第58話1.58 初陣2

 そこから少し休憩を入れて歩き出す。

 15分ほど歩いた所で、ツバメ師匠が皆を止める。ルリも何かに警戒しているようだ

「気配を感じるな。隠れて見られている」

 俺は周りを気にしてみるが、何も感じられなかった。

「魔物が潜んでいるのでしょうか?」

 俺の問いにアズキが答える。

「隠れているのは人です。数は8名。恐らく盗賊でしょう」

「流石アズキさん、そこまで分かるのか」

 ツバメ師匠が、アズキの気配察知能力に驚いている。

「8名。多いですね。ツバメ師匠、このまま引き返した方がよいのではないですか?」

 こちらは4名。

 数でも負けている上に、盗賊と言うことは人だ。

 人と戦うのは気がひける。

 物を奪おうと潜んでいる人に説得など聞かないだろうし。

「大丈夫だ。トモマサ。私とアズキさんが入れば、盗賊の10人や20人軽く殺(ヤ)れるぞ」

 ツバメ師匠が無邪気な笑顔で物騒な事を言っている。

 その笑顔に少しゾッとするが、アズキを見ても無表情に肯いている。


 アズキも盗賊を殺す事に何も思う事はないようだ。

 31世紀では普通なのだろう。

 俺が怯んでいるのが分かったのか、カリン先生が説明してくれた。

「トモマサ君。盗賊を殺す事が嫌なようですけど、現代では必要悪とされていますよ。街中なら捕まえて衛兵に突き出せば、犯罪者として鉱山収監されて強制労働をさせられるのですけど、ここで捕まえても連れて行けませんし……殺すしかありません」

「そうなのですね。しかし、人殺しか……」

 常識が変わった事は分かっている。分かっているのだが


 ――俺に出来るだろうか。


「トモマサ様、悩んでいる暇は無くなりました。相手にも気付かれました。こちらに近づいてきます」

 アズキが冷静に告げる。

 既にツバメ師匠は、刀を抜いて迎撃態勢を終えている。

「トモマサ、無理はするなよ。人は、魔物とは違うからな。気を付けてカリン先生を守っていてくれ。ルリもあまり前に出ないように」

 ツバメ師匠の忠告を聞きながら俺も刀を抜く。

 少し手が震える。

 ルリもツバメ師匠の指示を理解したのか、カリン先生の横で身構えている。

 それに合わせるようにカリン先生も俺の近くで杖を構えていた。


―――


 トモマサが緊張して構えている間、アズキとツバメが小声で話している。

「アズキさん、トモマサは大丈夫かな? 人相手の戦いにかなり緊張しているようだが」

「そうですね。トモマサ様は、人殺しはもちろんのこと、人が殺される所も見た事がないようです」

「そうなのか。いくら王都の治安がいいと言っても盗賊が殺される所ぐらい見た事あるだろうに。よほど大事に育てられたのだな。うむ、ここは一つ経験して貰うか。アズキさん、どう思う?」

「そうですね。1人相手してもらいましょうか。気配からは、大した相手では無さそうですし。アフターケアはベッドの上で嫌というほどするとして」

 アズキとツバメが頷き合い、作戦が決まったようだ。


―――


 話を終えて間も無く、盗賊達が森の中から俺たちの前に飛び出して来た。

「ヒャッハー。上玉が揃っているじゃねえか。今晩は、楽しめそうだ」

「本当ですね。頭。あの犬獣人の胸見てくだせぇ。後ろの女も、たまりませんぜぇ」

「その上、良い装備つけてやがる。金もたんまり持ってそうですぜぇ」

 飛び出して来たのは6名。

 獣の革を鞣した服を着て、手には短刀(ドス)を持っている。

 見るからに山賊という言葉がよく似合う格好で好き放題言っている。

 アズキやカリン先生を見てヨダレを垂らしている奴までいる。


 それにしても、「ヒャッハー」って20世紀末のアニメでしか聞かない言葉だ。

 本当に使っているのだな。ちょっと感動した。

「何の用だ、主ら。突然出て来て、吃驚するではないか」

 俺が感動している間に、ツバメ師匠が頭と呼ばれた盗賊に話しかけていた。

「げへへ、この格好を見てわからんのか。俺たちは、盗賊よ。大人しくしていれば、命は取らないぜ。それどころか、たっぷり可愛がってやる。そこの男を除いてだがな。げへへへへ」

 下品な笑い声を出す、盗賊の頭。

 目線は、完全にアズキの胸に向いている。

 話をしているのは、ツバメ師匠なのに。

 ほぼ同い年の筈のアズキとツバメ師匠。

 種族の差とは言え、体の成長に差がありすぎるのだから仕方がない。

 だが。

「私が話をしているのだ。こちらを見ろ!」

 流石に腹が立ったのか、ツバメ師匠の顔に青筋が立っていた。

 そのせいか辺りの温度が下がった気がするのだが、盗賊達は気付いていないようだ。

「なんだ嬢ちゃん。嬢ちゃんも可愛がって欲しいのか? 困ったな、この中にロリコンはいたかな? げははははっ……ギャー!」

 笑っていた盗賊頭が突然悲鳴をあげる。

 いつの間にか振り抜いたツバメ師匠の刀で右腕を斬り落とされたのだ。

 さらに酷いのは隣にいた盗賊2人だ。2人は首と胴体が離れていた。

「貴様は、ただでは殺さん。存分に甚振ってやる」

 ツバメ師匠が完全に切れたようだ。

 普段は無邪気に笑っているけど、結構気にしていたのね。

 成長が遅い事。

 体の事でツバメ師匠を揶揄うことを決してしないと俺は心に誓った。

 その間にも、盗賊頭の左足が斬り落とされる。左隣の盗賊の胴体とともに。


「「「ギャー」」」

 ツバメ師匠に斬られた盗賊頭は、倒れて血を吹き出しながら叫んでいる。

 巻き添えの盗賊3名は即死。

 残りの2人も逃げ出そうとした所をアズキの弓で足を射られて苦しんでいる。

 正に阿鼻叫喚図であった。

「ツバメ師匠、怒らすと怖いですね」

 隣にいるカリン先生に苦笑気味に話しかけている俺。

 そう俺は、完全に気を抜いていた。

 戦いは終わったのだと……。

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