第92話2.30 パーティー2

「さあ、壇上へ」

 戸惑っている俺とマリ教授、メイドに促され壇上に上げられる。

「マリ教授、それにトモマサ殿、此度の復元魔法の復活。誠に大儀であった。その功績を評して青龍勲章を贈る事とする」

 その言葉にオーケストラから勇壮な音楽が、また、会場からは割れんばかりの拍手が送られた。

 勲章なんて何にも聞いてないんですけど、と思ってヤヨイを見るとニヤニヤと笑っていやがった。

 知っててワザと教えなかったようだった。

 戸惑う俺を見て楽しむ為に。


 マリ教授、俺と順番にメダルのようなものを渡されると、またしても大きな拍手が送られた。

「合わせて褒美として、白金貨10枚を取らせることにする」

 これは2人でというより、俺にの意味合いが強いようだ。

 王家は以前から俺に金を渡そうとして来ていた。


 俺を養うのは王家の務めだと思っているようなのだ。

 だが俺は、全て断り続けてきた。

 ヤヨイから貰ったダークな金もあるし、狩で充分に稼げているのにこれ以上の金は必要無いと思ったからだ。

 ただ静かに暮らしたいだけなのに大金があっても困るだけだから。

 だけど褒美だと言われてしまうと断る事ができない。

 仕方なく受け取る。


「今後とも遺失魔法の研究に励むように」

 袋に入った金貨と王様の激励の言葉を頂いて、壇上から降りた。

 王様の演説が続いている中を皆の元に帰る俺とマリ教授。


「驚きましたね、マリ教授。まさか褒美を貰えるとは思いませんでした」

 小声で声を掛けるが返事が無い。

 おや、と思って顔を見るとマリ教授の顔が魂が抜けたかのようになっていた。

 驚き過ぎたようだ。


 しばらく呼びかけてみたが返事が無いので、そのままにしておく事にした。

 一応何かあってもいけないのでアズキに側にいるように頼んで。

 再び壇上を見ると王様の他にもう1人貴族がいた。

 誰だろうと思っているといつの間にか横に来たシンゴ王子が教えてくれた。

「トモマサ君、あれは、反対勢力の親玉、元エド国将軍にしてニッコウの街の領主、トクガワ イエヤス公爵殿ですよ」

「徳川ってあの徳川? 生き残ってたのか?」

「歴史に出て来る徳川家とは血の繋がりは無いようです。ただ、ニッコウに街を作った時に、日光東照宮に祀られている東照大権現様から名前を賜ったと言って、以降の領主は全てトクガワ イエヤスを名乗るようになったと聞いてます」

 なるほど神社と結託して神輿にしたのか。

 よくある手だな。

 ただ神の名を借りたからと言って良い領主になるとも限らないのだが。

 世界史でも神の名を使って戦争を起こした統治者は山ほど出て来るのだし。


 シンゴ王子とトクガワ家の話をしているとカリン先生も寄って来てエド国と丹波国が連合王国を築くまでの歴史を含めて教えてくれた。

 流石カリン先生、よく分かりました。


 俺たちが話し込んでるうちに壇上での話は終わった様であった。

 多くの貴族たちが思い思いに話をしたり、会場中心ではオーケストラからの優雅な音色に乗せて社交ダンスが繰り広げられている。


 そんな中でも俺たちはツバメ師匠が持ってくる食べ物をひたすら食べていた。

 会場の端っこで。

 たまにカリン先生やマリ教授にダンスの誘いがあるのだが婚約者がいるのでと全て断っている。

 受ければ良いのにと思うのだが、

「恥ずかしいから無理」

 との事だった。


 カリン先生は元貴族なのだし経験あるのではと思って聞くと

「トモマサ君となら良いですよ」

 と返される。

 そうすると俺が踊る事になるのだが――当然のように踊れるわけがない。


 学園の授業で練習しているが、そんな簡単に出来るものではない。

 尻込みする俺にカリン先生、

「帰ったら、ダンスの練習ですね」

 と何やら意気込んで来た。

 俺としては必要無いと思うのだが貴族の当主になる以上必要なのだそうで、やる事が決まってしまった。

 面倒な事この上ない話だった。


 いろいろ話しながら、沢山食べて、そろそろ帰りたいな~と思っていると、1人の貴族が、あの馬鹿貴族を連れて近づいて来た。

「こんばんは、トモマサ殿。この度の、復元魔法の復活、誠にめでたい事である。何より多くの領民に救いの手を差し伸べてくれた事、私からも礼を言わせてもらおう」

「初めまして、イエヤス様。お褒めの言葉、大変嬉しく思います」

 そう、あのトクガワ イエヤス公爵であった。

「おお、初対面であったな。すまんな、先日の発表の折に顔を見ておったから、失念しておったわ。では、改めて、初めまして。トモマサ殿。私は、ニッコウの街の領主、トクガワ イエヤスである。以後、良しなにな」

 俺は、にこりと微笑み肯いておいた。

 物凄く気さくに話しかけてくるイエヤス公爵であるが俺は全く気を許していない。

 反対勢力であるという事もあるが、この男、眼が全く笑っていないのだ。


「ところで、トモマサ殿、今日は、1つ謝りに来たのだ。聞けば、先日、こちらのヌマタ男爵と些か行き違いがあった様では無いか。そちらのシンゴ王子の取りなしで事を構える事なく片付いた様であるが、この機会に今一度、仲直りをと思ってな、さあ、ヌマタ男爵、お主からも一言言う事があるだろう?」

 行き違いね。悪いのは完全にヌマタ男爵であるのだが、それを行き違いで済まそうというのだから中々のタヌキの様だな。


「トモマサ、ど、殿、先日は、あの様な場所で、大声を張り上げてしまい誠に申し訳ない」

 ぎこちなく手を出し握手を求めて来るのヌマタ男爵、顔が引きつっている。

 無理に笑おうとするからだろう。

 俺としては、正直、アズキを連れ去ろうとし阻止したカリン先生の顔に傷を負わせたこの男と握手などしたく無い。

 だが本来の立場を隠して一介の学生として参加している俺に断るという選択肢は無い。


「こちらこそ」

 仕方なく、なるべく笑顔を作って握手を返した。

 内心は腸が煮えくり返りそうな気分であるが。

「うむうむ、無事仲直りできた様だな。これで、一つ憂いが無くなったわ。これを機会に、トモマサ殿、ヌマタ男爵と仲良くしてやってくれ。この男、些か早とちりでの、困っておるのだ。何百年も分からなかった復元魔法の知識を発見したトモマサ殿ほどの知恵者と友になれば、少しは治るかもしれんしの。はっはは」


 笑いながら去っていくトクガワ公爵。

 ヌマタ男爵も引きつった笑顔のまま付いて行った。

「何あれ、アズキさんにあんな酷い事しといて、たったあれだけの謝罪で終わらせるつもりなの?」

 カリン先生も俺同様ご立腹の様である。

 しかし、あのトクガワ公爵の復元魔法の言、俺の正体を分かって言ってるのではないだろうか? 確信は無いのだが気になる。

 あの男、出来る事ならずっと監視したいところだ。

 何か良い方法はないものかと考えていると、突然、視界に赤い点が点滅しだした。

 何だこの点は? 若返ったのに光視症か? と見ていると視界の赤い点、少しづつ動いていた。

 さらに、しばらくすると白い線も出て来て地図のようになって来た。

 その間も、赤い点は動いたり止まったりしている。実際の視界と比べながら見ていると、赤い点の意味が分かってきた。

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