第197話5.17 思考
ゆっくりと流れる景色の中で俺は考える。何が起こっているかを。
まず第一に気になるのは、アズキが何故急に俺に攻撃を仕掛けて来たかだ。視界の端に写るアズキに意識を集中する。
すると、ぱっと見では分からないぐらい少しだが首筋に不自然な魔素の揺らぎを見つけた。
その揺らぎを、よくよく確認して見ると、小さな何かが取り付いているのに気付いた。蛇型のゴーレムだった。
恐らく、コハクを操っていたのと同じ類の道具だ。原因が分かれば対策を、と考えだした俺、若干絶望した。あのアズキから、ゴーレムを取り除く術など見当もつかなかったから。何度も投げられた模擬戦からどれ程も日にちは経っていないのだから。
だが、何か方法が……と考え直しだして、気になった。――なぜ、俺はまだ生きているのか、と。
あの模擬戦で嫌というほど痛感したアズキとの実力差。さらには、ヌマタ男爵大威張りのゴーレムまで居て――なぜ、凌げているのか。
俺は戦いの内容を思い出す。だが、やはり訳が分からない。アズキが手加減しているとしか思えなかった。
操られているのに手加減出来るのか? コハクの時でも心の声では、『頑張る』と言っていたけど、全く手加減する気配などなかった。
なのに、なぜ? と再びアズキの動きを思い出していて――さらに変な事に気が付いた。
尻尾が、あの感情に直結して動く尻尾が、物凄く嬉しそうに振られていた事に。特に、俺がぎりぎりでアズキの拳から逃れた時や、上手にゴーレムの剣を避けた時に。
そして、一つの推論に達した。――実は操られてない?
それしか考えられなかった。
ただ、それならなぜ、俺に攻撃してくるのか。そこは分からないままだったが。
ともかく、俺はアズキの状態を確認するため、脳への身体強化を解除した。
瞬間。
超高速で迫ってくるアズキ。だが、俺の目でも辛うじて追える速度だった。俺は、アズキの拳を避けつつ、ぼそりと口を開いた。
「アズキの最も感じる性感帯は、尻尾と耳の付け根だ!」
効果覿面だった。
驚いた時の動きだった。尻尾をピンと立てたアズキ、慌てて俺から距離を取り出した。
だが、俺は逃がさない。迫ってくるゴーレムを避けてアズキへと迫る。そして、再度口を開いた。
「一番、感じる行為は、その付け根を爪でカリカリされる事だ!」
決定打だった。『ボン』という音が聞こえそうなほど、顔を真っ赤にしたアズキ。
気付けば俺は、投げ飛ばされていた。恥ずかしすぎて体が勝手に動いた。そんな投げだった。
そして投げられた俺はというと、迫る壁に、魔法と受け身で対応していた。おかげでダメージを受けなかった俺。再び、脳への身体強化で考え始めた。
やっぱり、演技だったと。そこで気になるのは、なぜ、そんな演技をする必要があるのかだった。
――こういう時は、大体、ヤヨイが関係しているよな。
ため息をつきたくなる俺。仕方なく、騙された振りをすることにした。アズキを敵中へと送り込む事に、若干の心配はあるけど、下手に計画を潰してヤヨイに文句を言われても困るから。
「それでも、騎士型ゴーレムだけは倒す!」
叫びながら、俺は拳を突き出そうとするアズキに重力魔法かける。すると動きを止めるアズキ。
そこに、騎士型のゴーレムが大剣を振るってきた。
俺は、魔鉄製『ドラゴンごろし』でゴーレムの大剣を受け止める。大剣の半分ぐらいにめり込んで止まる魔鉄製『ドラゴンごろし』。非常に重たい攻撃だった。
3m近いゴーレムが振るう大剣だ。材質もかなりの硬さなのだろう。ひょっとしたら、魔法がかかっているのかも知れない。魔鉄製『ドラゴンごろし』でも斬り捨てられないなんて。今更ながら、腕の無さが悔やまれるがどうしようもない。
「この野郎!」
俺は叫びながら身体強化魔法を強化して、魔鉄製『ドラゴンごろし』振り抜く。すると、辛うじてゴーレムの大剣を叩き斬る事に成功する。だが、また重力魔法が弱まったようだ。アズキから風魔法が発せられる。体勢を崩されながらも辛うじて魔法を避ける俺。本当にギリギリである。
そこに、ゴーレムが斬られた大剣を捨て体当たりをして来た。
「そこだ!」
ゴーレムの突進、今迄の大剣の攻撃と比べると、間合いの関係でほんの少し余裕が取れた。
その僅かな余裕を生かす。脳への身体強化魔法を発動し、ゴーレムの魔素の流れを確認する。
すると、鳩尾の辺りにコアがある事が確認出来た。
後は簡単だった。突進して来るゴーレムのコア目掛けて、魔鉄製『ドラゴンごろし』を突き出すだけだった。
「がはぁ」
結果的に、ゴーレムのコアを貫く事は出来た。だが、コアに集中し過ぎたためか、ゴーレムの速度を見誤っていたようだ。
ゴーレムの突進を交わす事ができなかった。壁に全身を強かに打ち付けられて血反吐を吐く俺。意識が朦朧として来る。
「はっはっはっ、ここまでだな。もう動けまい。こちらも時間のようだ。後は、自分の魔素で動くゴーレムの自爆に巻き込まれて死ぬが良い。さらばだ。この雌犬は、俺が存分に可愛がってやるから安心しろよ」
こちらを見下していたヌマタ男爵。そう言い置いて、アズキと共にどこかへ転移して行った。
そして、俺は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます