第57話1.57 初陣

 日は進み、今日は狩の日である。

 朝からカリン先生を足して4名+ルリで馬車に乗りフクチヤマの領域横の街道を走っている。


 街道沿いは人通りも多いためほとんど魔物が出ない。

 素材目当ての傭兵か商人の護衛が退治してしまうからだ。

 そのため今日は、適当な所で馬車を置いて街道から福知山の領域に入り魔物を狩りに行く予定である。

 狩の間の馬車の護衛として御者には、屈強な男が二人乗っている。

 ヤヨイの屋敷詰の御者さんだ。

 結婚して傭兵を辞めて転職して来た人たちらしい。結構な手練れのようだ。

 ルリも何故だかついて来ていた。

 図書館行く時など全くついて来ないのに、狩には行きたいらしい。

 ルリの性格なのか猫の習性なのかは分からないが。


「この辺りで馬車を止めて魔物を探そう」

 ツバメ師匠の声で馬車が止まり、各々持ち物の確認など準備をしていく。

「3時間ほどで戻る」

 御者さんにそう言って、街道から外れて、ツバメ師匠、俺、カリン先生、アズキの順で進んでいく。

 この時、ルリは俺の横を歩いていた。

 そして、しばらく行くと大きな森に突き当たった。


「森の中は、危険が多い。魔物も強いしな。今日の所は、森の外縁部分を進もう」

 ツバメ師匠の先導で森には入らずに周りをぐるっと進んで行く。

 俺は辺りを見渡す。

 だが人工物は一切見当たらない。

 福知山、そこそこ大きな地方都市だったのに何にも残っていないようだ。

 20分ほど歩いただろうか。

 ツバメ師匠が突然、立ち止まり小声で指示を出してきた。

「あそこに、ワイルドボアが1匹いる。戦闘準備を。先手は、トモマサ、魔法を一発打って向かって来たところを叩き切れ。なに、危なくなったら助けてやるから思いっきりやれ」


 ワイルドボア、いわゆる野生のイノシシである。かなり大きいが。

 小声の指示に従い準備する。

 他の皆も準備出来たようなので、ワイルドボアの首めがけて風刃(ウィンドカッター)を打ち込んだ。

 ザシュ、ワイルドボアに着弾したと思ったら、そのまま首が切れてしまった。

 魔法が強すぎたようだ。刀を使うまでも無く戦闘が終わってしまった。

「ツバメ師匠、すみません、魔法だけで終わってしまいました」

「仕方が無い。実戦での魔法も初めてだろう? 加減が分からなくて当然だ。……それでも次は、最初から刀で行くか」

 そう言って、次の魔物を探して歩き出した。

 倒したワイルドボアは、俺のアイテムボックスにしまっておいた。

 街で解体してもらい自分で食べたり、販売したり出来るらしい。

 金には困って無いが、置いておくと他の魔物が寄ってくるらしいので持って帰る事にした。


 次に見つけたのは、ホーンラビットが三匹だった。

 このホーンラビット、体長が2メートル近くあり兎のくせにやたら好戦的な魔物ある。

 数も多いので、先ずはカリン先生の魔法で先制攻撃を仕掛ける事にした。

 カリン先生の火球(ファイヤーボール)が、一番近い一匹を捉える。

 左の後ろ足を真っ黒にして弱った所にルリが突っ込んで行って爪で喉元を切り裂いている。

 残りの二匹のうち一匹がツバメ師匠に、もう一匹が俺の方に向かって来た。

 俺はこちらに向かってツノを突き出して突っ込んで来たところを、体を躱して抜刀術で一閃。

 胴の辺りを深くえぐったようだ。

 フラついていたので振り返って上段から刀を振り降ろし、首を叩き切った。


 もう一体は? とツバメ師匠を見てみると、文字通り一刀両断。

 兎の体を真っ二つに切り裂いていた。

「流石、ツバメ師匠です」

「うむ、トモマサも上手く動けているな」

 師匠の技に称賛を送ると、こっちのことも褒めてもらった。

 幼女のツバメ師匠に褒められると何だかほのぼのする。

 ルリも褒めてとばかりに俺に頭を擦り付けて来るので、いっぱい撫でてあげた。

 目を細めて喜んでいる。


「きゃ」

 ほのぼのしている所に、カリン先生の悲鳴が聞こえて振り返る。

 木陰から新たに現れたホーンラビットが先生めがけて突進してきていた。

「危ない」

 俺が先生を庇おうと先生の前に体を入れた所で、突然、ホーンラビットが吹っ飛んで行った。

 見るとアズキが、目の前に立っていた。

「今のは、アズキが?」

「はい、私が投げました。差し出がましい事をして申し訳ありません」

 どうやったのかはさっぱり分からないが、柔術で投げ飛ばしたらしい。

「いや、アズキ、助かったよ。しかし、今まで見たことなかったけど、あの巨体を投げ飛ばすなんて本当に達人だな」

 俺の言葉に、アズキの尻尾がブンブン振れている。

 嬉しいらしい。


 投げ飛ばされたホーンラビットは、巨木に激突してフラついた所をルリの爪でトドメを刺されていた。

 戦闘終了である。

「アズキさん、助かった。私も詰めが甘かったな。いざとなったら守るとか言いながら、まだ、修行が足りないようだ」

 ツバメ師匠も、なんだかんだで12歳。見た目は、6歳だが。

 技は切れても魔物との戦闘経験は足りないようだった。

 その日は、後2回ほど戦闘を行った。

 魔物は、同じくワイルドボアとホーンラビット、油断をしなくなったツバメ師匠と元気一杯のルリの元、危なげなく倒しアイテムボックスに収納されて行った。

 もちろん俺も頑張って何体か倒した。

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