第10話1.10 魔法訓練

 王様との会談で精神的に疲れ切っていた俺は、夕食を食べて早々に寝てしまった。

 子供の体は、すぐに眠くなる。困ったものだ。まぁ、別にすることもないのだが。


 そして翌朝目覚める。するとまたしても柔らかいものに包まれていた。

 アズキだった。俺の腕を抱え込んで眠っている。

 この子は、一体何をしようとしているのだろうか? と疑問が頭に浮かぶが何も分からない。

 うんうん唸って考えているとアズキも目覚めたのか、そっと布団から出て身嗜みを整え、何事もなかったかのように笑顔を浮かべていた。


「おはようございます」

「いやいや、昨日も言ったよね。勝手に布団には入らないでねって。昨日は、『分かりました』って言っていたよね」

「はい、眠っているトモマサ様にお願いしましたら、『んが』と快諾頂いて入らせていただきました。お嫌だったのでしょうか?」

 開いた口が塞がらない。「んが」は、了承の言葉なのか? ただの寝言だと思うのだが。

 どう言えば分かってもらえるのだろうか? 確かに嫌かと言われれば、そんなことはない。とっても気持ちいいし嬉しい。

 でも、妻が……あぁ、もう妻はいないのだっけ。独り者だな。それなら、問題ないのか? いやいや、若い娘がこんな事しちゃいけない。

 ちゃんと言わないと!


「アズキ!布団に入るのは、アズキが本当に好きな人だけにしときなさい。簡単にそんなことしては駄目だよ」

 ちょっと語気を強めて言っておいた。

 アズキも、「はい、分かりました」とはっきり答えてくれた。

 これで大丈夫だろう……多分……。

 さて、着替えて朝食だ。その後には、魔法の訓練が待っている。

 アズキには着替えの間部屋を出てもらった。

 着替えを女の子に見せる趣味は無いから。


 魔法の先生が来られるという事なので、指定された部屋で俺は待っていた。


 なぜ突然魔法の訓練かというと、入学希望の学校が魔法学園であるためである。

 入試を突破するには魔法の基礎勉強が必要とのことで、今日からその勉強が始まるのである。

 ちなみに、31世紀の一般常識も教えてもらえるそうである。


 しばらく待っているとノックの後、高校生ぐらいの女の子が入ってきた。

 背が低くリスみたいな雰囲気の人だ。かわいい。髪は、濃い緑色――砥草色に近いかな――でポニーテールにしている。

 黒いローブに杖と魔法使いらしい格好だ。


 そして最も特徴的なのが目だ。右は普通に黒いのだが、左が真紅の瞳だった。いわゆる虹彩異色症(オッドアイ)というやつだった。

 そんな先生が、元気に挨拶する。

「こんにちは、魔法の指導をさせていただきます。カリンです。よろしくお願いします」

「こんにちは、トモマサです。よろしくお願いします」

 その声につられて俺も声が大きくなった。

 そんな俺の声に満足したのかにっこり微笑むカリン先生。年がかなり若そうだった。


 おかげで、先生として大丈夫なのだろうか? と不安を覚えていると、カリン先生自身が自己紹介がてら経歴を教えてくれた。

 先生は魔法学園を飛び級で卒業した16歳。100年に一度の天才と言われる魔法使いとのこと。

 卒業後は、そのまま魔法学園の先生をしているらしい。

 今回は王家の依頼で派遣講師として来ていること、顔を赤らめて話してくれた。

 まぁ、自分で100年に一度の天才とか、恥ずかしいよね。

 見ているこっちは、可愛らしくてほんわかしてくるのだが。


「トモマサ様は、魔法学園の入学試験に向けて魔法の基礎を勉強したいと聞いています。あと半年ないですが、入学目指して二人で頑張りましょう」

 二人でがんばるか。初めての共同作業的な? ……いかんいかん、若い女の先生とか思考がエロい方に行ってしまう。

 朝のアズキのせいかな?

