第59話1.59 初陣3
後ろからの襲撃に気づいたのは偶然だった。
カリン先生と話をするのに横を向いた時にたまたま視界に入っただけだった。
前に出て来た盗賊が6名。
最初にアズキが言ったのが8名。その差2名。
その2名がカリン先生目掛けて襲いかかって来たのだった。
恐らく、魔法使いのカリン先生なら不意を付けば倒せると踏んだのだろう。
もしくは人質にでもするつもりなのかもしれない。
気づいたら俺は、反射的に刀を振り抜いていた。
前を走ってくる盗賊に下段から胴へ一振り。
その盗賊の脇をすり抜け、後ろを走る盗賊へ向け刀を上段に構え、袈裟懸けに一振り。
毎日している型の一つだった。
ただ、それだけだった。
たったそれだけで盗賊2人は血を吹き出し倒れ、動かなくなった。
そして俺は、そこから動けなくなった。
血を吹き動かなくなった2人を見て固まる。
……殺した。人を殺した。
その事が俺の思考を縛る。
刀を構えたまま固まる俺の腕に温かいものが当てられた。それも左右から。
そう、カリン先生とアズキが俺の体を優しく抱いてくれていたのだ。
「トモマサ君、ありがとうございます。おかげで怪我もなく助かりました」
カリン先生が優しく声を掛けてくれる。
「トモマサ様、見事でございました。悪いのは盗賊です。あまり気に病まないでください」
アズキも優しく諭してくれる。
気付けばツバメ師匠も固まって動かなくなって俺の手から離れない刀から、指を一本ずつ剥がして行ってくれている。
「トモマサよ。よくやった。恐らく無意識であろうが、見事な剣さばきであった」
ようやく全ての指を伸ばして俺の手から離れた刀を鞘にしまってツバメ師匠はさらに話を続ける。
「そして、トモマサよ。カリン先生もアズキさんも言っているようにあまり気にするな。悪いのは盗賊だ。トモマサが殺(ヤ)らなくても誰かに殺されていた奴らだ。その上、殺(ヤ)るのが遅くなればなるほど被害が増える奴らだ。だから、な、気にするな」
ツバメ師匠も優しく諭してくれる。
おっさん(中身)が3人の少女(一部幼女)に心配されている。何だか、情けなくなってくる。
項垂れていると、ツバメ師匠にグッと顔を掴まれてブチューっとキスされてしまった。
「し、師匠、何を!」
「男が、いつまでもうじうじするものでは無い。今のはご褒美だ。私の初めてを喜んで受け取るがいい。これで、盗賊の件は終わりだ。いいな」
ツバメ師匠、無茶苦茶である。
ご褒美って幼女のツバメ師匠にキスされてもあまり嬉しく無い。
俺はロリコンでは無いので、と言おうとして口を閉じた。
さっき盗賊頭が言ってツバメ師匠が切れた所を思い出したからだ。
そっと盗賊頭を盗み見ると、四肢を切り取られ出血多量で死んでいた。
俺は口に出した後を想像してまた固まってしまった。
「どうした。まだ、動けんのか? そろそろ出発準備しないと帰る時間が遅くなるぞ?」
そう言いながらツバメ師匠が可愛く首を傾げている。
「あなたのせいですよ」
そんなこと俺は言えるはずもなく、笑って誤魔化しておいた。
俺が普通に戻ったのを確認したアズキとツバメ師匠が、盗賊達を集めて行く。
何をするのかと思ったら、焼いてしまうようだ。放置すると魔物の餌になるらしく、良くないらしい。
カリン先生が、火魔法で遺体を焼き出した所で、ツバメ師匠が大きな袋を一つ渡してきた。
「なんですかこれ?」
「ん? もちろん、盗賊の首だ。持って帰ってくれ。街に帰って衛兵に渡さないとな。もしかしたら賞金貰えるかもしれないしな」
爽やかな笑顔で生首を渡してくるツバメ師匠。
俺は何も言わずアイテムボックスに袋をしまった。
それから馬車での帰り道、真っ直ぐ帰るのかと思いきや街道から外れ出したのでツバメ師匠に問いただすと。
「盗賊頭が泣きながらアジトを教えてくれたのでな。溜め込んだ物を回収に行く」
などと言っている。
他にも、
「これが盗賊狩りの醍醐味だ」
などとも。
しばらく進むと、目立たない場所に木こり小屋のような建物を見つけた。
盗賊のアジトだ。
呆れる俺をよそにツバメ師匠は盗賊のアジトに正面から突入し、袋一杯の戦利品を持って帰ってきた。
その間、俺はカリン先生とルリと馬車で待機していた。
なにしろ付いてきていた御者さんですら、嬉々としてアジトに向かって行ったのだから。
ホクホク顔のツバメ師匠を乗せて馬車でイチジマの街まで戻り、衛兵詰所で盗賊の首を渡す。
そしてその場でしばらく待っていると、衛兵さんが金貨3枚渡してくれた。
盗賊頭だけは、賞金がかけられていたようだ。
人の命の値段としては安すぎる気もするが、盗賊なんて珍しいものではないので高い賞金はかけられないようだ。
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