第102話2.40 閑話 個別訓練

 季節は6月の中頃、そろそろ梅雨が走り始める頃の出来事である。

 その日は、週の真ん中であるにも関わらず、世間的には休みであった。

 休日の名は、国王の誕生日そのままの命名であるが、数少ない国民の休日である。


「それで、結局今日もトモマサ君は、ソウイチロウ先生の研究室に篭ってるの?」

「はい、カリン先生。昨日遅くに帰られたトモマサ様を、お誘いしたのですが、『今が佳境なんだ、ゴメン』と仰られて断られてしまいました」

「むう、最近のトモマサはずっとそう言っておって。おかげで、全然、剣術の修行が進まぬのだ」

「にゃー!」

 朝から、彼女達が集まって愚痴を言い合っている。ついでにルリも不満げに鳴いている。

 スキンシップが足りないと。

 

 魔法学園に入ってから始めた魔導車開発。

 それにすっかり没頭しているトモマサに皆の不満が溜まりつつあるようだった。

「そう、仕方がないわね。いくら勉強が学生の本分とは言え、ちょっとやり過ぎですね。今晩にでも、こってりと絞らないと行けませんね」

「はい、カリン先生。よろしくお願いします」

 頷き合う2人、どうやら説教コースであるようだ。


「それはそうとして、今日は私たちだけで行きましょうか?」

「はい、私達とルリがいれば大丈夫だろうとトモマサ様からも許可は頂いておりますので」

 トモマサの奴隷であるアズキは、外出にもトモマサの許可が必要である。

 本当は形式的なものなので自由にして欲しいとトモマサも思っているのだが、真面目なアズキは頑なに許可を求めるのであった。

「それじゃ、行きましょうか。フクチヤマの領域へ」

 トモマサの許可を得たと聞いたカリン先生が言うと、アズキとツバメ師匠、そしてルリも大きく肯いた。


 3人プラス1匹は馬車へと乗り込む。馬車はヤヨイのところにお願いしていた馬車だ。

 屈強な男が御者席に座り、馬を操りイチジマの街を駆けていく。

「今日は、アイテムボックスを持つトモマサ君がいないから、あまり獲物を持って帰れないですね」

「そうですね。それにしても、カリン先生でも時空魔法は使えないんですね。不思議です」

 馬車の中で、カリン先生とアズキが話をする。

 ちなみにツバメ師匠とルリは馬車に乗って早々に夢の中へと入って行っていた。


「トモマサ君の家庭教師をしていた頃、ヤヨイ様に時間を頂いて直接レクチャーを受けたのですが、どうにも4次元とか虚数空間という考え方が理解出来なくて、そこで止まってますね」

 21世紀の日本人なら、ドラ○もんの4次元ポケットと言うだけである程度のイメージが伝わる話なのだが、アニメなどない現代31世紀、少し勉強した程度で同じイメージを理解する事は難しかったようだ。

「そうだったのですね。でもそれなら、今なら少しは使えるのではないのですか? かなり上がってこられてますよね。魔素量」

「確かに、今の魔素量なら使えるかもしれませんね。容量は少しかもしれませんけど」

 そんな事を言いながら、時空魔法の発動を試みるカリン先生。

 やがて大量の魔素を消費してようやく魔法の発動に成功する。


「あ、なんか出来たみたい。でも、魔素量の消費が激し過ぎてアイテムボックスを保持してられないですね。魔素がドンドン減っていく感じがします」

 言いながら慌てて魔法を取り消すカリン先生。

 そんなカリン先生にアズキが疑問を投げかける。

「アイテムボックスって魔素を消費するんですか?」

「ええ、もちろん。ただ、普通は、自然回復分以下なので目に見えて減っていく事は無いのですけどね」

 カリン先生の返答に納得の表情を浮かべるアズキは授業の内容を思い出していた。


 魔素、それは魔法を使うのに必要な物質であり、使用した分は体内で自然回復していく物質であると。

「それでカリン先生、大丈夫ですか? 魔素量の残りが少なくなったのなら今日は狩りを中止した方が……」

 心配そうに尋ねるアズキにカリン先生が元気に答えた。

「大丈夫よ。今、ステータス見たところだと2割ほど減ったけど、まだ25万は残ってるから」

「そうですか、それだけあれば安心ですね。それにしても、2割減って25万ですか。それでしたら、総量は……」

 カリン先生の言葉に含まれている数値から総魔素量を計算し始めるアズキだったが、計算が終わる前にカリン先生から返答が帰ってきた。


「今の所、最大で32万ほどですね。それでも、まだまだ増えてますけど」

「32万ですか。すごい数値ですね」

 人族の平均が100程である、魔素量。

 その中で32万なんて数値、はっきり言って人外である。 

 それでもトモマサの半分にも満たないのであるが。


「そう言う、アズキさんも結構上がってますよね? 私よりも長い事側にいるわけですし、ナニする回数も多いでしょうから」

「ええっと、私は、今4万ほどです」

 カリン先生の質問に顔を赤らめながら答えるアズキ。

 たまに一緒にナニしている関係にも関わらずカリン先生にですら恥ずかしがるアズキである。

 それが余計にトモマサを興奮させている要因でもあるのだが。


「ほらー、4万って、アズキさんも十分高いですよ〜。しかも獣人なんですから、実質40万って事なんですよ〜」

 馬車の中で和気藹々と繰り出される美少女2人の話。

 傍目には非常に癒される光景であるのだが御者席に座る男は顔を顰めてつぶやいていた。

「4万とか32万とか、あり得んだろ。ヤヨイ様からは、この子達を守れとか言われてるけど、そんな必要あるのかよ。まぁ、でもよ、命令だし、嫁と子達を養わないといけないしよ。いつもトモマサ様からも心付けを貰ってるから精一杯頑張るけどな」

 ブツブツと独り言を言いながら馬を進める御者の男。

 しばらくして、目的地であるフクチヤマの領域へと到着した。

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