「どうしましたか? トモマサ様、聞いていますか?」

 変な妄想していたら、突然目の前に顔が出てきた。

 赤と黒の目に見つめられるとドキドキしてくる。


「か、カリン先生近いです。ちゃんと聞いています。あと、その呼び方止めてもらえませんか? 生徒ですから、呼び捨てでも構わないぐらいですが?」

 変なこと考えていたのがばれないように、話を変える。

 実際、先生に様付けで呼ばれるのは気持ち悪いし。

「呼び方ですか? ヤヨイ様の縁者と聞いておりますし、敬意を込めて呼ばせてもらっていますが? 嫌なら仕方が無いですね。流石に、呼び捨ては無理ですので、トモマサ君でどうでしょうか?」

「それでお願いします」

 君付けで呼ばれると、それはそれで興奮しそうだが様付けよりも良い。

「それでは、トモマサ君、授業を始めますよ。最初に、自分の状態を知るために魔素量を測ります。自身の魔素量は、把握していますか?」

 魔素量。そういえば、最初に測ってもらったな。

 かなり多いって言っていたけど、正確には聞いてないなぁ。


「多いそうですが、詳しくは聞いていません」

「魔素量は、魔法使いにとって生命線です。体調などにより日々変わりますのでなるべく把握しておいてください」

 そう言って、何やら石板を出してきた。


「それでは、魔素計で測ってみましょう。使い方は、知っていますか?」

 俺が顔を横にすると、使い方を教えてくれた。と言っても、石板の上に手を置くだけだが。

 そして計測。

 結果はすぐに出た。25万。

 これが俺の魔素量だけど、俺にはこれがどれほどの値なのか分からない。

 他の人の数値すら一切知らないのだから。故に素直に聞いてみた。

「カリン先生。これは、多いのでしょうか?」

 だが声を掛けられたカリン先生。何故か目を点にして固まっていた。


 しばらくして。

「あれ~。壊れている~? 魔法学園からの借り物なのに、壊したら弁償しないと。結構高いのにどうしよう? とりあえず、私が測ってみるわ。……1023……正常に動いているわね。トモマサ君もう一度測ってくれる?」

 再測定を要求する先生。

 そして俺はもう一度測ってみたが、やっぱり25万だった。

「……トモマサ君、あなた何者ですか? エルフの大魔法使いでも1万を超えないというのに、ただの人族が……あぁ、それでやたら守秘義務の罰則が凄かったのですね。ヤヨイ様の依頼だし、金額がいいから飛びついたけど、この仕事大丈夫かしら。不安になってきたわ」

「カリン先生。いろいろ駄々漏れですよ?」

「す、すみません。大丈夫ですよ。誰にも言いませんからね。奴隷になんてしないでくださいね。ははは……」

 奴隷って、ヤヨイめ、どんな契約しているのか。


「えっと、魔素量について質問でしたね。人間の平均魔素量は、大体100前後です。私は、測定のように1000ほどありかなり多い分類です。ですがトモマサ君の25万には、とても敵いませんけどね~。ははは……」

 そうか桁外れか。

 次元の狭間に1000年もいたのは伊達ではないという事だろうか? まぁ、それは後でヤヨイにでも聞くとして、俺は話を進めることにした。


「それなら、すぐに魔法使えますかね?」

「魔法を使うには、膨大な知識と体の魔素をコントロールする技術が必要です。魔素量が多いと回数は多く使えますが、コントロールは練習しないと覚えられませんよ。頑張りましょう」

 そうか、魔素だけあっても魔法使えないのか。

 強力なアドバンテージだと思ったけどそんなに甘くなさそうだ。

「では、魔素について説明しますねぇ」

 そして始まった授業。

 午前中は、ひたすら座学だった。

 何十年も前に学校を卒業した俺には、きつい時間だった。

 それでも、ちゃんと寝ずに全部聞いた。

 帰狭者の魔素量についても話してくれたしね。

 魔素量は狭間の滞在時間に比例するという話をね。


「午後からは、魔素のコントロールを実践しましょう」

 そう言って、午前中の座学は終了した。

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