」
ソウイチロウ先生が弐号機作成の経緯を蒸し返している。
そもそも弐号機製作はホンダ魔道具から打診されたものである。
俺達が燃費の悪さに悩んでいるのを知ったヒロシさんが、
「あの図面の車体は、ハイスペックすぎるのです。初号機でもかなり機能を削ったのですが、まだまだ、削れます。サスペンションもパワーステアリングもいりません。下手をすると変速ギアも不要かと思いますよ。一体、どれだけの速度を出そうと言うのですか?」
と提案してきたのだ。
設定速度を時速30kmに設定し機能を削りに削った車体重量は初号機と比べ半分程度になるらしい。
話を聞いて本当なのかと思ったが出してきた図面をじっくり見て納得できたので作成を依頼したのだ。
そんな経緯もありソウイチロウ先生、実家でもあるホンダ魔道具には頻繁に顔を出して進捗確認を行っているようだった。
実情は弐号機作成の為に忙しくて学園に来られないサチさんに会いに行ってるだけかもしれないけど。
それに合わせて動力も改良している。
低速域におけるパワーとトルクを重視するように設計している。
用は乗用車ではなくトラック用にエンジンを設計している感じである。
「それよりも、学生は来週からテスト期間だろう。トモマサ君は大丈夫なのか? まぁ、魔道具作成の課題は受け取ったから大丈夫だけど」
そう、7月の中頃から期末テストが行われるのだ。
このテストでやらかすと大変で、夏休みを潰して補習、それでもダメなら進級できず来年も1年生という事になりかねない。
ツバメ師匠は必須授業の国語や数学で行き詰まっており、連日カリン先生から個別授業を受けている。
剣術以外はとんと苦手らしい。
俺はと言うと必須授業は既に飛び級しているし、また今、受けている物理や統計の授業もかつての高校での内容とほぼ同じでありさほど苦労していない。
「俺は大丈夫ですよ。ダンスと貴族マナー以外は」
そう俺が苦手なもの、21世紀では習っていないもの。
上流社会の嗜みである。
「ああ、俺も学生の頃、苦手だったなぁ。ギリギリで単位もらえたけど。しかし、貴族のトモマサ君は、子供の頃から学んでるから余裕なのかと思ったらそうでも無いんだな」
「あまり、貴族らしい生活して来なかったもので」
子供の頃なんて完全な小市民でしたよ。
大体、貴族なんて21世紀の日本にいませんでしたしね。
「それなら、研究室に篭ってないで勉強なり練習なりして来たほうがいいんじゃないのか?」
「いや、毎日夕食時にマナーを、その後でダンスを練習させられてます。なので、せめて、それ以外の時間は、自由にさせて下さい」
俺はソウイチロウ先生に頭を下げる。
そう寮に帰るとパーティさながらのディナーを食べながらマナーについてしっかり勉強させられ、その後は、「シャルウィ ダンス?」とか言いながら社交ダンスをさせられるのである。
なんで日本舞踊でないのかと思ったりもするのだが、仮に日本舞踊であったとしても練習はさせられるのだろうし、黙って教えられている今日この頃である。
「そうか、君も大変なんだな。うんうん、好きなだけ研究室にいるといい。俺はもう何も言わないよ」
俺の真摯なお願いにソウイチロウ先生は、そう言って大きく頷きながら滞在を許してくれた。
物凄い慈愛に満ちた表情で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます