第60話1.60 初陣4

 次は御者さんに教えてもらった解体屋で魔物の解体を頼んで屋敷に戻った。

 解体は、血抜きやらで数日かかるらしい。

 料金は、1体銅貨50枚、8体いたので、全部で銀貨4枚。

 半金の銀貨2枚前払いで後は、引き渡し時に払うと教えてくれたので、銀貨2枚渡して引換券を受け取り、店を出た。

 その後、まっすぐ屋敷に帰って風呂に入っている俺たち。

 湯気が立つ湯船に浸かって一息ついた所で、一つ気になった。


 湯けむりの中に、俺を含めて風呂の中に4人の影が見えたからだ。

「あれ、いつもより人が多いな?」

 アズキのこともカリン先生のことも受け入れてからは、一緒に風呂に入ることも多い。

 3人で入ることも多々あったのだが、今日はもう一人多かった。

 目を凝らして見えてきたのは、ツバメ師匠だった。

「ツバメ師匠、なんで入っているのですか?」

「皆入るのだ、私も入るのが普通だろう。前も、一緒に入ったでは無いか、今更遠慮するな。大体、その二人は良くて何故私はダメなのだ?」

 慌てる俺に、ツバメ師匠は平然と言い放った。

 その言葉に、アズキとカリン先生の冷たい視線が向けられる……気がする。


「いや、それは、二人とは深い仲というかなんというか、その……」

 俺、しどろもどろである。

「そうか、主らはそういう関係だったのか。ならば、私ともそうなれば良いでは無いか? うむ、この体ではちと厳しいな。ならば、これでどうだ?」

 そう言ったツバメ師匠、ぐっと気合を入れたかと思うと身体が一気に成長していった。

「ふう」

 と一息ついて近づいてくるツバメ師匠の体は、長身のグラマラスな女性そのものだった。

「な、な、な、なんで」

 戸惑う俺にツバメ師匠が告げる。

「鬼人族は、一時的に体を変化させることが出来るのだ。知らなかったのか? この体なら、深い仲にもなれるし、一緒に風呂にも入れるだろ? 問題解決じゃ」

 どこが問題解決だ。問題アリアリだろう。と俺は頭を抱えたい衝動を抑えて口を開く。

「ツバメ師匠、すみません。俺には、もう、アズキとカリン先生がいます。ですので、先生と深い仲になるわけにはいきません」

「何故じゃ、2人も3人も一緒じゃろう。細かいこと言わず、私も仲間に入れてくれ。昼間のキスは何も言わなかったでは無いか?」

 昼間のは、不意打ちだろう。確かにダメだともなんとも言わなかったけど。

 しかし、この人こっちの言うこと全然聞いてくれない。

 どうやって断ろう。俺がうんうん悩んでいる所にアズキが提案してきた。

「トモマサ様、ツバメ様を受け入れてあげられないでしょうか? 私からもお願いします」

 ま、またですか。アズキさん。今、俺断ろうとしていたよね。どうして受け入れようとするの? アズキに向けて非難の視線を向けていると横からも声がした。


「トモマサ君、私も受け入れてあげてほしいな。トモマサ君なら3人ぐらい余裕だよ」

 カリン先生でした。

 しかし、何が余裕なのですか。俺としてはアズキとカリン先生だけで十二分に満足ですけど。と半眼で見てしまう俺。

「トモマサ様、これは、以前もお話ししましがたトモマサ様の為に必要な事なのです。トモマサ様は、これから、たくさんの方と関係を持つよう勧められるでしょう。それこそ、全く知らない人や、トモマサ様が好きでも無いような人とも。それらをお断りするためには、ある程度の人数を受け入れている必要があるのです。それには、私とカリン先生だけでは全く足りません。幸い、トモマサ様はツバメ様をお好きなようです。私やカリン先生がおられなければ、受け入れているのでは無いでしょうか? それなら、嫌でないのであれば、受け入れてあげてもらえないでしょうか?」

 なんですか、その設定。俺、何人でハーレム作らないといけないの? 少し前まで妻一筋だった俺にその要求は、高過ぎやしませんか? そりゃアズキに続きカリン先生は受け入れたけど、そんな簡単にホイホイと次を受け入れるって、俺はそんなに軽くない。

 断るぞ、と思ってツバメ師匠を見る。目の前で立っているツバメ師匠を下から順に見上げていく。

 細く長い足、くびれた腰、形の良い胸、整った顔立ち、赤く綺麗な髪。ダメだった。断る言葉が出なかった。

 代わりに言ってしまった。

「だ、だめだ、成人するまではダメだ。もしツバメ師匠が成人しても思いが変わらなければ、そして俺も受け入れてもいいと思えば受け入れよう。この条件を受け入れられるなら、一緒に風呂に入ろう」

