第160話4.23 スズランの村
翌朝、遅くに俺達は宿を出た。
昨晩は、カリン先生とマリ教授に散々に求められ夜遅くまでナニしていた。
ノリクラ岳の後、両親に会いに行く事を約束したカリン先生は分かるのだが、何故マリ教授までと訝しんでいると、どうやらマリ教授も同じく両親に会って欲しいそうだ。
アズキの両親に会ってる俺を見て羨ましくなったそうだ。
さらには。
「子供が欲しい」
とまで言い出したマリ教授。
これもアズキの弟であるクロエ君を見て羨ましくなったようだ。
「20歳なら子供がいて普通なのよ。友達も皆、子持ちなの。お願い、トモマサ君」
そんな事を言いながら部屋でも風呂でも寄りかかってくるのだから、ちょっと、いやかなり疲れた。
本当、精力回復魔法があって良かったと心から思う。
普通の貴族が、どうやって何人もの女性を満足させているのか聞きたくなるほどに。
ちなみにマリ教授には
「子供は、ご両親に挨拶してからね」
とお茶を濁して躱しておいた。
「さて、俺達は行くけど、ヤヨイ、ちゃんと帰るんだぞ。マリ教授、ヤヨイのこと頼みましたよ」
「分かってるわ」
「うむ、ヤヨイ様はちゃんとイチジマでメイド長に引き渡すよ。それより、気をつけてな」
俺はアイテムボックスから出した魔導車に乗り込む皆を見ながら、イチジマに帰るヤヨイやマリ教授と話をする。
ルリが後ろから荷台に乗り込んだところで俺は、マリ教授に「行ってきます」とキスをして魔導車に乗り込んだ。
まるで、会社に行く旦那を見送る若妻である。
そして、魔導車を飛び立たせ一気にノリクラ岳の麓の村を目指した。
---
「さぁ、ヤヨイ様、帰りましょう。メイド長も待ってるし、トモマサ君から預かった宝石の解析もありますので」
「マリ教授、分かってるわ。でも、ちょっとだけ土産物屋見てっていいかな、メイド長にも渡したいし」
トモマサの言いつけ通り、すぐに帰ろうとするマリ教授に対して僅かながら抵抗するヤヨイ。
だが目上の人であるヤヨイに「ちょっとだけだから」などと頼まれてしまっては、断れないマリ教授。
仕方なく、「本当にちょっとだけですよ」と許可してしまう。
その言葉を聞いて笑顔で駆けていくヤヨイ。
そしてそれを追いかけるマリ教授。
かくして、長い長い土産物を漁る旅が始まった。いや、流石にその日のうちには、帰ったけどね。
---
魔導車で空を飛ぶ事、1時間ほど、俺達は21世紀で言うところの『安房峠』を抜けスズランの村近くへと到着していた。
「焼岳噴火したんだな。上高地が完全に形を変えていたな」
俺は、本当はオクヒダの街から真っ直ぐ上高地を抜けてノリクラへと向かうつもりだったのだが、上空から見た焼岳がモクモクと噴煙を上げてるのを見てルートを変えたんのだ。
風上を通るようにと。
その時にチラッと見えたのが
「ヤケダケ? カミコウチ? この辺りの呼び名ですか?
