第9話1.9 建国の父2

「……いや、驚いた。王国なんて作るか普通。まぁ、でも睦月ならやりかねないと思ってしまう所が恐ろしい。……でも何もしていない俺が建国の父って無理がないかい?」

「何もしていない……ね。この国が、今の形になったのは間違いなく父さんのおかげよ。全く、世界が滅ぶ予測でもあったの? 物凄い準備がしてあったわよ」

 準備かぁ。確かに、トラクターの代わりに農耕馬飼ったり、簡単な道具を作れるように鍛冶炉を作ったりはしていた。いわゆるロハスとか自給自足とか言った考えの生き方だ。

他にも、様々な作物の種を自分で採種して保存していたな。

 肥料を自分で作ったりもしたな。それでも、他の誰かがやっているような細々したことを纏めてしていただけだった。

「その細々したものが、細部にわたってまとまった書類として残っていたの。おかげでイチジマの街は、早くから立ち直っていけたの。もっとも、母さんの辣腕もすごかったけどね」

「それにしても、建国の父は、無いなぁ……」

 やっていたことは完全に趣味であり、そんな大それた称号をもらうのは畏れ多い。

「だってさ、シンちゃん」

「ははぁ、『建国の父』の称号は、お気に召さない様子、すぐに封印させていただきます。ただ、称号はすでにこの国の伝説となっておりますので、撤回は無理であることをご了承願います」

 自分では何もしてないのに伝説って……何の嫌がらせだ? と思うが、でも伝説を撤回する事は出来ないか。

 古事記とか日本書紀とか撤回しろって言っても無理な事は解る。

「国の根幹に関わりそうなので無理は言いません。ただ、俺のことをその称号で呼ぶのをやめてもらえれば良いです。王様」

「王様などと、恐れ多い、私のことは、シンタロウと呼び捨てていただきたく願います」

 ええ~、いくら子孫でも王様呼び捨てとか無理無理。

 しかもその名前って、昔の映画で見た勝○太郎思い出してしまう。

 何気に顔も似ている気がして来てますます無理そうだ。本当に俺の子孫なんだろうか? 信じれらない。

 似ているのは頭髪の量だけの気がするのだけど。


 でも、どうやって納得してもらおう。

 王様から見たら俺なんて、ひいがいくつ付くかわからないぐらいの爺さんだもんな。呼び捨てとか厳しいか。いや逆に赤の他人な気もするのだが。

 そうだ、撤回が無理なら、俺は別人ってことにしてもらおうと思い、王様にお願いしてみる。


「え、いや、しかし、『建国の父』たるトモマサ様の願いでもあるし……ヤヨイ様いかがいたしましょう?」

「ふーん、いいじゃない」

 軽い、軽すぎる、本当にいいだろうかと勘繰ってしまうが、言い出したのは俺だしな。

 これからの人生、伝説の人とかいうポジションで生きていくとか精神的に無理だしと思っていたら。


「とある宗教では主神として崇められているし、隠さないと大変なことになるわよ」

 ヤヨイが、ニヤニヤしながら更なる情報を出してきました。

 主神って……、ラノベなんかで最後に神にって話はあるけど、最初からかよ。

 完全な嫌がらせだ。絶対にばれないようにしよう。

「それでは、表向きヤヨイ様の養子ということでいかがでしょうか? 将来は、貴族として独立する予定の」

 国王補佐のおっさんが、提案してきた。


「親子逆転ね。楽しそうだわ。それでいきましょう。見た目も子供だし、トモマサって名前も珍しくないし、他は何も変えなくても行けそうね。手柄をたくさん立てて、最終的には母さんの家を継いでもらおうかしら? 今は、誰も名乗って無いしね」

 ヤヨイがすごく乗り気だ。

 にやけ顔がだんだん悪い顔に見えてきた。何させられるか怖い。出来れば21世紀と同じく農業して暮らしたいのだが――言い出せる雰囲気でないな。

「そうしますと、何も発表できないですね。せっかく私の代で、帰狭していただいたのに何もできないなんて。凱旋パレードを考えていたのですが……」

 王様が物凄く残念そうだ。


「そうそう、父さん、春から学校に行きたいそうよ。シンゴ君と同じ学年になるから仲良くしてあげてね」

 ヤヨイの言葉に、王様の横に座っていた男の子が立ち上がった。

「トモマサ様、第五王子のシンゴと申します。ともに勉強出来る事とても嬉しく思います。よろしくお願いします」

 シンゴ君、すごく爽やかに握手を求めてきた。

 イケメンで背も高い、しかも王子様、リア充の境地みたいなやつだ。

 俺の子孫だなんて信じられない。

 俺も、「よろしく」とちょっとカッコつけてみたら、後ろでヤヨイが笑ってやがった。

 娘よ、あまり父さんをいじめないでくれないか? 不相応な称号に、ただでさえへこんでいるのに……。

 そんな感じで、会談は終わった。


 会談の後、王城の横手の立派な墓地へと俺はやって来ていた。

 小高い丘の中央にかなりの大きさの石碑が建てられている墓地だ。

 これこそが、『建国の母』である妻と、『初代女王』である次女の墓だった。

 俺はゆっくりと石碑へと続く道を登っていく。


 振り返るとイチジマの街が一望出来る最高の場所だった。

 墓の前にたどり着いた俺は、そっと手を合わせ、目を閉じる。

 だが、あまり気持ちがこもらない。二人の死を聞かされたというのに不思議だ。

「まだ、2日目だもの心が死を受け入れてないのよ」

 俺が首をかしげていると、ヤヨイが教えてくれた。

 確かに、まだ実感がない。家に帰れば「おかえり」って出迎えてくれるんじゃないかと思ってしまう。

 そんなものか。と頭で納得した俺は、

「また来るよ」

 とつぶやいて墓を後にした。

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