第52話1.52 3人で仲良く

「長湯しすぎてのぼせました。カリン先生がこんなにエッチだなんて知りませんでしたよ」

「私も知りませんでした。初めてなのにこんなにも気持ちいいなんて。本では分からない知識ですね」

 風呂上がりに二人手をつないで部屋に向かう。

 カリン先生の手、とっても暖かかった。

 

 二人で薄暗い廊下を歩き、角を曲がると部屋の扉の前にポツンと佇む影があった。

 アズキだった。

 困り果てた顔をして、さらには恐怖におびえるように尻尾まで股の下に丸めたアズキが立ち尽くしていた。

「どうしたんだいこんな夜中に? 眠れないのかい?」

「トモマサ様……」

 俺の呼びかけに、初めて気づいたとばかりに顔を上げたアズキ、小さくつぶやいた後またうつむいてしまった。

「部屋に入って温まろう」

 近づくと見えてきたアズキの真っ青な顔に驚き、俺は促す。

 だが。

「いえ今日は、カリン先生の日ですので、私は戻ります」

 震えながらも拒むアズキ。

 それなら何をしに? と首をひねっていて思いついた。

「……もしかして、匂いが嗅ぎたくなった?」

 この言葉にアズキの肩がびくっと震えた。


「すみません。最近は、まったく匂いを嗅ぎたいなんて思わなかったのに、どうしても我慢できなくて部屋の前まで来てしまいました」

「アズキ、実は俺をカリン先生に取られると思って、除け者にされると思って、寂しかったのじゃないのか? だから、急に匂いが嗅ぎたくなったのじゃないのか?」

 アズキが涙を流していた。

「寂しかった……そうかもしれません。カリン先生すみません。二人の邪魔をしてしまって。お二人が私を除け者になんてしないと分かっているのに……すみません」

 泣いているアズキの頭をカリン先生が抱きしめた。

 背の低りカリン先生、かなり背伸びをして。


「アズキさん、大丈夫ですよ。さぁ、部屋に入りましょう。今日は3人で寝ましょう。そうしましょう。いいですね、トモマサ君」

「もちろん」

「でも、もうエッチな事は無しですよ。3人となると、あんな事やこんな事を……とても恥ずかしくて出来ませんから……」

 カリン先生、何するつもりですか? 本当に初心なのにどこで知識を得て来るのだろう。

 じっくり聴きたい。

 そんなことを思いながら俺は、アズキとカリン先生両方を抱きしめて3人で布団に入った。


 俺の右にアズキ、左にカリン先生、川の字になって寝ている。

 アズキは俺の胸のあたりの匂いを嗅いでいるうちに眠ってしまったようだ。

「アズキさん、お父さんを取られるみたいで寂しかったのでしょうね。体はすっかり大人なのに、心はまだまだ子供なのですね」

「そうかもね」

 お父さんか、確かに実年齢的には、お父さんでも不思議ではないな。

 何にしても、俺にカリン先生と関係を持つように勧めるアズキ、何も思ってないのかと思たが独占欲に近い感情はあったようだった。何だか安心した。

 感情の奥深くでは、自分だけを見ていてほしかったのだろうと思えて。

 そんな思いを知って、さらに愛おしくなったアズキにそっとキスをして、俺も寝ることにした。

 もちろんカリン先生にもキスをした。

 カリン先生のキスは、かなりディープなヤツだった。

 エッチな事はしないと言っていたのに……。

 二人の体の柔らかさと温かさに包まれてそんなことを思っていると、ほど無く意識を手放した。



「カリン先生、昨晩は申し訳ありませんでした」

「いいのよ、アズキさん、あなたのおかげでここにいる様なものだから気にしないで」

 話し声がして、ふと目を覚ます。

「二人ともおはよう」

「「トモマサ君(様)、おはよう(ございます)」」

 左右からユニゾンで挨拶が聞こえてくる。

「今日も寒いなぁ」

 言いながら二人を抱き寄せる。3月も終わりだからそんなに寒くないのだが。

「「きゃ」」

 二人のが聞こえたが気にせずギュっとすると二人もギュっと抱き着いてきた。柔らかくて温かい最高の抱き枕だ。ずっとこうしていたい。

「トモマサ様、カリン先生、今日のご予定は、如何いたしますか?」

 しばらくすると、アズキが聞いてきた。

 今日は日曜だ。俺は特に予定はない。カリン先生も学園は休みなので特に予定はない様だ。何もないなら3人で出かけようと提案してみた。


「それは、いいですね。トモマサ君もヤヨイさんも新生活に向けて色々買うものもあるだろうし、ショッピングに行きましょうか」

 そうだな学園の寮がどんなものか知らないけど、必要なものは買わないとね。

 幸い金はある。ちょっとダークな金だけど。


 朝食をとりながら必要なものを挙げていく。

 制服や着替えなどは当然必要なのだが、ベッドや調理器具なんかは寮を見てみないと分からない。という訳で、まずは寮を見に行くことにする。

 既に卒業生は、退寮しており部屋はいつでも入れるとのことだったので。

「昨日、試験が終わったばかりだというのに、もう部屋が決まっているのですか? 魔法学園の先生は優秀ですね」

「いやいや、王子たちとトモマサ君の部屋だけですよ、決まっているのは。アズキさんは使用人としてトモマサ君のところに行くかどうかですし。他の人たちは、試験の結果が出たのが夕方だから、さすがに明日以降に決める予定ですよ」

 なるほど、そりゃそうだ。

 合格決まらないのに部屋割りはできないわな。などと思いながら、朝食の後ものんびり話していると、メイドが馬車の手配ができたと呼びに来た。

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