第8話1.8 建国の父

 ヤヨイ、俺、アズキ、他数名のメイドが集まり、光に包まれた瞬間に景色が変わった。

 転移はあっさりと終了しイチジマの街に到着した。

「もう着いたのか。……呪文は、詠唱しないのか?」

「不要よ。戦いの最中に魔法名を言うことがあるけど、あれは他の人に魔法を使うことを教えているだけだし。大体、魔素に人の言葉が分かる訳ないじゃない」

 そりゃそうだが、言霊的な考えもあるじゃないか。

 魔法を初めて見る俺はかなりドキドキしていたのに、あの緊張を返してほしい。

 そんな思いをよそに、ヤヨイは到着した何もない部屋を出ていく。

 実は、到着したのはヤヨイの屋敷の転移用の部屋だ。

 この部屋だけは、いつ転移してきても良いように何も置いてないらしい。

 事前情報の無い場所に行く場合は、事前に入念に魔法で探ってから行く必要があり余計に魔素が必要になるそうだ。

 過去に、土砂崩れで地形が変わっていて土の中に転移なんてこともあるらしい。

 転移してきたものは、物質を押しのけるようなのでどこにでも行けるのだが、土の中だと転移後に潰されてしまうことも考えられる。

 慎重な運用が求められる魔法であるようだった。


 帰ってきて早々、俺はまたぼーっとしていた。かれこれ2時間ぐらい放置されている。

 ヤヨイはというと、やることがあるからと出て行ってしまい、またアズキもお茶を持ってきてくれてから、どこかに行ってしまった。

 話す相手もいない、暇つぶしのネットもない。退屈で眠くなってきた。

 寝て起きたら、元通りってことはないだろうなぁ……などと考えていると、頭をバシバシ叩かれた。

「やっと起きたわ。相変わらずなかなか起きないわね」

 ヤヨイだった。俺はうたた寝していたらしい。

「出かけるから、支度して」

 言葉短く告げるヤヨイに、どこ行くのか? と思ったが、教えてくれそうもない。

 それでも気になって聞いてみたが案の定、「来ればわかるわ」だって。

 俺は、「どこでも行きますよ~」と言いながら、付いて行くしかなかった。


 ヤヨイについて屋敷を出て、俺は驚いた。

 隣が城だったから。しかもただの城じゃない、ディ○ニー顔負けの白亜の城だった。

 もっとも出てきたヤヨイの屋敷も凄かったが。


 そんな白亜の城にヤヨイは用があるらしい。門番も顔パスで奥へ奥へと入っていく。廊下を右へ左へと曲がり、迷いなく進んでいった先で一つの部屋にたどり着いた。

 この時、俺は思っていた。もう絶対に1人では帰れないと。


 ヤヨイが徐にドアを開ける。すると中央辺りに円卓があり周りに椅子が10個ほどある会議室のようだった。

「ここに座って」

 その中で一つだけある豪華な椅子をヤヨイが指さす。

 その椅子を見て俺は思った。この椅子って王様とか偉い人が座る椅子じゃないのかと。

 だが立っているのにも疲れた俺は素直に座っておいた。

 するとヤヨイも隣の椅子に座ってくる。


 そして、ほどなくメイドが「お越しになられました」と、3人の男を室内に通した。

 入口辺りに立つ男たち、恰幅の良いおじさんが一人、派手なマントに冠なんてかぶっている。その右横に中学生ぐらいかな? 背も高い2枚目顔、左横に60代ぐらいの線の細いローブの爺さん。一列に並んでいる。

 俺も立ったほうが良いかと、立とうとした所で。

「ご生還、おめでとうございます。建国の父よ」

 真ん中のおじさんが祝辞? を述べた後、3人で頭を下げている。

 その言葉に俺はまたまた大混乱に陥っていた。


「……建国の父?」

 意味の分からない言葉である。

 訳が分からず、助けを求めてヤヨイを見てみる。

 するとヤヨイはにやにやと笑っていた。

「父さんのことよ。何か言ってあげれば?」

 事も無げに告げるヤヨイ。


「はぁ? ……はぁ~~?」

 部屋中に俺の変な声が響いた。

 何言っている? 二日前に目覚めたばかりの俺が『建国の父』なわけないだろう。

 目の前の男たちも、俺の変な声に困惑の表情を浮かべていた。

「ヤ、ヤヨイ? 何を隠している? ちゃんとわかるように説明してくれ。みんな困惑しているだろう?」

 俺、懇願である。

 その言葉に、一人ニヤニヤしていたヤヨイ、「しょうがないわね」と皆を座らせて説明してくれた。


 今、俺がいるこの国は丹波連合王国と呼ぶそうだ。

 領土は昔で言うところの九州から北海道まで広がっているとのこと。

 そして王都はイチジマの街で他の各都市は貴族たちが治める形式だそうだ。

 だが実際の所、納める領土はそんなに広くない。

 魔物が徘徊する世界であるため、点々と街があるだけだそうだ。


 そして重要なのはここからで、この国を作ったのが妻のムツキとヤヨイだという事だ。その後、国の形を作り上げた後に次女カンナを初代女王に置いた。

 最後に、目の前の男たちこそカンナの子孫、つまりは俺の子孫で、この国の国王、王子、国王補佐ということだった。

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