第11話1.11 魔法訓練2

 昼食後、外で実践訓練が始まった。

 とは言っても、最初は魔素を把握しろと言うことで座禅である。

 昼食後すぐに座禅って、昼寝の間違いじゃないのかと思うぐらい眠い。

 うつらうつらしていると、体中に電撃が走った。

 比喩ではなく、本当に電撃だった。

 カリン先生が、俺を雷の魔法で撃ったのだ。


「この雷にも魔素が宿っています。感じてください」

 恐ろしい訓練だった。わざわざ眠い時間を指定してやっているのではないかと思うぐらいだ。

 意地でも起きてようと思うのだが、何度も電撃を食らってしまった。

 結果、夕方ごろには魔素を感じられるようになった。

 雷で痛めつけられた効果が出たかどうかは分からないが。

 空気中、土の中、自分の体の中、他の人の体の中、そしてもちろん電撃の中にも魔素が感じられた。

 21世紀には無かったので口で説明するのはむつかしい感覚だが。

 俺が喜んでいると。


「意外と時間がかかりましたね。途中から心配になって電撃が強くなってしまいました」

 と言われた。普通の人は言われなくても把握しているらしい。

 魔素のある世界なんてまだ数日だから仕方がないじゃないか。

 電撃を強くする理由もわからないし、この先生大丈夫なのだろうかと思ってしまう。

 それを察したかどうは、分からないけど。

「大きな魔素は、把握やすいのですよ。とにかく、よく頑張りました」

 と頭を撫でてくるカリン先生。


 自分より背の低いカリン先生が、頑張って背伸びして俺の頭へと手を伸ばす。

 その姿を見た俺は、顔が赤くなるのが良く分かるほど恥ずかしかった。

 くっそ~。文句の一つでもと思ったのに、何も言えないじゃないか。などと考えていると。

「この訓練は、なるべく毎日続けてください。いろんな物質の魔素を把握できるとそれだけ使える魔法が増えますから」

 という言葉を頂き、一日目の授業は終わった。


 夕食後、俺は布団の上で目を閉じひたすらに魔素を感じていた。

 テレビもネットも無いので暇だったのだ。

 だが、やってみてよかった。

 空気、布団、床、壁少しずつ魔素の量が違っているのが分かり、少しずつ判別して把握出来るようになってきたのだから。

 さらに時間を掛けると、部屋の外に誰かいるのが分かるようになった。

 すごいな。透視みたいだ。隣の部屋は、どうなっているのかな? とみると、同じつくりの客間だとわかる。

 それなら、王城はどうかな? と見ようとした瞬間、俺の意識は途絶えた。


 目を覚ますと、背中に柔らかいものを感じた。

 そう、またしてもアズキに後ろから抱き着かれていたのだ。

 しかも離れようにも離れられないほどしっかり両腕でロックされて。

「アズキ。起きて。離して」

 もがきながら発する言葉に、目が覚めたのだろうアズキが何とか離してくれたので、俺は布団の上に座る。

 その俺の姿勢に何かを感じたのかアズキも向かい合って布団の上に座った。

 キングサイズのベッドなのにえらい近い。

 目が合うとにっこり微笑んでくれたアズキ。

 嬉しいのか尻尾が布団の上で揺れている。


「アズキ。昨日話したよね。こういうことは、好きな人としかしちゃいけないよって。どうしてまた布団の中に入っているのかな?」

 俺は、優しく聞いてみた。

「はい。私、トモマサ様のこと大好きです。ですので大丈夫です」

 とても嬉しそうに言ってくる。何が大丈夫なのか。

 大体、「大好き」って出会ってまだ、三日ほどじゃないか。

 そう思った俺は、違う言葉で諭す。


「……アズキよ。昨日は、言い方が悪かったようだ。同じ布団で寝るのは、夫婦か恋人だけだ。俺とアズキは、そんな関係じゃないだろ?」

「トモマサ様、私のことお嫌いですか?」

 俺の言葉に泣きそうな顔で聞き返して来るアズキ。

 尻尾もへなっと垂れている。

 おかげで。

「い、いや、き、嫌いとかそういう事ではなくてな。物には、順序があるだろう? 互いに好きでもすぐに一緒に寝る訳ではないだろう?」

 俺しどろもどろである。

 かわいい女の子にこんなこと言われて、スマートに断れる術など持ち合わせていない。

 普通の男には40年生きてもこんな経験は無い。


「では、いつから一緒に寝られますか?」

 なんで、一緒に寝る前提なのか? と思うが、うまく言葉にできない。

 そのうちに、どうすれば、分かってくれるのか? とか、そもそも、断れるのか? などと考えが移り変わっていき、最後には、何だか何を言ってもダメな気がする始末。

 すっかり、自信を無くしてしまった俺。

「すまんが、少し考えさせてくれ」

 と、とりあえず逃げて誤魔化した。

 そして言われたアズキはというと、尻尾を垂らしたまま部屋を出て行った。

 何だか俺が悪者のような気がするが、どうしたらよいのかわからない。

 授業の後にでも一度、ヤヨイに相談してみるか。

 そう思いながら朝食に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る