第199話5.19 方針
「な!」
大慌てでユウキの両肩を掴んでを引き剥がす俺。突然の行動に驚いたのだろう、ユウキも目を開けて驚愕の表情を浮かべていた。
だが、その表情は、すぐに羞恥の表情へと変わっていった。俺の口とユウキの口を繋ぐ一筋の糸を見つめながら。
「や、やっと、起きたんだね。トモマサ様」
そんなユウキが絞り出すように口を開く。そんなユウキに俺は、非難がましく告げた。
「ユウキよ。なんて起こし方するんだ!」
「いや、アズキ先輩がいつもこうやって起こしているって言ってたので……」
改めて恥ずかしくなったのだろう、横を向いてボソッとつぶやくユウキ。
「はぁ、アズキは、彼女だからこの起こし方でもいいけど、ユウキは違うだろう? こういう事は、付き合った男とするように」
俺が、そんなユウキに釘をさすとユウキが疑問を返して来た。
「あれ? ボクは、彼女じゃ無いの? アズキ先輩もカリンさんも彼女仲間だって言ってくれたのに……」
段々と目が潤んで行くユウキに俺は言葉が出ない。
「だから、恥ずかしいのも我慢して、その、き、キスをして起こしたのに。まぁ、あまりに気持ち良くてディープなのにしたのは、ボクだけど、でもトモマサ様も押し返して来て、僕の口の中まさぐったよね。この責任は、どう取ってくれるの?」
黙り込んでいる俺に、半泣き状態で質問してくるユウキ。今にも涙が溢れそうだ。
「いや、あの、何も彼女にしないとは言ってないだろう? アズキ達も将来は、彼女かなって感じで仲間だって言ったんだと思うし……」
俺、しどろもどろである。そんな俺を、潤んだ瞳で見つめてくるユウキ。「で、どうなの?」って目が物語っている。
「えっと、だから、こういう事は、時間をかけて、もっとお互いを知った上で……」
俺の言葉をじっと聞き、なおも見つめてくるユウキに俺は、とうとう負けてしまった。
「それなら、取り敢えず、彼女(仮)でどうかな?」
何て、何処のゲームだって言葉を言う俺に、ユウキは、抱きついて来て、こう言った。
「分かった。今は、それで許してあげる。だから、もう一回、キスして」
「いや待って、今はそれどころじゃ無いだろう? アズキは、どうなったんだ? ここにはいないのか?」
俺の言葉に、キョトンとした顔を見せるユウキ。しばらくして口を開いた。
「あの、トモマサ様。アズキ先輩ならヤヨイ様の計画通りヌマタ男爵って人について行ったと思うけど?」
「やっぱり、ヤヨイの計画か。それで?」
「えっと、時間が無くて詳しくは聞いてないけど、操られたフリをして囮になるって言ってた」
大体、想像通りだった。それでも、アズキを敵地に送るなんてと、ヤヨイの計画に腹を立てる俺。そこに、ユウキが、また、お願いして来た。
「えっと、もう一回のキスは?」
そう言って、俺の胸元で目を瞑るユウキ、完全に女の子だった。アズキの事は気になるが、ここまでお膳立てされて、しかも2回目のキスとなれば断れるはずもなく……。
俺が優しくユウキの口にキスをしたところで、部屋の扉が開いた。
「全く、何してるのよ。父さん」
呆れ顔のヤヨイだった。後ろには、にやけ顔のカリン先生やツバメ師匠も続く。俺は大慌てでユウキから口を離した。
「いや、全く面目ない」
「こっちが色々苦労していると言うのに。それで、首尾は?」
「ゴメン。取り逃がした」
「はぁー、何してるのよ! 大体、父さんは……」
そして、ヤヨイの盛大な説教が始まる。この大変な時に、新しい彼女作ってイチャイチャしてるわ、任務は失敗するわとなったら、そりゃ愚痴の1つも言いたくなるのは、良く分かる。だから、大人しく聞いていた。
グチグチと説教を続けていたヤヨイだが、俺があまりにも大人しいからだろうか? すっぱりと切り上げて話題を変えた。
「それで、アズキは? ちゃんとヌマタ男爵について行った? まぁ、あの子は父さんみたいにミスはしないと思うけど」
「そうだよ! アズキだよ。そんな計画があるなら、最初から話してくれ。アズキに攻撃されて俺がどれだけ慌てたと思ってるんだ!」