 その瞬間、ツバメ師匠に抱きつかれた。

 喜んでいるようだった。

 そして当たる柔らかい胸の感触が――スルスルと消えていき、元の姿、幼女に戻っていた。


 俺は再びアズキとカリン先生に視線を向ける。

 本当にいいのかとの確認を込めて。

 すると二人とも満面の笑顔を讃えていた。

 好きな男に新しい彼女候補ができたのだぞ。喜ぶところなのか? 心の奥で疑問に思う俺。

 残念ながら理解できそうにないのだが、31世紀では普通なのだろうか。

 本当に謎である。


 風呂から上がり夕食を食べた後、ツバメ師匠は自分の家に帰っていた。

 帰り際にキスされた。

 ナニもしないと言ったが、これぐらいは良いかな。

 見た目6歳の女の子だし、微笑ましい部類だろうから。


 実戦訓練で疲れたので、今日は早く寝ようと一人ベッドに入てうつらうつらしていたところで、アズキとカリン先生の二人がやって来た。

 二人とも薄いネグリジェでとても扇情的な格好で。

 二人が、ベッドの左右から入ってきて、「「今日は3人で‼」」とユニゾンで言われて眠気が吹っ飛んだ。

 昼間、盗賊退治を頑張った事へのフォローとツバメ師匠を受け入れてくれたお礼らしい。

 カリン先生は、助けてもらった礼も兼ねているようだが。


 二人とも実戦で気が冴えていたのか、とても積極的で――さらには、カリン先生の謎知識によりナニをナニされた俺は大興奮してしまった。

 結果、深夜まで頑張ってしまい、次の日は3人とも昼近くまで起きられなかったのは言うまでもない。


―――


 翌日昼前ごろ私が目覚めると、既にアズキさんは目を覚まして、眠っているトモマサ君を眺めていた。

「おはよう、アズキさん」

「カリン先生、おはようございます。朝、起きられませんでしたね」

 少し困り顔で話すアズキさん。どうやら今目覚めたところのようだ。

「全くだね。トモマサ君、ハッスルし過ぎだね。ちょっと煽り過ぎたかしら?」

 本当にすごかった。

 私一人で何回相手したことか。

 それに加えてアズキさんにも同じぐらい……信じられないぐらいの精力だ。

 

「ところでアズキさん、魔素量は幾つになりましたか?」

「『ステータス』、えっと、魔素量ですね。10532ですね。昨晩だけでも100ぐらい上がっています」

「はは、1万越えですか。最も魔素量が多いと言われているエルフを超えて帰狭者並みですね。しかも、まだまだ上がっているとなると先が怖いです」

 アズキさんの答えに思わず苦笑してしまう。

 獣人がエルフを超える魔素量を持っている。

 とんでもないことなので。


 何よりも獣人は、魔素量の90%を身体能力に使用していると言われており、ステータスに表示されているのはその余りだとか。

 つまり獣人の魔素量が1万という事は、普通の人にとっては10万という事だ。

 これまでの人類の中でも完全に未知な世界だ。

「そう言うカリン先生はいくつなのですか? 関係を持って2週間ぐらい経ちましたし、それなりに上がっているのでないですか?」

 アズキさんの問いに私も『ステータス』を表示して確認する。

「私は今9723です。昨日までは、8000台でしたのに。これまで、地道に魔素量をあげていたのが嫌になる程の上がり方です。嬉しいやら悲しいやらなんとも言えません。師匠が嬉々として勧めていた理由がよく分かりました」

 何年も地道な訓練で少しずつ上がっていく魔素量のはずが、一晩、それも痛くも苦しくもない、とても気持ちのいいことをしただけで大幅に上がってしまう。

 本当に反則みたいな上げ方だ。


「それで、トモマサ君の魔素量はいくつになっているのでしょうか?」

「確か、カリン先生と初めてなされた後に40万ぐらいに上がったとおっしゃっていましたが」

 さらに反則なのが、トモマサ君だ。

 なぜ魔素量の少ない私達より大幅に増加するのか。

 意味が分からない。

「その時で、40万ですか。昨晩の興奮具合から考えるとさらに上がっているかもしれませんね」

 私の発言に肯くアズキさん。

 視線は起きる様子の無いトモマサ君に向けられている。

 そして私もそんなトモマサ君を見て。


「そろそろ起こしましょうか」

「そうですね」

 起こすことにした。そして左右から抱き着く、私とアズキさん。

 さらに胸を押し付けると――うっすらと目を開けるトモマサ君。

 そして、私とアズキさんは息を合わせて。

「「トモマサ君(様)、おはよう(ございます)」」

 トモマサ君を起こしにかかった。


 その日は、起きてすぐすぐベッドから出た。

 明け方まで何してさらに寝起きでとか、いくら体が10代でも心は40代なのだから、自制心は持っているので。

 ちょっと残念だだけど……、いや、いや、いや、ナニもしないよ。そこまで飢えてないから。


 ちなみに、後で自分の魔素量を確認したら60万を超えていた……俺もう、人間じゃないかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る