第55話1.55 狩り準備

 入学が決まったあの日からカリン先生は、3日に一回は泊りに来ていた。

 今は学園内で新学期の準備に忙しいらしいのにわざわざである。

 教師派遣が入学試験の前に終わってしまったので、こうでもしないと会えないからだろうが、マメな事である。

 俺としては大変にうれしいのだが。


 今は一晩俺と過ごして学園に出勤するところだ。

「カリン先生、いってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

 お出かけのキスをしてカリン先生を送り出す。

 まるで新婚家庭である。

 送られる男女の立場が逆であるが。


 残った俺はというと、授業も始まらないので剣術の修行と魔法の自主練に精を出している。

 ちなみにルリも調教を終えて帰って来ている。

 体はますます大きくなり大型犬とタメを張れそうな風格である。

 それでも、まだまだ甘えん坊で俺を見つけると俺のそばに来て撫でて欲しそうに顔を擦り付けて来る。

 可愛いやつだ。


 そんな中、今日は剣術の修行の日だった。

 しかも朝から。

 最近体ができて来たとのことで、一日中修行する事になっている。

「ツバメ師匠、おはようございます」

「おはよう、トモマサ。今日も張り切って乱取りだ」

 ツバメ先生、12歳(見た目6歳)は今日も元気が有り余っているらしい。

 来て早々に木刀を振り回している。

 俺も防具を付け木刀を持ちツバメ先生の前に立つ。


「お待たせしました。よろしくお願いします」

「うむ、それでは、はじめ!」

 その瞬間にツバメ先生が突っ込んでくる。

 吹っ飛べ、とばかりに振り下ろされてくる木刀を自分の木刀で受けることに成功する。

 身体魔法を習った俺は、剣術の修行に活用している。とは言っても、筋力を強化しているのでは無い。

 動体視力と反射神経を強化しているのである。


 ふ、ふ、ふ、4か月前とは違うのだよ。4か月前とは。などと思っていると――

 さらに繰り出されたツバメ師匠の木刀を、受け止められずに吹き飛ばされた。

 ツバメ師匠の木刀が俺の木刀をすり抜けたのだ。

「何だ今のは? 油断するなと言っているだろう。さぁ、もう一度だ」

「す、すみません」

 吹き飛ばされた俺は回復魔法をかけながら立ち上がる。

 これまでとは違う動きだ、強化した動体視力でも捕捉できなかった。

 どこをどう、すり抜けたのか解らないが泣き言ばかりも言っていられない。


「もう一度お願いします」

 気合を入れて構える。

 すると、再度、ツバメ師匠が突っ込んでくる。

 一刀、二刀、よし! と思った三刀目でまた、すり抜けて来た木刀に吹き飛ばされた。

「刀身を追っているだけでは、だめだ。全体を把握しろ」

 何気に要求が厳しくなってないですかツバメ師匠。と心の中で突っ込む俺。

 次は、二刀目で吹き飛ばされた。


 木刀ではなくツバメ師匠の体を追っかけてみよう。

 俺は思い直して、突っ込んできたツバメ師匠の体から目を離さないように対峙する。

 一刀、二刀、三刀、四刀、五刀目で受け損ねて吹っ飛ばされた。

「今のは、良かったな。その感じを忘れるな。さて休憩にしよう」

「ありがとうございます」

 今はツバメ師匠の体を追っかけていたが、木刀がどこを狙ってくるのか感覚的に分かった気がする。

 視線や重心の位置から攻撃の順番が読めるようになってきたと言うことだろう。

 強化した動体視力と反射神経頼りの戦いで無く、戦闘経験も少しはついてきたようだ。

 本当に4か月前とは違っているようだった。


「そろそろ修行も終わりだし、最後に実践訓練をしようと思う。イチジマの町を出て、フクチヤマの魔物の領域に向かうつもりだ。なに、フクチヤマには、あまり強い魔物はいない。大した危険もないし、ヤヨイ様も了承済みだ。今週の土曜日だ。準備しておくように」

 茶を飲みながら休憩しているとツバメ師匠が軽い調子で言ってきた。

「突然ですね」

「うむ、今朝思いついていな。ヤヨイ様に相談したら、すぐに許可が出たぞ」

 ツバメ師匠、思いつきなのですね。

 まぁ、いずれは魔物とも戦う必要があるだろうし、ツバメ師匠と一緒なら安心だから良いですけどね。

 準備って何すればいいだろう? 装備とか持ち物とかかな? と思っていて気が付いた。


「そう言えば、俺、刀も防具も持ってないのですが……」

「何、それは困るな。よし、今日はこれまでにして武器屋に行こうではないか」

 また、唐突な返しだった。

 本当に思い付きだなと半眼になるほどの。


 かくして、ツバメ師匠に引っ張られ、アズキと共に商業街の端っこのほうの武器屋にやって来た。

 こじんまりした、あまり流行ってなさそうな武器屋だった。

「ツバメ師匠、ここですか? あっちの大きな武器屋のほうが良いのではないですか?」

「あっちの大きい店は、着飾った貴族用の実践では役に立たない武器しか扱ってない。心配するな。ここは私の行きつけでな、名より実を取る店だ。店主は目録までもらった剣士だから、半端な刀は置いていない」

 胸をはって紹介するツバメ師匠。子供が頑張っている感じがしてとてもかわいい。

 そんなツバメ師匠をめでていると突然、怒鳴られた。

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