第196話5.16 相討ち
「あれ、あの設置型魔法これまでのと構造が違う。解除出来ない。不味い、石像が爆発する! 退避!」
慣れと言うのは恐ろしいものだった。
これまで簡単に解除出来たものだから、すっかり警戒心が薄れいており設置型魔法に近づき過ぎていた。
木を隠すのは森の中である。
俺の発する警告が間に合わず、言い終えると同時に石像が爆発した。
『ボン』
飛んでくる礫を俺はユウキを抱きしめ回避する。
俺の背中に幾つか礫が当たるが大した事はない。
即座に回復魔法をかけて治していけるほどだ。
腕の中のユウキも特に怪我をしていないようだった。
そこで俺は気になった。
いつもなら直ぐに俺の安否を気遣ってくる、アズキの声が無いことに。
「アズキ!」
振り返った俺が見たものは、礫をモロに食らって頭から血を流して倒れているアズキだった。
俺に向かって飛んで来る礫を叩き落とす、つまりは俺を庇うために動き傷を負ったようだった。
「大丈夫か! 今、回復魔法をかける」
ユウキから手を離し即座に回復魔法をかけようとするとアズキが俺の手を掴んだ。
「だ、ダメです。回復魔法は、ダ、メ……」
そこまで言って気を失うアズキ。意味が分からなかった。
「何で、回復したらダメなんだ。アズキ!」
俺が大声で問うが返事は無い。
だが回復魔法をかけないと命が危険だ。
側頭部からそう思わせる出血を出していた。
「ダメだ。死んでしまう。回復魔法をかけるぞ。いいな」
この時、俺は心に余裕が無かった。
命を取り止める程度の回復にしておけば良かったのだ。アズキの警告を考慮して。
だが全回復させてしまう。それが辛い事態になることを知らずに――。
結果、回復したアズキが襲いかかってきた。
「アズキ! 何をする! 目を覚ませ!」
襲いかかって来るアズキに声をかけるが全く反応が無い。
ただ拳を突き出し俺の急所を的確に突いて来るだけだ。
「アズキに下手に攻撃できないし、これしか無いか」
アズキの突き出して来た拳を辛うじて躱した俺は、重力魔法を発動してアズキの動きを止めた。
そこに聞いたことのある男の声が響いた。
「ほう、楽しい事になっているではないか。トモマサよ。まさか、アズキが来るとはなぁ。はははぁ、まさに飛んで火に入る夏の虫だな。笑いが止まらんな」
声の主はヌマタ男爵だった。
音に気付いて謁見の間から出て来たんだろう。
「貴様! アズキに何をした!」
叫びながらアイテムボックスから出した魔鉄製『ドラゴンごろし』を手に、俺はヌマタ男爵へ斬りかかった。
相手はあのヌマタ男爵だ。
アズキとは違う。遠慮はいらない。
そう思って、全力で斬りかかったのだが、刃は届かなかった。
突然、ヌマタ男爵の隣に立っていた3m近い騎士型の石像が動き出して俺の刀を弾いたからだ。
「何だ!」
「ククク、俺の護衛がいないとでも思ったか? さぁ、トモマサよ。自身の魔素で動くゴーレムを倒せるかな? ははははぁ」
ヌマタ男爵の声に合わせるかのように騎士型のゴーレムが右手に持つ大剣を横に薙いでくる。
その剣を、俺は全力で後退する事により辛うじて退避する。
「間合いが広い!」
3m近いゴーレムが、2mありそうかと言う大剣を振るうのである。
俺の持つ一般的な刀のサイズとは比べ物にならないリーチである。
辛うじて退避に成功した俺が毒付いていると、そこにアズキが拳を出して来た。
退避に集中した為に重力魔法が切れたようだ。
「くそ! 纏めて動きを止めてやる。『重力上昇(グラビティ・アップ)』」
ゴーレムとアズキに対して重力魔法をかけるがゴーレムの動きは止まらない。
魔法の威力が弱すぎるらしい。
「ダメか。でもこれ以上出力を上げるとアズキが死んでしまう! どうする?」
悩んでいるところに今度はゴーレムが大剣を突き出して来る。
俺は横にずれて、それを交わしつつ、今度は脳への身体強化魔法をかけて打開策を検討し始めた。
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