第198話5.18 ユウキ

「トモマサ様、大丈夫かな」

 アズキとトモマサの戦いから辛くも逃げ出した、ユウキは休憩を取っていた台所に隠れて息を潜めていた。

 さっきまでいた、謁見の間からは少し離れているにも関わらず、『ガキン』とか『バーン』とか戦いの音が漏れ聞こえて来る。


「大丈夫だと言ってたけど。まさか、アズキ先輩が、あんなに強いなんて」

 信じられないと言う顔をしながら1人つぶやいているユウキ。今日初めて会った上に、ここまでは、たまに意見を言うだけで基本トモマサの後ろで微笑んでいるだけのアズキしか知らないユウキでは、考えもつかない事なのだった。


 そんな事を考えながら、どれぐらい経っただろうか。数分の気もするし数時間の気もする、そんな時に『ドガーン』と言う大きな音と共に屋敷が揺れたかと思うと、それ以降、戦いの音が聞こえなくなった。


「音が……しなくなった。どうなったんだろう。まさか、殺された? いやいや、そんな事は、でも……」

 段々と心配する気持ちが強くなって来るユウキ。


「ちょっと見に行こうかな、でも逃げろって言われたし……。でも、戦いが終わったのなら」

 とうとう、1人に耐えられなくなったようだ。忍び足で謁見の間の前の廊下に向けて進んで行った。そして、ユウキが辿り着いた廊下で見たものは、砕け散ったゴーレムと気を失っているトモマサだった。


「トモマサ様!」

 大慌てで飛び出して行くユウキ。トモマサの横に座り込み状態を確認する。

「うん、息している。目立った外傷も無し。でも、こういう時って動かしたらまずいんだっけか? でもでも、ここにいたら音を聞いた兵士が来るかもしれないし」

 生存を確認しホッとするユウキだったが、次に起こす行動について悩み始めてしまった。1人でブツブツとつぶやく。

「うーん、困った。アズキ先輩は、計画通り、おられないし。ヌマタ男爵とか言う人について行ったのかな? まぁ、考えても分からないか。それよりトモマサ様よね。うん、多分ここには仲間の人達は来れ無さそうだし、何処か目立たないところに移動しよう!」

 悩んでいたユウキ、細い体でトモマサを背負って歩き出した。少しフラつきながら。そして、ユウキが廊下の角を曲がったところで、『ボン』という何かが爆発する音がした。

「なになに、何なの? 何か爆発した? 危なかった。本当に危なかった。あのままあそこにいたら爆発に巻き込まれて死んでいるところだった。良かった。移動して本当に良かった」

 ユウキ危機一髪である。大きく胸を撫で下ろすユウキ。胸の膨らみは、小さいのだが……。


 それから、しばらく歩いたユウキ。たが、体力が続かなかった。自分より背の高い男を背負っているのだから。近くの部屋に入って隠れることにした。

 扉を開けて部屋へ入るユウキ。入った部屋は、メイド達の作業室兼控え室のようだった。10畳ほどの部屋の壁際には、湯を沸かす設備と、お茶道具が入れられた食器棚が設置されており、部屋の中央には机と大きめのソファーが置かれていた。

 取り敢えずソファーにトモマサを寝かせたユウキ、ようやく一息ついた。


「ふぅ〜、流石に男の人は重たいね。これ以上は、歩けないや」

 1人で長い息をはき、トモマサが寝るソファーに座り込む。

「さて、どうしようかな? 1人では、敷地の外には出れないし、トモマサ様を起こすしかないか。一応、カンラの街で少しだけアズキ先輩からトモマサ様の起こし方聞いたんだけど……」

 1人つぶやくユウキ。何故かエルフ特有の長い耳の先まで真っ赤だった。ただ、トモマサを起こすだけなのにアズキに一体何を聞いたのか。

 しばらくして、ユウキはトモマサを起こしにかかった。


―――


 段々と覚醒して行く意識の中で、俺は暖かいものに包まれていた。

 そこで俺は、ふと疑問に思う。

――俺は何で寝てるんだっけ? 何か大変な事があったような……

 微睡みの中、思考を巡らす俺だったが、なかなか思い出せない。そんな中、俺は口を塞がれている事に気が付いた。更には、口の中に入って来る物がある事にも。

――アズキ?

 即座に俺は、犬獣人のメイド、アズキが毎朝してくれる俺の起こし方を思い出していた。なかなか起きない俺に、毎朝ディープなヤツをして起こしてくれる事を。

――あれ、アズキ、戻って来たんだ。

 そう思った俺は、包まれている暖かいものを抱きしめる。そして、口の中に入って来ている物を押し返し、俺の物を相手の口の中に入れ返す。

 いつもの幸せな時間を堪能しつつ、抱きしめている手を動かしていると、1つ違和感を感じた。

――あれ? 何か違うな? 何が違う?

 何だか分からないけど、抱いてしまった違和感。それを確かめるために、更に手を動かして確認する。

 そして、違和感の正体を知った。


 胸が無かった。


 あの大きくて柔らかくて、顔を埋めるのに最高のクッション。肌触りもシルクのように滑らかで上を向いても立ち上がっても形の崩れない至高の塊。アズキのおっぱい。それが、無かったのだ。

 その事実に驚愕した俺は、大きく目を開ける。

 そして、俺の目に映ったのは、目を閉じて一生懸命に俺にキスをしているユウキの姿だった。

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