第13話1.13 相談2
授業の後、アズキの奇行の相談にヤヨイに会いに行った。
夕食を一緒に取るからその時にも合うけど、後ろにメイドとしてアズキがいるから相談できないしね。
広い屋敷に少し迷いながら書斎に行くと、なにやら渋い顔つきで書類を読み込んでいるヤヨイ。
仕事が忙しそうだった。
「ちょっと時間良いかい?」
聞いてみると、ちょうど休憩のタイミングだったようで一緒にお茶を飲もうという事になった。
来客用のソファーに座り、少しの雑談の後。
「カリン先生は、どうかしら? 魔法学園のホープだという話だし、……大事な嫁候補なのだけど」
最後の方がよく聞こえなかったが、優秀な先生だよと言っておいた。
奴隷にはしないであげてねとは言えなかった。
「あら、先生のことではないのかしら?」
「ああ、アズキのことだ」
それを聞いたヤヨイ、気のせいか目が笑っている気がする。
「あの子、何か粗相をしたかしら?」
粗相をしたのは俺の方だが、そんなことは言えるはずもなく――起きるとなぜが布団に入っているという話をする。もちろん、胸をもんだことは除いて。
俺の話を聞いていたヤヨイ。
少し間をおいて少しあきれ顔で口を開いた。
「父さん、アズキのこと嫌いなの? 昔から犬好きで、よくご近所さんの犬ともじゃれていたじゃないの」
「いや、好き嫌いではなく、倫理的にどうかという話なのだが」
というか、アズキは犬扱いなのか? それで問題ないのか? そこを突っ込みたくなったのだが。
「貴族の倫理的には、何の問題もないわよ。むしろ推奨するわ。この国の人口増加のためにも」
カリン先生と同じような回答だった。
ただ、またまたヤヨイの目が笑っているのが気になる。
だから俺は、極めて真面目な顔で返す。
「ヤヨイ。俺は、目覚めてまだ数日。俺の中の常識は21世紀のままだ。当然のように、母さんを忘れた訳ではないのだよ。確かにあんなかわいい子に抱き着かれたら嬉しいよ。男なら生理的に嫌と思う奴はいないだろう。でもな、ダメだ。体は反応するけど、心が悲しくなる」
「そう。私の中では900年も前の話だけど、父さんには数日前の話だったわね。……ただね、亡くなる少し前の母さんが言っていたわ。父さんが生きて帰ってきた時には、ずっと母さんを思ってうじうじしているよりも新しい家族を持って生きて行ってくれた方が母さんも嬉しいって。だから、少しずつでいいわ、アズキのことも見てあげて。私、父さんとあの子とってもお似合いだと思うわ」
今度のヤヨイ、目が笑ってなかった。真面目に答えてくれたという事だろう。
しかし、母さんは亡くなる前にそんなこと言っていたのか。
少しだけ心が軽くなった気がした。
それでも。
「……本当にいい妻だったな。分かったよ。少し考えるよ。俺の将来だものな。でも、すぐには無理だ。そうだな、成人する16歳までぐらいには考えないとな。ずっと、ヤヨイの世話になるわけにもいかないしな……」
時間が欲しい。そう言った俺にヤヨイは肯いてくれた。
理解してくれたと思おう。と考えながらお茶を飲む。
するとヤヨイもお茶を口にしていた。カチャカチャと二人のカップの音だけが静かな部屋に響く。
だが俺は沈黙に耐えられなかった。俺の中ではまだまだ思春期のイメージのヤヨイ。
実際には1000年も生きているから、反抗期なんて既に住んでいるのだろうけど。気分的にどうしても落ち着かなくなり、話題を探して口を開いた。
「ところで、アズキって何歳だ? 俺の身体年齢よりかなり年上っぽいけど?」
「あの子は、12歳よ。獣人は成長が早いのよ。だから獣人は、特例で13歳から結婚できるわよ。なので、すぐにでも子供作って大丈夫よ。性別はどっちでもいいけど、やっぱり弟がほしいなぁ。父さん頑張ってね」
共通の話題を探した結果、やっぱりアズキの話だった。
おかげでヤヨイがにやにやしながら言ってくる。
今さっき、考えるって言ったところじゃないか。いきなり子作りとか無理だから。と思うが、それよりも驚きである。
あの体つきで12歳とか、どう見ても高校生。
それもかなり発育の言い女の子なのだから。
恐るべし獣人の成長である。
だけど理解できる部分もあった。
