第195話5.15 敵対
「アズキ! やめろ! やめてくれ!」
俺は、アズキの拳を往なしながら叫ぶ。
そう、領主の館にヌマタ男爵を捕まえに行ったはずの俺は、何故かアズキを相手に戦っていた。
そのアズキが次はユウキに向かって拳を突き出そうと駆け出す。
「逃げろ! ユウキ!」
俺は、身体強化魔法で全身を強化してユウキを庇うためアズキの前に立ち塞がる。
だが、一瞬で投げ飛ばされ床に叩きつけられる。
辛うじて受け身を取るが背中を強打し一瞬呼吸が止まる、重力魔法で動きを留めていてもコレである。
全くもって恐ろしいほどの達人だ。
それでも、少しだけ時間が稼げたようだ。
ユウキは、元来た道へと逃げ出していた。
「はははははぁ、情け無い男だな。トモマサ、自分の奴隷に手も足も出ないとなぁ。奴隷に主人への攻撃禁止令をしていないからだな。次からは気をつけるんだな。まぁ、次があったらの話だが。はははははぁー」
高笑いしながら叫ぶヌマタ男爵がこちらを見下している。
その間にも、こちらに向けて突き出してくるアズキの拳を辛うじて避け体勢を立て直した俺が叫ぶ。
「アズキ! 目を覚ませ!」
これまで何度呼びかけただろうか。それでもアズキに変化は無い。
どうしてこうなった――
―――
話は、少し遡る。
領主の館、敷地内に降り立ってから30分程歩いただろうか。俺達は、ようやく目的の建物へと辿り着いていた。
どうしてこんなに時間がかかったかというと、それはヌマタ男爵のいる建物に近付くほど警戒が厳しく、ただ見つからないようにコソコソ隠れて動いていたからだ。
「アズキ、ユウキもう少しだ。今見えている、兵士が角を曲がったらあそこに見えるドアから侵入しよう。あの建物の中には巡回の兵士はいない。少し休めるはずだ」
俺が追跡魔法で兵士達の動きを確認しながら小声で話をすると、2人はゆっくりと肯いてくれた。
そして兵士が見えなくなってから建物へと取り付く俺達は、難無く建物内へと入って行き人気の無いところで休憩を取っていた。
俺達が休憩場所に選んだ場所、そこは台所だった。
大小様々な鍋やフライパンが壁際の棚に並んでいたり大きな冷蔵庫が見えるのだが、なぜか人がいなかった。
本来なら領主のために夕食の準備をしている時間のはずなのにである。
「なぁ、何で誰もいないんだ? 兵隊は、まだ分かる。でも、メイドも料理人もいないなんて領主の館として変な気がするんだ」
「確かにおかしいですね。あのヌマタ男爵が自分でお茶を用意したり、料理を作ったりするはず無いですから」
俺の抱いた疑問に同じように首をかしげるアズキ。
その言葉に俺は、ヌマタ男爵がメイド服を着てお茶を入れているところを想像して吹き出しそうになってしまった。
恐ろしい想像だと1人首を振る。
そこにユウキが自分の考えを口にした。
「あの、他の建物で用意しているとかは無いのですか?」
「うーん、その可能性はゼロでは無いけど、それでも誰もいないのはなぁ。やっぱり、1番怪しいのは罠かなぁ」
「はい、そう考えるのが普通かと」
ユウキの言は一理ある。
だけど希望的観測だと思う。
だから俺は最も怪しいと思われる事柄をあげるとアズキも同意してくれた。
「え? 大丈夫なのですか?」
2人から罠と聞いて、手をワタワタとしながら不安そうな顔で聞いてくるユウキ。
その動きが何だか可愛くて頬が緩む。
「まぁ、そんなに慌てなくても大丈夫だと思うよ。罠の種類がわからないけど、兵隊が潜んでいるわけでも無いしね」
「それでしたら考えられる罠を挙げますと、設置型魔法もしくはテイムされた魔物かゴーレムによる防衛と言ったところでしょうか」
可愛く動くユウキだったが、俺の態度や言葉に安心したのだろう。
ホッと一息ついていた。
そこにアズキが罠の種類について考えを連ねた。
「魔物の線は無いかな。追跡魔法では近くには見当たらないし。後は、設置型魔法か。どんなんだ? 矢が飛んで来たり落とし穴が開いたりするのか?」
「はい、人の接近を感知して発動する魔法です。トリモチが飛んで来て動きを封じられたりもします」
ブービートラップの魔法版の事か。
しかし、トリモチに囚われて動けないアズキとユウキ。
何となくエロい絵が頭に浮かぶが、非常時に何考えてるんだと又々1人首を振り話に戻る。
「成る程。それなら、魔素の動きに注意していれば分かりそうだな。十分に注意しよう。後は、ゴーレムか」
「はい、アシウの森で戦ったような奴です」
あれか。造形で微妙にこっちを苛立たせる奴か。
「あれは、数があると脅威だな。でも、ヤヨイから聞いた話だと、ゴーレムは大量の魔素が必要でそう簡単には運用出来ないとか。アシウでも魔素量の多いエルフがいるから動かせてるという話だったし、この人の居ない建物の中では難しいのでは?」
「そうですね。ここではゴーレムの心配は無さそうですね。では、設置型魔法だけ気をつけて進みましょう」
「よし、話もまとまったし行くか」
「「はい」」
2人の返事を聞いた俺は、立ち上がって台所からヌマタ男爵の元へと向かった。
ヌマタ男爵は建物の最奥、謁見の間にいるようだった。
俺達は今その謁見の間に続く、足元には高級そうな赤絨毯が引かれ左右の壁には騎士の石像や鎧、高価そうな絵画に壺などが飾られた一本道を歩いていた。
一生懸命、設置型魔法を解除しながら。
「トラップが多いな。外から回るのルートの方が良かったかもしれないな」
「ですが、外だと兵士達が巡回しておりますが」
そうだった。と頭に手をやる俺。
その間にも発動しそうになっている設置型魔法の解除を行なっている。
石像を爆発させてこちらに礫を飛ばす魔法のようだった。
他にも鎧の中から矢が飛び出して来る物や、地面から槍が突き出して来る物など多種多様な設置型魔法が置かれているようだった。
残念ながら、トリモチが出て来るものは見当たらなかったが。
「まぁ、数は多いけど、解除が簡単だから兵士に見つかって取り囲まれるよりマシか。面倒だけどな」
「トモマサ様だから出来るんですよ。まだまだ魔素の扱いが不慣れな私では、とても出来ません」
愚痴る俺のやる気をさり気なく出してくれるアズキ。流石である。
ユウキも密かに肯いている。
俺の扱い方を心のメモに刻んでいるのかもしれない。
緊張感の中に流れる穏やかな会話をしながら、進んで行く。
そして事件が起こった。
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