第103話2.41 閑話 個別訓練2

 馬車を降りて10分ほど、アズキ達はフクチヤマの領域の外縁を歩いていた。

「日頃の魔法の練習成果を見るために、2人には今日、魔法だけで狩をしましょうか? 私も苦手な上級魔法を圧縮して小さくする練習をしますので」

 突然の提案に驚くアズキとツバメ師匠に向けてカリン先生は更に話を続ける。

「2人とも学園の授業で新しい属性魔法を覚えたのですから、それの練習をしましょう。それに、この領域の外周部で2人が普通に戦っても楽しくないでしょう? 一瞬で終わってしまうのですから」

 そう、はっきり言ってこのフクチヤマの領域、特に外周部の魔物はとても弱いのだ。

 それぞれ達人の域に達しているアズキとツバメ師匠にとってここの魔物など飛んでいるハエと変わりの無いものであった。

 そのためカリン先生の言い分は、とても理にかなっているのだが、折角の狩で暴れたいツバメ師匠がカリン先生に食い下がる。

「カリン先生、それだと数が取れぬが」

「ツバメさん、そもそも、アイテムボックスが無いので数は持って帰れません。なので大丈夫です」

「なら誰がカリン先生を守る? 私達が魔法に集中したら防御が手薄になるが」

「ルリが頑張ってくれますので大丈夫です」

「う……なら、なら、魔素が足りなくなったらどうする」

 食い下がったは良いが全てを返されて困っていたツバメ師匠の苦し紛れの言葉に、カリン先生が、これまでとは違う反応した。


「あら、そうですねぇ。それは、考えてませんでした。ツバメさんって今、魔素量如何程ですか?」

「今測ったら、2350だな」

 ひょっとしたら刀使えるかも? と思って元気に答えるツバメ師匠だったが、周りの反応が凄かった。

「え”、どうしてそんなに高いの……」

「もしかして、影でトモマサ様と……」

 そう言って、絶句する2人。


 しばらくの沈黙の後、カリン先生が重い口を開けた。

「ツバメさん、はっきりと言って下さい。嘘は無しですよ。……トモマサ君といつしたのですか?」

 突然の質問に頭に『?』を浮かべていたツバメ師匠であったが、カリン先生に「いつ、そのナニをしましたか?」と詰め寄られて始めて理解したようだった。


「私は、まだ誰ともナニをした事は無いぞ。いつもトモマサに断られている事をカリン先生も知っているはずだが」

「そ、そうよねぇ〜。トモマサ君も成人するまではと約束してましたしねぇ〜」

 あからさまにホッとしながら話をするカリン先生。

「それなら、何でそんなに高いのかしら? 鬼人族って獣人と同じで魔素量、低い部類の部族のはずなのに?」

「カリン先生、これは、もしかすると私の『匂い嗅ぎ』の時と同じでは無いでしょうか? ツバメさん、結構トモマサ様とお風呂に入ったり膝に乗ったりしてますし」

「あ、あ〜、なるほど。それは、ありますね。……それにしても、それだけで2000越えですか。昔の私が、1000を越えるのにどれだけ苦労したかと思うと、泣けてきますね」


 しんみりと昔を思い出すカリン先生にツバメ師匠が話しかける。

「それで魔素が切れた場合は……」

「何言ってるんですか、ツバメさん、それだけあれば切れる事なんて、まずありませんよ。思う存分魔法だけで戦えます」

 

 ツバメ師匠の思惑は完全否定された。


「今日は、ゴブリンの魔石が20とワイルドボア1匹ですね」

「3人プラス1匹では、十分では無いでしょうか?」

「それも、そうね」

 フクチヤマの領域からの帰り道、馬車の中で和やかに話すカリン先生とアズキ。

 その横でツバメ師匠は1人凹んでいた。

「魔素が全く切れなかった」

 そう、全く刀を振るう必要がなかったのだ。

 戦い始めこそアズキの飛ばした水球(ウォーターボール)やツバメ師匠の飛ばした風刃(ウィンドカッター)は、魔物では無く後ろの木を倒していたのだが、それも数回のみ。

 元々、運動能力の高い2人は直ぐにコントロール能力を手に入れ、ほぼ一撃で魔物をを倒すようになってしまったのだ。

 そのため魔素が切れるほど魔法を打つ必要もなく、狩の時間は終了を迎えた。

 そもそもツバメ師匠ですら人族の最高値を超える(トモマサの関係者を除く)魔素量を持っているのだ。

 簡単に無くなるわけがない。


「まぁまぁ、ツバメさん、魔石を取り出した時の刀捌きは見事でしたよ。ナイフいらない程でしたから」

 何とか慰めようとするカリン先生だったが逆効果だったようだ。

「剣術と解体術は別なのだ……」

 そう言って俯いてしまうツバメ師匠に、これ以上かける言葉はないと困ってしまうカリン先生だった。


 その夜、トモマサはカリン先生に絞られていた。

「トモマサ君、研究もいいですけど、ちゃんと休みを取ってみんなの相手をして下さい。特にアズキさんとルリはトモマサ君がご主人様なのです。分かってますか?」

「はい」

 布団の上で正座させられ、返事をするトモマサにカリン先生はなおも続ける。

「それに、私だって、休みの日には一緒にいたいのですよ。分かってますか?」

「はい」

 人差し指を立てながら、顔を近づけて話をするカリン先生。

「それでは、今から相手して下さいね」

 そう言いながら更に顔を近づけてキスしてくるカリン先生、自身が満足するまでトモマサを絞り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る