言動が子供っぽいところだ。直情的だし。心の成長は変わらないのだろう。いや、年齢上に幼い感じがするぐらいだ。
でも、まぁ、人の子とは言えない。
むしろ周りから見たら、中身40歳で子供の俺の方が変だろうから。
アズキを見る目とか、完全にオヤジだから。
その後も、それなら大人のメイドはどう? などと聞いてくるヤヨイと長い時間話し込んでしまった。
何しろヤヨイ、お見合い進めてくるおばさんみたいだから断るのに苦労した。
部屋を出るとき仕事の邪魔をしたとヤヨイに謝ったが、「急ぐ仕事じゃないから大丈夫よ」とのこと。
一安心して部屋を出た。
まぁ、長引いたのはヤヨイの話が長かったのが主原因なので文句を言われる筋合いもないのだが。
夜になり風呂上がりにアズキを部屋に呼んだ。いや何も言わなくても付いて来ているのだが。
「朝の話の続きだ」
俺が話し始めると、アズキが「はいぃ」と緊張して立っていた。
尻尾もピーンと立っている。
尻尾の動きで感情が駄々漏れだな。
これじゃ人は騙せないな。と笑みがこぼれる。
そして、ゆっくりと妻のこと、21世紀の倫理観。
子供にも分かるように、優しい言葉で説明した。
「アズキが、俺を好きなのは嬉しい。俺も、アズキを好ましく思う。けどまだ一緒に寝るほどではない。なので、布団に入ってくるのは止めてほしい」
最後の言葉に尻尾がうなだれ、寂しそうな顔をするアズキ。
そんなアズキが、何やら思いつめた顔をして口を開いた。
「トモマサ様、布団は我慢します。ですので、せめて一日2回、いや1回でいいです。匂いを嗅がせていただけないでしょうか?」
匂い? 変態か? と思ったが、アズキのあまりの力の入りように「いいよ」と言った。
いや言うしかなかった。
それに匂いだけなら、少しクンクンするだけで十分だろうし――などと思った俺の判断は大間違いだった。
なぜなら。
「ありがとうございます。それでは早速」
と、アズキが飛び込んできたからだ。
そして布団に押し倒され、すごい勢いで匂いを嗅いでいく。
俺が慌てて止めようとしても全く止まらない。
とても力が強く抵抗出来ないのだ。
俺が獣人の力の凄さを知った瞬間だった。
許可したのは俺だ。
仕方なく諦めて、自由にさせていると頭、顔、首、脇の下、足、股間まで匂いをかがれた。
最後は、腹に顔をうずめてクンクンと匂いを嗅いでいる。
ほんと犬みたいだ。なとと考えているが、そうでもしないと大変なのだ。理性を保つのが。
なにしろアズキの顔が腹にあるということは、そう胸は股間のあたりにある。
鼻をスンスンするたびに胸が股間に押し付けられる。立った、立ったよク○ラが――ではない。
胸に堅いものが当たっているはずだが、アズキは気にもせず夢中で匂いを嗅いでいる。
ひょっとして気づいていないとも思うが、12歳の子供に聞くことも出来ず――ただただ、我慢の時間が続いた。
「あ、アズキ、もういいかな?」
どれぐらい時間がたっただろうか。
理性が薄れないうちにと思い、俺は声を掛けた。
するとアズキ、我に返ったのか名残惜しそうに離れてくれた。
そんなアズキに恐る恐る声を掛ける。
「ちなみに、これまでも匂いを嗅いでいたのかな? こんなに激しく」
「さ、最初は、起こさないように隣でそっと嗅いでいたのですが、昨晩辺りは、止められなくなり今日と同じように嗅がせていただきました」
恥ずかしいのか顔を赤くして俯いているが、尻尾は嬉しそうに揺れていた。
俺が寝ると起きない体質なのは知っていたけど、あそこまでされても起きないのだな。
何とか起きられるようにならないと貞操の危険を感じる。そんなことを考えながらお願いした。
「次からは、もう少し穏やかに頼むよ。身が持たない。今日は、もう疲れたから寝るとするよ。お休み」
持たないのは、下半身だけだ。
子供の体は敏感だから。
「はい、努力します。お休みなさいませ」
一礼して部屋を出ていくアズキ。
そして一人になった俺は、即座にトイレに行ってすっきりしてきた。
俺が妻を忘れる日は早いかもしれない。
すまない妻よ。
刺激が強すぎる――。
ひとしきり、妻に謝罪した後、魔素の訓練をして眠りについた。
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