第53話1.53 3人で仲良く2

 馬車に揺られること数十分魔法学園に到着した。

 昨日はさすがに緊張していたのか景色を見る余裕はなかったが、今日はのんびり外を見ながら来たものだから、ようやく魔法学園の場所が分かった。

「ここは、昔、三塚公園があったあたりだね」

「さすが、トモマサ君良く分かりましたね。この学園は、もともとの学校があった場所で始まったと本で読みました。その本によると後に、近くの公園跡地などを飲み込んで拡張してきたそうです」

 そうか、あの高台の古い建物のあたりは、市島中学校のあったあたりだ。

 ずいぶん昔に卒業した中学校にまた通うとはなんだか感慨深いな。と考え事をしていると、アズキがギュっと手を握ってきた。

 昔を思い出して悲しんでいると思って心配しているようだ。


「大丈夫だよアズキ。ちょっと懐かしくなっただけだよ。さぁ、寮の部屋を見に行こう」

 ちょっと無理があったかな? でも、ほんとに懐かしんでいただけなのだけどな? と思ったけど、それでもアズキは馬車を降りるまでずっと俺の手を握ってくれていた。

「こっちがトモマサ君の部屋です」

 カリン先生の案内で、学生寮を案内してもらう。

 学生寮と言えば汚い部屋に共同キッチン、共同トイレ、共同風呂が定番だが、魔法学園は全然違った。

「綺麗だし広いな……」

 間取りは、5LDK家族で住むような広さの部屋で、さらには応接室まである。

「王族と同じで、最も良い部屋ですから」

「もっと、狭い部屋でいいのだけど? 変更できないかな?」

 こんな部屋では落ち着かない。もっと庶民の部屋じゃないと余計に疲れそうだ。

「ヤヨイ様の親族なのですから、部屋のグレードを落とすことはできませんよ? トモマサ君本来の身分ならこれでも狭いぐらいだと思いますよ。下手したら、お城ぐらい建てられるかもしれませんね」

 やめてほしい。俺は、出来るならひっそりと暮らしたい。でも、言ったところで無理そうだ。それなら、波風立てず受け入れよう。

「わかりました。ここで良いです」

「私もここが良いです。ここなら、トモマサ様に毎日ごはんも作れそうですし」

「アズキさんは、使用人として一緒に暮らす事にしますか?」

「はい」

 アズキが嬉しそうに微笑んでいる。

 尻尾もはち切れんばかりに振られていた。


「それでしたら、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 カリン先生が、おずおずと聞いてきた。

 なんだろう? と俺は首を傾げる。

 するとアズキも首を傾げていた。

「私も一緒にご飯食べていいですかね?いいですよね。除け者にしないでくださいね」

 結構必死な要望だった。

 大丈夫だよカリン先生。

 なんなら一緒に暮らしてもいいですよ。


「もちろん、毎日作りますので食べに来てください」

 俺がうんうん肯いていると、アズキも同じ気持ちだったのか大歓迎していた。

 寮内を見て回って、必要なものをピックアップしていく。

「あまり、買い足さなくて大丈夫そうだ」

「そうですね。前の方がかなり置いて行かれたようですね」

「それでも気にする貴族の方は、新しいものに買い替えられますけどね。トモマサ君は気にならないですか?」

 うーん、もともと俺はド庶民だし使えるものを捨てる気にはなれないな。

 もったいないし。

 それでも。

「別に中古でも使えれば気にしないけど、一つだけ買い替えたいものがある」

「え? なんでしょう? 調理道具とか興味なさそうですし、カーテンとか絨毯とかもっと興味なさそうですし? 気になりますね」

「それは、ベッドです。あのベッドでは、3人で寝るには狭すぎます。もっと大きなものに買い替えましょう」

 俺の力説にアズキがきょとんとしていた。

「ははは、トモマサ君、そうですね。確かにあのベッドだと3人では狭いです。大きなベッドだと誰も除け者にならずに寝られますね。さすがトモマサ君です」

 カリン先生ほめすぎです。そこまで考えていません。ただ広いと色々出来そうだと思っていただけです。

 きょとんとしていたアズキもカリン先生の言葉にすごく賛同してくれた。

 二人の絶賛に、だんだん恥ずかしくなってきた。

「部屋が狭くなるから今のベッドでもいいかも?」

 なんて言ってみたが、時すでに遅し。

 どうやら買うのは決定したようだ。

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