俺の言う地名が分からないらしいカリン先生が聞いてきた。
山とそこに囲まれた渓谷の名前だと告げるが、やはり知らないらしい。
魔物のいる
まして噴火してて、魔物がいなくても危険な場所なのだから。
山好きだった俺としては、哀しい限りだが仕方がない。
気を切り替えて、スズランの村へと入ろうとしたところで門番らしい爺さんに呼び止められた。
「こんにちは。見かけん顔じゃな。このスズランの村に何の用かの?」
「こんにちは。僕たちは、旅の傭兵です。アズサミズ神社の神主様にお会いするためにやって来ました」
そう言いながら傭兵ギルドのギルド章を見せると、門番の爺さんの目が少し鋭くなった。
いや、老眼なだけかもしれないけど。
「そうかい。旅の傭兵さんかい。何にもない村じゃが、ゆっくりして行っておくれ。アズサミズ神社は、この突き当たりを左に曲がってしばらく行けば見えてくるよ」
「ありがとうございます」
門番の爺さんに礼を言い、門を潜る。
ポツポツと建っている古びた民家を抜けて門番の爺さんの説明通り進んで行くと、民家よりも更に古びた神社が見えて来た。
「ここー、父様のー、家ー」
そう言いながらコハクが近づいて行くと神社の中から1人の青年が飛び出してコハクに抱きついた。
「コハクー!」
コハクに頬ずりしながら名前を叫ぶ青年。
深緑色をした髪を持つ、見目麗しい美青年だ。
それが、神々しいまでの美女に抱きつくのだから、まるで愛おしい妻が帰って来て歓喜に沸く一枚の絵のような光景であるが、抱きつかれているコハクの方は、そうでは無かったようだ。
唐突に青年の顔を鷲掴みにして押しのけたのだ。
「父様、うざい! 今日は大事な話をしに来たの! 離して!」
いつものノンビリとした口調と違い、ハッキリとした物言いで拒絶するコハク。
だが青年も負けていない。
今度は顔を掴んでいた手を両手で掴んで頬擦り始めたのだ。
慌てて手を引き戻して睨みつけるコハク。
「父様。全く変わってない。私は、もう大人なの! ベタベタしないでって言ってるじゃないの!」
かなりお怒りのコハク。
俺は呑気に普通に話せるならそうして欲しい何て思ってると、話が変な方にむき出した。
「父が娘にベタベタして何が悪い。それとも、まさか、男でも出来たのか! そうか、そうなんだな。大事な話とは、男を紹介しに来たのか! 俺から娘を取る男は、……お前か‼」
何だ、この三段論法、意味が分からない。
俺はそう思うのだが、言い出した青年は物凄い怒気を含んだ顔で俺を睨んでくる。
目が危ない。早く誤解を解かないと。
「ち、違いま「そうよ。この人が、私の彼氏。アシダ トモマサ君よ」」
俺が今否定しようとしているところに、コハクの声が重なる。
しかも、俺の腕を抱きしめながら。
俺が唖然としているうちにコハクの話は続く。
「彼は、凄いのよ。凄いお金持ちの貴族なの。それなのに魔道具の開発とかしてすごく真面目に働いているの。神社に篭って何もしていない父様と違ってね。今回は、彼が結婚を申し込んでくれたから、一応、父様に知らせようと思って会いに来ただけなの」
「こ、コハク、何言って「き、貴様ー! 許さん。絶対に許さんぞ! 決闘だ!」」
いくら父親が鬱陶しいからって嘘八百並べるコハクを止めようとしたが、ちょっと遅かったようだ。
目の前の青年の怒りが爆発してしまった。
顔を真っ赤にして叫んでいる。
「ちょっと待ってください。なんで決闘なのですか?」
「喧しい! 娘が欲しくば、俺を倒して奪って行け! その度胸が無いものに娘は渡さん‼」
いかん、完全に頭に血が上ってる。
周りの人に助けを求めようにも、皆、何だか俺を白い目で見ている。
まるで、「いつの間に手を出したの?」とでも言わんばかりだ。
その視線に対して俺が、「誤解だー!」というより先に、コハクが更に体を密着させて頭を俺の肩の上にコトンと置いて「ごめんねトモマサ君。私達の将来の為に父様を倒して」とか言うものだから大変だ。
何せ青年が、拳を握りしめて突っ込んで来たのだ。
怒りが限界突破したのだろう。
俺は、慌てて脳と身体に身体強化をかけてコハクを連れて避ける。
避けられた青年は、そのまま樹齢数百年はありそうな木にまで突っ込んでいって木をなぎ倒していた。
「ちょっと、話を聞いて下さい! お父さん!」
俺は、必死に懇願する。
しかし帰って来た答えは、
「誰が!お父さんだー!」
である。
火に油を注いでしまったようだ。
そして青年は、またまた突っ込んでくるので慌てて避ける。
今度は、青年も木にまで突っ込まずに止まっている。
このままでは、不味い。
コハクに何とか止めてもらわないとと思って顔を見ると、これまで見たことのないほど輝いた笑顔で父親を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます