第12話1.12 相談

 朝食後、昨日と同じ部屋で待っていると、先生が来て授業が始まった。

「朝から、疲れていますね。どうかしたのですか? 悩み事なら相談に乗りますよ」

 朝から元気一杯のカリン先生だった。

「実はメイドが布団に入ってきて困っているのです」

 ちょっと恥ずかしかったが、正直に言ってみる。


 すると。

「なにそれ、のろけ? その年、メイドに手出したの? それならちゃんと最後まで面倒見ないとだめですよ。貴族なのだからそれぐらい出来るでしょう? え、あ、ひょっとして私を狙っています? ダメよ! 私は、優秀な魔法使いと結婚して子供作るのが夢なのですから。トモマサ君、確かに魔素量は多いですけど、いや、年下ですし、でもヤヨイ様の縁者……ありかも? いやいやいや、でも、どうしてもと言うなら」

 俺の相談から飛躍したカリン先生が、一人で盛り上がっていく。

「手なんか出していませんよ。ちょっと胸は触ったけど……。あれは不可抗力というかなんというか。とにかく、何にもしていません。カリン先生にも手を出す心算はありませんから」

 俺の断言に心なしか残念そうなカリン先生。

 手出しませんからね。流し目で見つめても。

 カリン先生の視線に俺が首を横にしていると、先生諦めたのか、話を進めだした。

「あー、メイドさんが一人で盛り上がっているのでしょうか? それって、ひょっとしていつも案内してくれる、犬獣人のメイドさん?」

「そうなんです」

「すごく綺麗な子じゃない。スタイルも良いですし。それに犬獣人さんは、とても忠誠心が高くて主人と決めた人には絶対に裏切らないらしいですよ。何が不満なのですか? 貴族なのだし、将来は、奥さんに愛人にと複数持つでしょ? 沢山子供作らないと周りが煩いですよ。結婚は、成人した16歳にならないとできないけですど、愛人なら問題ないですしね」

「そうなのですか⁉」

 色々驚きである。

 犬獣人の忠誠心と言い、貴族の複数妻発言と言い、本当に元日本なのか? と思ってしまうほどだ。


「トモマサ君、あまり、常識を知らないようですね? よっぽど大事に育てられたのかしら? 契約した授業範囲に、その辺の分野も入っているから構わないですけど。……そうですね。今日は、そっちの話をしましょうか。でも、その前に、聞かせてください。昨夜ちゃんと魔素の訓練はしましたか?」

「はい。色々見ました。部屋の中だけじゃなく、部屋の外も見てみました。その後、王城を見ようとしてから記憶がないですが。たぶん寝落ちだと思います」

 カリン先生が、青い顔している。

「トモマサ君、王城を見ようとしたの? 知らないって恐ろしいですね。体、大丈夫? あそこは、強固な結界が貼ってありますから、下手したら死にますよ。しかし、さすがですね、魔素量が多いとそんな遠いところまで見えるのですね」

 死ぬところだったとか恐ろしいことを言ってくる。

「体は、特に異変はないです」

 カリン先生が、

「はーーー、よかったわ。下手したら責任問題ね。本当に首が飛んでもおかしくないわ。これは、先に常識教えないと危険だわ」

 と自分の首を押さえながらぶつぶつ言っている。

「先生、心配かけてすみません」

 とりあえず、謝っておこう。

「気を付けてくださいよ。私の首のために」

 そういって魔法の危険性を話し始めた。かなり真剣に。怖い顔のつもりだが、こちらから見るとリスが威嚇しているぐらいにしか見えなくて、すごくかわいいのだが。

 昼からは世界の常識の話だった。

 貴族には変態が多いとか、見栄っ張りばかりだとか……。


「カリン先生、貴族に詳しいですね」

 一時間ほど後、アズキがお茶を持ってきたことで始まった休憩中に俺は尋ねる。

「私も、もとは小さな町の領主の娘だったのよ。魔物の侵攻で街が無くなって没落しちゃったけどね。よくあることよ」

 あまり聞かないほうが良いことだったかもしれない。

「心配しなくても大丈夫ですよ。優秀な魔法使いと結婚して街を復興させますから。そのためにお金も稼いでいますしね。トモマサ君、頑張って学園に入学してくださいね。ボーナスが出る契約なのですから」

 カリン先生、優秀な先生なのだろうが、こんなに何でも話して大丈夫なのだろうか? 貴族としては、ダメな気がするが? 今から心配しても仕方がないか。

 優秀な旦那さんを見つけることを祈ろう。


 この日は、ずっと貴族の話だった。

 主にカリン先生の苦労話。大変だったのですね先生。

 俺は何もできないけど応援しています。と心の中で祈っておいた。

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