そう、俺はヤヨイを問い詰めるが、当のヤヨイは全く気にした様子がなかった。
「ふーん、そう。計画通りアズキ連れて行かれたのね」
「何、落ち着いているんだ、ヤヨイ。どういう計画なんだ、ちゃんと教えてくれ‼」
興奮する俺に対し、ヤヨイを含む彼女達の対応は、何だか変に普通だった。
「父さん、落ち着いて。ちゃんと話すから」
「そうです。トモマサ君。大丈夫です。既にヤヨイ様により手は打たれてますから」
「そうだぞ。トモマサ。どっちかと言うと、敵があまりにショボくてアズキさん1人で殲滅してしまわないかが心配なのだ」
「ど、どう言う事だ?」
ヤヨイに続き、カリン先生まで大丈夫だと言う。更には、ツバメ師匠が敵の心配まで始める始末。俺の頭は、混乱状態であった。
「まぁ、気付いていると思うけど、操られているのは、ワザとよ。いつでも解除できるのよ。コハクさんの件が明るみに出た後、マリ教授が研究を頑張ったおかげでね。今度会ったら、ちゃんと労ってあげなさいよ。父さんのミスを帳消しにしてくれたんだから」
言い連ねるヤヨイ。俺は辛うじて声を絞り出した。
「いや、なんで俺に前もって相談しない……」
「しょうがないでしょう? 真実味を出すためよ。父さん、反対するでしょう? その上、直ぐに顔にでる。当初は、私が操られるはずだったんだけどね。それとも、父さんは、私が囮なら反対しなかった?」
「するに決まってるだろう!」
ヤヨイの言葉に反射的に答える俺に皆が、暖かい目を向けていた。
「だからよ」
俺の態度に、短く言葉を発するヤヨイ、照れているようだった。ヤヨイの態度に、ある程度安心した俺であるが、それでも聞かずにはおれない。再度、心配を口にする。
「と言うことは、本当に大丈夫なんだな。アズキが酷い目を見る事は無いんだな。もし、アズキに何かあったら俺、俺……」
全力で、街を破壊しそうだ。と言おうとしたところでカリン先生が口を開いた。
「大丈夫です。トモマサ君。私が保証します。ヤヨイ様の計画に抜けはありません。それにしても、前々から思ってましたが、トモマサ君のアズキさんへの想いは、格別ですね。少し妬ける程に」
「え、いえ、あの?」
俺を安心させていたはずのカリン先生、途中から変な事を言い出したので、安心どころではなくなってしまった。
「大丈夫ですよ。トモマサ君の奪い合いをするつもりはありません。そもそも、私は、全員偏りなく相手をしてくれているトモマサ君に十分に満足してますから」
落ち着いた微笑みを浮かべて話をするカリン先生、本当に満足しているようだった。そんなカリン先生と俺が見つめあってると横から声がした。
「うぉほん。もういいかな? カリン先生」
「はい。すみません」
わざとらしい咳をして、話を区切るヤヨイ。カリン先生も余計な事を話したと思ったのだろう、顔に赤みが差していた。
「そう言った話は、私のいないところで話して貰うとして、父さん達は、1度、イチジマに戻ってゆっくりと休むように。反論は聞かないわ。私は、カンラの街を含むオバタ伯爵の領地の様子を見ながら策を進めるわ」
「分かった」
宣言するヤヨイに、渋々ながら同意する俺。そんな俺が、気になったのだろう。ヤヨイが厳しい口調で話し始めた。
「父さん。アズキが心配なのは分かるわ。でもね、これは、本当の意味でアズキを助けることに繋がる動きなの。母さんが作ったこの国を本当の意味で1つにするための動きなの。はっきり言うわ。イエヤスとの対決の時なの。だから、しっかり休んで、力を蓄えて。この戦い、絶対に西軍が負ける訳にはいかないの。かつての関ヶ原のようにならない為にも、父さんの力が必要なの。頼んだわよ」
「任せろ」
いつもの俺を揶揄う時とは異なる真摯な言葉を発するヤヨイに俺は、大きく肯いて宣言した。娘にこんなにも真っ直ぐ頼られる事があるなんてと内心感動しながら。
そして、俺達は、それぞれ向かう場所へと転移した。
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