第161話4.24 コハクを巡る戦い

 これは、全く止める気は無いな。

 コハクの顔を見て確信を得る俺。

 そうこうしているうちにまた突っ込んでくる青年を躱し、ついでにコハクにも離れて貰い仕方なく青年と対峙する。

 何で俺がと思わなくは無いが、今あの青年を落ち着かせる為には戦って勝つのが一番だと思い全力で対応する事にする。

 本当は負けてもいいのだが、青年の様子から身の危険を感じるので却下した例え後で面倒な事になったとしても。


 と言うわけで、全力戦闘である。

 いつものように先ずは、重力魔法で動きを封じる。

 相手はコハクと同じ龍人族だし、手加減なんて要らないだろうから。


「『重力上昇(グラビティ・アップ)』」

 龍形態のコハクを落とした時と同じぐらいの魔素を込めて魔法を発動する。

「グォ! なんだこれは。体が重い。だが、この程度では私のコハクへの愛は止められない!」

 臭いセリフを吐きながら、俺に突っ込んでくる青年。

 流石に少し動きが鈍い。


「そこだ!」


『バキィ』


 青年が近寄った所にカウンターの形で軽く出した俺の拳が、青年の顔面にヒットする。

 だが、青年を止めるに至らず、俺目掛けて次の拳を突き出してくる。

 拳を突き出したままだった俺は、なんとか体勢を立て直し辛うじてその手を避ける。

 危ない所だった。

 だが安心している場合ではない。

 目の前では拳を突き出している青年がいるのだから。

 俺は、青年のがら空きの腹をめがけて次の拳をアッパー気味に突き出す。

 青年の体が浮き上がりそうになるが、空かさず重力魔法を強化して体を沈めさせる。

 それでも倒れない青年。

 腹を殴打されて若干苦しそうではあるが。


「クソ! まだだー!」

 またまた、懲りずに突っ込んでくる青年。

 他の動きはないのかと思うが、怒りすぎて視野が狭まっているだとうと勝手に納得する。


 それにしても速度がかなり落ちているし、もう勝負はついている気がするのだが、如何すれば終わるのだろうか?

 考えてるうちに、また拳を突き出す青年。

 それに合わせてカウンターを突き出す俺。


 それから10回? 20回? 同じ事を繰り返しただろうか? とうとう最後の時が来る。

 突っ込んでこようとする青年が、何もない所で転けた。そして、青年は呆気なく気を失った。


 ようやく、戦いは終わった。


---


戦いを終えた俺は、彼女達に囲まれていた。

「全く、いつの間に手を出したのですか?」

「流石、トモマサなのだ、手が早いのだ」

「言ってくだされば、同じお部屋にしましたのに」

「私には、いつ手を出して貰えるのですか? ひょっとして放置プレイ? それはそれで、興奮します〜」

 思い思いの事を言う彼女達。

 ああ、最後のは、カーチャ王女だ。

 彼女じゃないし、内容的に彼女にしたく無い。

 そんな事より皆に真実を告げないと、そう思って俺は話をする。


「皆、誤解だよ。俺は、コハクとはなんでも無いんだよ。ほら、コハクからも何か言ってくれよ」

「私はー、トモマサのー彼女ー」

 元ののんびり口調で話をするコハク。

 いや、もうネタはいいよ。

 これ以上、親子喧嘩に巻き込まないでくれ、と思ってコハクの顔を見ると至って真面目な顔でコハクがこっちを見返してきた。


「本気で言ってるの?」

「うんー、本気ー。ダメー?」

 いや、ダメかと言われると、神々しい程の美貌を持つコハクだ。

 全然ダメじゃ無いけど。

 でも何でだ? と思っているとコハクが教えてくれた。


 どうやら、龍人族も力が全てとまでいかないまでも結構な実力主義であるとの事だった。

 そのため、コウベの領域でコハクを倒した(実際には、操られていたのから解放しただけなのだが)俺に従うのは吝かでは無いとの事だった。

 また助けてくれた恩も返したいそう思っていたそうだ。

 だがコハクでは、俺の希望が分からない。

 だからカリン先生に相談したそうだ。


 そこでカリン先生が返した言葉が、

「ダメだよ。コハクちゃん。トモマサ君の要望なんて聞いたら、きっと手を出そうとするから。それを希望するのならコハクちゃんが、トモマサ君を好きになってからにしないと」

 だそうだ。

「カリン先生、俺、色魔じゃ無いのでそんな事言いませんよ」

 って突っ込んだが、皆に違うの? みたいな目で見られた。心外だ。


「そもそも、龍人族と人間って付き合えるのか? 結婚して子供は出来るのか?」

 俺の問いに、コハクは衝撃の事実を伝える。

「大丈夫ー。そもそもー、私の母様はー、人間ー」


「「「「⁉」」」」

 俺は元より、皆が驚て固まった。そんな雰囲気の中、コハクの話は続く。間延びした言葉で。

「スワ湖のー伝承でもー残ってるはずー。人間の娘をー嫁にしたとー。他の地方ではー、龍の娘とー結婚とか言うー話もーあるはずー」

「そう言えば、そんな昔話ありましたね。あれは事実なのですか?」

 ただの昔話が実話である。

 その話に驚いたカリン先生が、再度コハクに確認する。

「そうー、事実ー。私のー母様はースワ家のー人ー。カリンちゃんにーそっくりー。だからーカリンちゃんー大好きー」


 そう言って、カリン先生に抱きついていくコハク。

「するとコハクちゃんは、私のご先祖様!?」

 コハクの激白に驚きまくっている、カリン先生。

 そして、俺はコハクの話に興奮していた。

 コハクの話を拡大解釈すると、日本昔話には実話があると言う事だ。

 それってつまり、大変革前の21世紀以前も意外とファンタジーだって事だ。


「はぁー、衝撃の事実ですね。龍神伝説は、脚色された話だと思ってましたから。……まぁ、その話は、置いておきましょう。取り敢えず、今大事なのは、コハクちゃんが、トモマサ君をどう思ってるかですね。ちゃんと好きになって交際を申し込んでますか?」

 話を元に戻すカリン先生。

「カリンちゃんのー次にー好きー。それにー、父様もー倒したー。もう、トモマサ君しかいないー。結婚するー。子供、作るー」

 いやコハクさん、いきなり結婚に子作りですか。

 もうちょっと順序を踏まないと。

 そもそもカリン先生の次に好きって、どう言う事? なんて考えていると、皆が口々にコハクに告げていく。


「それなら、問題ありません。後は、トモマサ君の気持ち次第です」

「コハクよろしくー」

「コハク様、トモマサ様の魔素量増加のために共に頑張りましょう」

「放置プレイも良いですけど、やっぱりベッドで虐めて欲しいです」

 どうやら皆、受け入れても構わないようだ。

 と言うより、もう既に受け入れている感があるほどだ。

 最後のカーチャ王女の言は、放っておくとして。


 そして、俺は思案する……振りをしている。

 なにしろ、考えるまでもなく答えはもう出ているから。

 神々しい程の美人のコハクが、好きだと言ってくれている。

 彼女達も受け入れてくれている。マリ教授はいないけど……。

 それにしても断る理由がない。ますます、精力回復魔法に頼る事になりそうだけど。


 そしてそして、満を辞して俺は答える。

「龍人族程長生きはできないと思う俺だけど、それで良ければ付き合ってくれ。結婚とか子作りとかは、俺が成人してからになるけど」

 答えを聞いたコハクが、カリン先生から離れて俺に抱きついて顔を胸に埋めてくる。

 そんなコハクの顎に俺はそっと手を当てて顔を上げさせて、優しくキスをした。

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