第105話3.2 出発準備2


「クニサダさん、こんにちは」

「おう、坊主来たか。整備は終わってるぞ。確認してくれ」

 礼を言って一つ一つ確認して行く。

 流石、クニサダさん、見事な手入れがされていた。


「アリマの方に旅に出るんだって?」

「夏休みを使って、あっちの方で狩りをする予定です」

「おう、そうか、それなら一つ頼まれてくれないか? 実はな、最近あっちの方で取れる魔鉄の数が足りないんだよ。俺っちの工房では、刀にも防具にも使うんだが、そろそろ無くなりそうなんだ。ちょっと、採って来てくれないか?」

「魔鉄ですか? 良く知らないのですが、そんな簡単に取れるものなのですか?」

「ああ、魔鉄はな、魔素量の多い鉄の事でな、アリマの町の特産だ。アリマは、コウベの領域が近いせいか湧き出る湯に多量の魔素が含まれているんだ。その湯からな、魔法で鉄分を抽出するんだ。そうしたら、魔鉄の完成だ。坊主、魔法得意だろ? 一つ頼むわ」


 へぇ、温泉から鉄を作るんだ。知らなかったな。

 抽出は錬金魔法の授業で習ったし出来るんだろう。

 魔素は余るし、たくさん取ってこよう。


「取れるようなら取って来ます。とは言っても、初めて行く町なのでどうなるかは分かりませんけど」

「それで良いぞ。魔鉄製の刀なんて滅多に売れないからな。なんせ、この間、坊主が買ってくれた魔法刀で1年ぶりぐらいだからな」

 あの魔法刀も魔鉄が使われているのか。

 確かに高かったからなかなか売れないのだろうな。

 しかし、それでも素材は欲しいんだな、クニサダさん。

 資金繰りを心配してしまうのだが、余計なお節介なのだろうな。

 余計な事は言わず、整備代金だけ払って、店を後にした。


 その後も、屋台で美味そうな唐揚げや旬の夏野菜など、気の赴くまま大量買いして寮に帰った。

 買い込んだ食材は、夕食でも食べるのだが、当然食べきれないので俺のアイテムボックスに収納される事になる。

 そうやって、アイテムボックスの中には、様々な物が日々溜まってきていた。

 まぁ、大体が食料なので今回の旅でほとんど消費される事になるだろうが。


 その夜はヤヨイの屋敷で壮行会が開かれていた。

 出掛けるメンバーの他には、マリ教授、それに何故か、王様とシンイチロウ王子まで来ている。

 シンゴ王子とカーチャ王女も共に旅をするのでいてもおかしくないのだけど、偉い人がいると落ち着かないんだよな。


「父さん、ちゃんとアリマの町へ行って、この手紙渡してね」

 旅に出るにあたって、ヤヨイから頼まれたのは、手紙の配達だった。

 転移魔法があるんだから自分で届ければ良いんじゃないかと思うのがだが、そんな暇は無いわと言われてしまった。

 確かにヤヨイが突然行ったら、歓待や何やらで向こうにも迷惑がかかりそうではあるので仕方が無いのかもしれないけど。


「分かってるよ。真っ直ぐアリマの町に向かって手紙を届けるよ」

 俺の返事にヤヨイの顔が若干悪い感じでにやけてる気がする――この手紙届けて本当に大丈夫だろうか? 心配になって来た。

「トモマサ様、カーチャの事、よろしくお願いします」

 俺が考え込んでると、王様が声を掛けてきた。娘の事が心配のようだ。


「大丈夫ですわ。お父様。トモマサ様には、ご迷惑をおかけしませんわ」

「そうですよ。王様、カーチャ王女は、回復魔法の使い手、復元魔法も覚えてますし戦いでも必要な人材です。毎週の狩りでも十分に証明されてますしね」

「いえ、そう意味ではなくてですね。その……」

「父様、カーチャの事は、私に任せてください。トモマサ君も、心配しなくても大丈夫ですよ」

 王様の言葉の途中でシンゴ王子が割り込んで来て、全てを請け負ってくれた。


 王様の心配事は、よく分からないが王子に任せておけば大丈夫だろう。

 これまでもシンゴ王子がいる時には、カーチャ王女は大人しくしてたし。

 頼むよシンゴ王子、王女が奴隷にしてくれとか変な事を言わないように、しっかり見張っててくれよ。

 心の中でお願いする俺をよそにパーティーは進行していった。


 その後は途中で寄る町の話や魔物の話などで盛り上がった。

 マリ教授も今日は、あまり飲んで無いようだ。王族との係りも少しは慣れて来たらしい。

 それに今晩はマリ教授の番だし今日を逃すと次は2ヶ月後だ。

 飲み過ぎて春のようにはなりたく無いのだろう。

 俺は一人納得していた。


 そしてパーティの後。


 王族の方々が帰ってホッとしたのだろう、マリ教授、会場の隅の椅子に座っていた。

 俺は近づいて声を掛ける。

「お嬢さん、俺の部屋で休みませんか?」

 と。

 普段なら、まず出てこない言葉だけど、普段より着飾ったマリ教授が、ほろ酔いで色っぽく頬を染めていたのを見て思わず言ってしまった。


 言われたマリ教授はというと、暫くきょとんとしていたけど、さらに顔を赤くして

「私でよろしければ」

 と返してくれた。


 即興の小芝居に付き合ってくれるようだ。


 そして連れ込んだ部屋で――


「いや、そんなつもりは無かったの」

 というマリ教授に

「男の部屋まで来て、それは通じないよ」

 とか言って、楽しんだ。


 もちろん最後は、

「口で嫌がってた割に、体は正直だな」

 と言うのも忘れずに。


 アズキやカリン先生には少し早い楽しみ方だった。

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