第91話2.29 パーティー
控え室に戻ると皆が揃っていた。
プロの美容師とメイクアップアップアーティストに整えて貰い、いつもと違う煌びやかな雰囲気を出しながら。
俺は、いつもと同じメイド服のアズキですら全く違って見えるのだから、プロの技術力の高さに驚いていた。
「皆、すごい綺麗だよ。眩しいぐらいに」
綺麗さを表現したい俺だけど、語彙が足りない俺にはこれが限界だった。
それでも。
「「トモマサ君、ありがとう」」
微笑みながら返してくれる皆。
ありがたかった。
俺が見惚れているとカリン先生とマリ教授が腕を組んで来る。
右腕はカリン先生だった。腕を胸の間に入れる勢いで抱きしめてくる。
左腕はマリ教授だった。ただ、こちらは、まだ照れがあるのか少し離れ気味にしている。
それでも腕と指を絡ませてくる。
俺は柔らかさと温かさに包まれていた。
そこにさらに。
「トモマサ、私も綺麗だろ? な、綺麗だろ?」
言いながら、ゆっくり歩いて来るツバメ師匠。
馴れない着物に動きずらそうしながらも前から抱き付いて来た。
アズキも側に来て、そんな俺たちを見て微笑んでいる。
極めて平和な光景だが、アズキに一つ伝えないといけないことがある俺は重たい口を開いた。
「アズキ、やっぱり法改正は成らなかったよ。早く、アズキにもドレスを着せてやりたいのにな」
「ありがとうございます。でも、私は、ここにトモマサ様と共に居られるだけでも幸せです。昨年までは考えられもしない事でしたから」
相変わらず健気な答えだった。
来年こそは何とかしてやりたい。俺と居られるだけで幸せって、そんな寂しい事言わせない為にも。
もっと自由に生きて良いんだよ。何も悪い事してないんだから。
そう思わせるほどの。
そして法改正への願いを込めて、アズキも巻き込んで皆を抱き締めた。
向ったパーティー会場には既に多くの人が入っていた。
貴族の当主だけでは無く、その家族も参加しているようだ。
華やかなドレス姿も見受けられる。
俺はとう言うと会場に入って早々に壁際に佇んでいた。
目立ちたく無いので。
それでも何だか視線が集まってる気がする。
アズキ、カリン先生、マリ教授と綺麗どころが3人並ぶとそれだけで目立ってしまうのだろう。
ちなみにツバメ師匠は中央のテーブルに乗っている食べ物を1人食べ歩いていた。
本当に小学生のようだ。
周りの貴族もあたたかい目で見守っている感じがするぐらいだった。
しばらく会場を見回していると近づいて来る一団があった。
「トモマサ君、楽しんでいるかい?」
シンイチロウ王子とその家族のようだ。
「はい、美味しい料理をたくさん頂いています」
嘘では無い。
ツバメ師匠が気に入った料理を大量に持って来てくれるからだ。
お陰で目の前のテーブルには料理が山積みされていた。
肉ばかりなのが難点だが。
「それは何よりだ。そうそう、私の家族を紹介しよう。妻と息子だ。今後ともよろしく頼む」
紹介された2人は優雅に一礼している。
俺も一礼して自己紹介しておいた。
ついでに彼女達の紹介も。
順番に紹介して行ったのだがマリ教授の名が出たところでシンイチロウ王子の目が見開いた。
「そちらが、マリ教授か。復元魔法の復活の話聞いている。今回の魔物の討伐でも何人か腕や足を失った者がいたのだが、王都で見事に元通りになったと部下から報告で聞いている。本当に素晴らしい成果だ。本パーティーの主役と言っても過言では無い。ゆっくり楽しんで行ってくれ」
「シンイチロウ王子、過分なお言葉ありがとうございます」
言い終えて他の所に行こうとする王子に恐縮しながら返事をするマリ教授。
王子が去った後、
「はぁ、緊張した。シンイチロウ王子って、第一王子でしょう? 次期国王って人と話をするなんて一生無い様な出来事ね。帰って両親に自慢しないと」
と上気した顔で言っていた。
俺の彼女になるという事は王家は家族のような者なのだが、まだ、よく分かっていないらしかった。
王子が去った後、マリ教授の名が聞こえたのか沢山の貴族が挨拶に来た。
やはり復元魔法の復活はインパクトが大きかったようである。
ぜひ自分の領地に来て魔法を教えて欲しいと請われていた。
「はぁ、断るのにも疲れたわ。しかし、トモマサ君の婚約者にして貰って良かった。これが無かったら、とても断り切れなかったもの」
教授職が忙しいからと断っていたマリ教授であったが、中々引き下がらない貴族には俺をダシにして断ったようだ。
おかげで俺も貴族に囲まれて大変だった。
「魔法学園を卒業したら皆で伺います」
と、お茶を濁しておいたが。
貴族達を捌き切った頃、突然オーケストラが音楽を奏で出した。
メインステージの上に主役が登場するらしい。
出てきたのは王様とヤヨイだった。
音楽が小さくなったところで王様の演説が始まる。
「実りのある領主会議であった」
とか
「丹波連合王国の発展を」
とかよくある感じの話をしている。
ボーッと聞いていると突然名前を呼ばれた。
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