第106話3.3 イソウの町
旅は順調に始まった。
朝からイチジマの町の南門を抜けて馬車で走っている。
御者席には俺が座って。
隣には退屈しているツバメ師匠を乗せて。
本当はアズキが、奴隷として私がやりますと言ってきた。けど俺は、御者の練習したいからと断ったのだ。
そのため、今、アズキはルリにブラシをかけている。こっちも退屈なようだった。
ルリは気持ちよさそうに寝ている。馬車の真ん中で巨体を伸ばして。
実はルリ、ひたすらに成長を続け、現在は猫と言うよりヒョウのような大きさになっている。
能力も上がり1人で、ワイルドボアを狩って来るほどである。
元は、普通の猫又だったのに何故ここまで大きくなったのか。
王城の調教師さんにも相談したのだが、明確な答えは帰って来なかった。
ただ、ルリを見て高魔素地帯で見かけられる特殊個体に似ているとも言っていた。
主人と魔素で繋がれているとも言ってたし、十中八九、俺のドラゴンをも凌ぐ魔素量が原因なのだろう。
そんなことを考えながら、馬車はのんびり進んでいく。
順調な滑り出しである。
もっとも、今の所は大きな町道を走っているので、当然であるのだが。
王都から出た瞬間に、魔物にでも会おうものなら問題である。
馬車から見えるのは、狩りに出かける傭兵や、荷物を積んだ馬車に乗って行く商人ぐらいだ。
「今日の予定では、イソウの町まで行って、近くで狩りをするんだったな」
「うむ、カイバラの領域は、小さいが、魔物が多い領域だと聞いている。たくさん狩りをしよう。トモマサ」
朝から馬車に揺られて数時間、既にツバメ師匠は完全に飽きているようだった。
見た目同様、子供のように。
言ってることは子供とは違い少々危険だが。
数時間後、イソウの町の門と、その横に立つ門番が見えて来きた。
門番は特に入退場のチェックをするでもなく、暇そうに欠伸をしている。
俺たちも、門番に軽く会釈をしながら普通に門を通り過ぎて町に入った。
町は王都が近いだけあって中々の大きさの町だった。
町並みもイチジマの町の庶民町に近く、瓦屋根の純日本風の家が並んでいる。
ごく稀にレストランなど洋風の建物もあるが。
町並みを眺めながらメイン通りを進んで行く。
すると『傭兵』と文字の入った傭兵ギルドの看板が見えて来る。
「まずは、傭兵ギルドで情報収集をしよう」
皆にそう言って、馬車を止める。
全員で行く必要もなさそうなので、俺と時間を持て余したツバメ師匠で向かう事にした。
傭兵ギルド、イソウ支所、平屋の小さな店舗ぐらいでイチジマの町の傭兵ギルド北門支所と同じぐらいの大きさである。
中に入るとカウンターが3つに掲示板と作りも北門支所と似た感じであった。
「いらっしゃいませ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
受付に行くと綺麗なお姉さんが笑顔で丁寧な言葉で問うてくる。
この笑顔に騙されて、馬鹿なことする傭兵がいるのだろうな。
でも、俺には、たくさん婚約者がいるから関係無いけど。とか思いながら、ギルドカードを提示して用件を伝える。
「えっと、イソウの町には初めて来たので、オススメの宿屋と、後、カイバラの領域に狩りにも行くので注意点とかをお聞きしたくて」
「承りました。まず宿屋ですが、こちらの宿泊マップをご覧下さい。オススメは、この『イソウ・イン』ですね。少し高いですが、サービスもセキュリティも上々のお宿です。魔獣も泊まれます」
渡された一枚の紙を見て、俺は感心してしまった。
へぇ、すごいな。宿泊マップなんてあるんだ、と。
宿泊マップには、10件ほどの宿が、大体の価格とともに書かれていた。
オススメ以外にも安宿や一棟貸切の宿なんかもあるんだけど、今日の所はオススメにしよう、と決める。
あんまり安宿だとカーチャ王女が嫌がるかもしれないし、高過ぎると俺が嫌だし、そういう意味で、『イソウ・イン』は、ちょうど良いと思えたから。
「続いて、領域の状況ですね。今の所は、危険な魔物の情報なども上がってきてませんので比較的安全かと。あと今、オークの買取りを強化しています。買取り額から5%アップです。良ければお持ち下さい」
「ありがとうございます」
礼を言って傭兵ギルドを後にした。
次の目的地の、『イソウ・イン』は、傭兵ギルドのすぐ近くだった。
馬車を降りて受付に行く。
「いらっしゃいませ。お泊りですか? お食事ですか?」
「2名ずつ3部屋、2泊ですが、部屋は空いてますか。後、魔獣が1匹に馬車も一台あります」
「2人部屋3つですね。大丈夫です。代金は1人一泊夕食、朝食付きで銀貨2枚です。魔獣は、主人の部屋で寝かせてください。食事は実費です。馬車は、2泊で銀貨1枚です。6名2泊に馬車で、銀貨25枚となります」
一泊、銀貨2枚って事は、2万円か。狩で儲けもあるだろうし、大丈夫だろう。
宿泊をお願いして、代金を払う。
旅に出るにあたって、財布は俺のアイテムボックスにしまっている。
アズキが持ってても取られるような事は無いだろうが、念のためだ。
「馬車は、裏の厩に係りの者がおりますので、そちらに回して下さい。貴重品などは置いておかないようにお願いします」
受付のお姉さんに宿泊証と馬車の預かり証を貰って馬車に戻った。
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