夏休み・上編
第104話3.1 出発準備
テストも終わり、魔法学園も今日で一学期を終わり明日から夏休みとなる。
そんな日の最後に、俺たちは、『S』クラス全員で集まって、ホームルームをおこなっていた。
「それでは、シンゴ王子とカーチャ王女もトモマサ君と狩り遠征に出かける予定で間違い無いですね」
今はカリン先生により、夏休みの予定確認を取っている所である。
「しかし、本当に良いのかい? 夏休み2ヶ月ともイチジマの町を空けて。しかも、数日前の打ち上げの時に決めたんだろう? 王族として仕事があるんじゃ無いのか?」
「大丈夫ですよ。トモマサ君。父様にもちゃんと許可を得ていますから。それに、いざとなればトモマサ君の転移魔法で帰って来れるんですすし」
「まぁ、そうなんだけどね」
そう、俺は、ついにヤヨイから転移魔法を教えて貰ったのだ。とか言いながら、実際には、無理やり教えられたのだが。
――あの時のことを思うと今でも震えが来るほどの恐怖と共に。
最初は、数学的な虚数や、高次元空間の話を聞かされた俺。
だが、なかなか理解できなかった。
そりゃそうだ。理系の大学を出たからと言って、そんな難しい話、早々に理解できるはずもない。
それなのにヤヨイときたら、鬼のような形相で鞭を引っ張り出して来たのだ。
俺が失敗するたびに、華麗な? 鞭さばきで床をバシバシ叩くヤヨイ。
もう少し、もうほんの少しでも俺の魔法発動が遅かったら、俺の心にとんでもないトラウマが刻まれていたに違いない。
本当に恐ろしい娘に育ったものだ。
そして覚えた転移魔法はというと、本当に便利な魔法だった。
以前行ったイメージの残ってることのある場所ならどこにでも飛べる魔法なのだから。
転移する重量と距離で魔素量が増えるらしいのだが、俺の桁外れの魔素量なら問題ないしね。
ただ魔素の無かった頃、
そこだけは残念だった。
代わりに転移魔法の副産物として時空魔法への理解が進みマジックボックスの容量が向上し、さらには一方通行魔法の復活まで出来てしまったので良しとしよう。
「それじゃ、引率の私を入れて6人ね。学園には申請しておくわ」
「先生こそ、2ヶ月も学園から離れて大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。学園長先生が融通効かせてくれたみたいだから」
いくら引率とは言え夏休み中ずっと学園に来ないのは先生としてどうかと思ったのだが、問題無いようだった。
流石にマリ教授は来られないらしいけど。
「私も行きたかったのだが、実に残念だ」
などと言っていたマリ教授だったが、本音は行きたくないようだった。
以前、1度狩りに同行した時、周りの皆が、あまりに強すぎて嫌になったらしい。
大人しく研究している、と言ってそれ以来、狩りには出ようともしなくなってしまった。
少しは戦いの経験をして欲しかったのだが、無理は言えない。
研究も、忙しそうだから。
「トモマサ君、出発の準備は整ってますか?」
「馬車も買いましたし、買えるのは、大体買ってますよ。後は、整備に出してた装備をクニサダさんの所に取りに行くぐらいですかね」
「分かりました。私は今日、夕方まで仕事ですので、私の分も受け取っておいて下さい」
「分かりました」
クラスでの話も終わり、カリン先生は、職員室に戻って行った。
2ヶ月も開けるのだから、やる事がいっぱいあるのだろう。
きっと。
シンゴ王子とカーチャ王女も準備があるとかで、王城に一度戻るらしく迎えの馬車に乗り込んで行った。
残された俺とアズキとツバメ師匠は、徒歩でクニサダさんのお店に向かう。
馬車の扱いも習ったのだが、まだ王都の真ん中で走る程の技量は無い。
免許取り立ての初心者のようなものなのだ。
渋滞する道は走れない。
「ところで明日は、どっちに向かって行くのだ?」
のんびり歩いてるとツバメ師匠が聞いてきた。
「とりあえずの目標地は、アリマの町の予定です。ヤヨイにちょっと頼まれごともありますし、何より温泉があるんで入りに行こうかと」
「おお、アリマの湯か。噂では聞いておる。あそこの湯は、鉄分の多い赤い湯だそうだな。それは、今から楽しみだ。何日ぐらいで着くのだ?」
「そうですね。のんびり狩りをしながらで10日ほどの予定ですよ」
温泉と聞いてツバメ師匠、小躍りしながら歩いて行く。
かなりの温泉好きのようだ。キノサキの湯でも楽しんでたしね。
その後は温泉話で盛り上がった。
ツバメ師匠は修行で各地を転々としていたらしく、アワラの湯やワクラの湯など古くからあって今でも残ってる温泉のことを教えてくれた。
やたらと北側が多いのは、師匠の父親の方針で修行は雪の中で、と雪国を連れ回されたかららしい。
なのでアリマの湯には行った事が無いとか。
何だか片寄ってるなとも思ったが、他人の教育方針に口出しする気は無いので黙っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます