第90話2.28 採決2
「シンイチロウ兄様、トモマサ様をお連れ致しました」
シンゴ王子がそう言うと座っていた男が片膝ついて俺に臣下の礼を取る。
「お初にお目にかかります、トモマサ様。アシダ王家第1王子アシダ シンイチロウと申します。以後お見知り置き下さい」
周りに聞こえないようにか少し小声で挨拶してくるシンイチロウ王子。
「どうも、初めまして。アシダ トモマサです。えー、取り敢えず立ってください。他の人に見られると困るので。それとその呼び方も」
「は、心得ております。いや、えー、うむ、分かっておる。トモマサ殿」
シンイチロウ王子、立ち上がって直ぐに、口調も直してきた。
流石、対応が早い。
「兄様、トモマサ君、そろそろ始まりそうですよ。トモマサ君はこっちの席に座ってくださいね」
そう言ってシンゴ王子が勧めてくれたのはシンイチロウ王子の隣の席だった。
渋面王子の隣か。
なんと無く落ち着かないんだよね。とか内心渋っているとシンイチロウ王子が話し掛けてきた。
「挨拶が遅くなって申し訳ない。魔物の討伐で長い事王都から離れていたものでね。なんとか終わらせて、昨日ようやく帰ってくる事が出来た所なのだ」
「それは、ご苦労様です。よほど手強い魔物だったのですね」
「うむ、一体一体は大した事無いのだが、数が多くてな。時間が掛かってしまった。それでもかなりの数を潰して来たのでしばらくは、王都におられるだろう。何か困った事がったら、いつでも訪ねてくるがいい。いくらでも力を貸そう。もっとも、トモマサ殿なら私の力など無くとも全て自力で解決してしまいそうだがな。ははは」
シンイチロウ王子が笑っている。
この人も俺の事を勘違いしていそうだ。
王子様に比べて小市民な俺は、何も出来ないですよ。と、説明しても分かってくれなさそうなので、俺も笑って済ませる事にした。
何が可笑しいのか分からないが笑う2人、何だか虚しい時間だった。
虚しい会話の後、採決が始まったので静かに聞いている。
案件毎に挙手で採決を取っていくのだが、ものすごく分かりやすい。
何がって、グループ毎に可否が統一されているからだ。
グループリーダーらしき人が手を挙げると、グループ所属の人も残さず手を挙げる。挙げない時は全員手を上げない。
まるでマスゲームでも見ているかのようである。
感心して眺めていると、その中に1人の男を見つけた。
あの馬鹿なヌマタ男爵である。
当然男爵にも採決権があるようで、手を挙げたり降ろしたししている。
ただ前の人に合わせて、前の人の手にだけ集中して。
「なんだありゃ、あいつ何も考えずに手を挙げてるだろ?」
あまりに呆れていたのか声が出てしまったようだ。
隣にいてシンゴ王子が教えてくれた。
「ヌマタ男爵ですか? 僕の知る限り、ほとんどの貴族は、あんな感じですよ。サロンのリーダーの意見に追従するだけで自分の意見は持っていない。困ったものです」
「ひぃじい様から聞いた時も、だいたいこんな感じだと言っていた。それでも、たまに気骨のある貴族もいて、リーダーに逆らって大げんかする奴もいたとも言っていたが」
逆隣のシンイチロウ王子も話に混ざって来て教えてくれた。
じい様ってことは少なくとも100年ぐらい前からこの状態って事か。
うーん、これってかなり危険な状態なのでは?
「民衆に不満は溜まってないのですか?」
シンイチロウ王子に聞いてみた。
「王家寄りの貴族領は大丈夫だ。税も安くしてるし、人の移動も制限してない。民の生活が向上するよう力を入れている。ただ、王家に反発している所は、かなりの不満がたまっていると聞いている。特に関東では、亜人や外国人への差別が色濃く残っているしな。一部の金持ちだけが豊かで、それ以外の人々は、苦しい生活を送っているようだ。王家としても色々と手を差し伸べようとするのだが、領主に嫌がられてしまってな。手を拱いているのだ」
「罷免したりは出来ないのですか?」
「うむ、罷免するにも領主会議の採決が必要なのだ。連合王国の王家と言いながらも、実は出来ることは少ないのだよ。権力が集中し過ぎないよう建国の時に法で決められているのだ」
確かに王家が圧政を敷いた時のために決めた法なのだろうが、今は悪い方に効果が出ているな。
何かいい方法は無いかと考え込んでいると、大罪法の改正案の採決の時が来た。
皆が挙手する。
「お、過半数超えてるんじゃ無いの?」
俺が興奮して声を上げるとシンゴ王子が残念そうに教えてくれた。
「法改正には、三分の二の賛成が必要なのです。政令などは過半数で可決なのですがね」
そうなの? それなら早く教えてよ。お馬鹿なところ見せて恥ずかしいじゃ無い。
頭を掻いているうちに結果が出た。
331議席中201議席、20議席足りずに否決だった。
前年の賛成議席数聞いてないけど、結構惜しいところまできてるんじゃ無いのか? こりゃ、来年に期待だな。と少しだけ希望の持てる内容だった。
それ以後も、粛々と採決は続いていき――数時間後、会議は終了した。
さあ、後はパーティーだ。
女性陣の準備は、出来上がってるかな?
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