第56話1.56 狩り準備2
「だれだ、店の前でグダグダしているのは?」
あまりの大声に俺とアズキは吃驚して肩をすくめていた。
すると店の中から髭もじゃの迫力あるの男が出て来た。
背が低い、ドワーフのようだった。
「よう、クニサダ、久しぶりだな」
「なんだ、ツバメ嬢ちゃんか。また、あっちの店の奴らが嫌がらせに来たのかと思ったぜ。坊主たちは客か? 入りな」
ぶっきらぼうに告げる、店主クニサダさんとともに店に入る。
薄暗い店内は、壁一面に鍔も柄も付いてない裸の刀身が所狭しと並んでいた。
俺とアズキが見回しているとクニサダさんが聞いてきた。
「で、どっちが使う?」
「俺です」
「坊主か。手を見せてみろ。両手だ。ふん、まだ3,4か月か。あまり良い物はいらないな。ちょっと待っていろ」
俺の手を見たクニサダさんが、そう言って裏に消えてった。
「無愛想だろ? 口も悪いし。あれだから客が来ない。腕は確かなのだけどな」
ツバメ師匠が、苦笑しながら教えてくれる。
確かに口は悪いけど、手を見ただけで解るのだから本当に腕は確かなのだろうな。
「こいつを振ってみろ」
戻て来たクニサダさんが、一刀手渡してきた。もちろん鞘にちゃんと入った刀だ。
腰に差してから、抜刀して素振りしてみる。見た目より軽い。
木刀と同じように振れる。
俺の体に合っている気がする。
そんなことを考えていると
「おめぇ、才能ねえな。身を守るならそいつで十分だ」
ツバメ師匠に続いて才能無いって言われてしまった。
分かっていますよ本当に。
しかし、この人ほんとに口が悪いな。
客にそんなこと言ったら買ってくれないぞ、普通。と眉根を寄せているとツバメ師匠から突っ込みが入った。
「クニサダ、また、客を追い返す気か? それだから誰も買ってくれないのだぞ? 分かっているのか?」
「良いのだよ。買いたくないやつは買わなくて。で、坊主はどうする?銀貨30枚だ」
「使いやすそうですし、買いますよ。防具は無いのですか?」
店頭には刀以外一切置いていないが、良い物を取り扱っているらしい。
ツバメ師匠が教えてくれた。
鎖帷子にワイバーンの革で作った籠手に垂に膝まで守れる脚絆に兜と一式用意してくれた。
どうせなら、ワイバーン革鎧も欲しかったのだが、サイズが無いそうだ。
ワイバーンの革は結構貴重で、子供サイズの鎧は作ってないとの事だった。
「全部まとめて金貨2枚にしといてやるよ。今度、革が余ったら、小さい鎧も作ろうか?」
「いえ結構です。すぐに大きくなるので。その時、通常サイズを買いに来ます」
「そうかい。早く大きくなれよ」
そう言って、俺の背中をバシバシ叩いてきた。息が出来ないし、すげー痛い。
そうしている内にアズキが代金を払ってくれた。
「うぉ、こっちの嬢ちゃんは、すごいな。坊主の護衛か? 柔術か何かの体術か? とんでもない使い手だな」
アズキは相変わらずの高評価だ。
戦っているところを見たことがない俺には、まったく理解できない。
ベッドの上で勝てないのは知っているけどね。
「嬢ちゃんは、装備はいらないのかい? キラースパイダーの糸から作った良いものがあるのだが、どうだい?」
「私ですか? そんな良いものお金が無くて買えません」
アズキが申し訳なさそうに断っていた。
「アズキ、フクチヤマ実戦訓練に付いて来るのだよね?」
「もちろんです。トモマサ様の行く所にはどこでも付いて行きます」
どこでもって、風呂は良いけどトイレはやめてよね。
そんな趣味は無いので。
そんな妄想よりも。
「アズキの装備って見たこと無いけど、何か持っているの?」
「メイド服が最強の装備です」
アズキが胸を張って答える。
うーん、確かにその胸を包んだメイド服は最強だが、防御力は無いのではないだろうか? とか思っているとクニサダさんが笑い出した。
「がはは、面白い嬢ちゃんだ。けどその服でフクチヤマに行くのは止めときな。いくら手練れでも危な過ぎる。悪いことは言わねぇ、キラースパイダー装備買って行きな。護衛の身を守る物だ。坊主が金を払ってくれるだろ」
「そうだな。クニサダさんの言う通りだ。アズキもここで装備を整えて行こう。その格好では同行を許可出来ないしな」
「そ、それは困ります。分かりました。装備をよろしくお願いします」
クニサダさんが奥からアズキ用の装備を見繕ってくる。
アズキに武器はと尋ねると、
「ナックルガードのついた籠手と弓をお願いします」
との事だった。
キラースパイダーの防具は拳法道着にた形の服だった。
それに、金属製のナックルガード付き籠手、ハチクという魔物から作った弓。柔術家というより弓を背負った拳法家と言ったいで立ちだ。
装備が決まって代金を聞いたらびっくり、金貨3枚だった。
俺のより高いじゃないか。と思ったが何とか言わずに済ませた。
言うとアズキが気にするといけないから。
払うのはアズキだから知っていると思うけど。
アズキが代金を払うのを素知らぬ顔で見送って、店を出た。
クニサダさんは大喜びで、「久々にうまい酒が飲める」とか言っていた。
俺は良いもの置いているのだからちゃんと商売すれば売れるのにと思いながら屋敷に帰った。
装備を買った次の日の夜、仕事終わりのカリン先生がやって来ていた。
食後にまったり話をしている所で実戦訓練の話題になった。
「次の土曜に、実戦訓練でフクチヤマに行ってくることになったよ」
「また、急な話ね。……土曜日なら私も行けるわ。魔法の先生としては、教え子の初戦に付いて行くものよ」
カリン先生、変な理由付けているけど、ただ行きたいだけだと思うのだが、はっきり言うと機嫌を損ねかねないので黙っておいた。
「先生って、魔物の討伐経験あるのですか? ずっと、学園のイメージがありますけど」
「無いわよ。大体、普通の魔法使いは、魔物と戦ったりしないもの」
「それなら、討伐用の装備も?」
「持って無いわね」
完全な素人のようである。
付いて来る理由は今ひとつだが、優秀な魔法使いであるカリン先生が付いて来られるという事は、戦力的にはプラスになるので同行を許可した。
除け者にすると後が怖そうだし。
ただ、変な装備で来られて怪我でもされると困るので、後日装備をプレゼントする事にした。
クニサダさんの所に相談に行くとミスリルを練り込んだローブに大きな水晶のついた杖があると言うので購入した。
杖の材料は1000年を超える神社の御神木の樫の木で、属性魔法を強化する能力があるらしい。
ちなみに、この夜のカリン先生のサービスは凄かった。
プレゼントのお返しのつもりだろうか? 久々に深夜までナニして翌朝が辛いほどに。
カリン先生も赤い目をして学園に出勤して行った。
昼間に居眠りしてないといいけど。
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