第45話1.45 カリン先生の悩み2
「アズキさん、少しよろしいでしょうか?」
その日の授業終わり、私が教室に使った部屋の片付けを行なっている所をカリン先生に呼び止められました。
「はい、構いません」
私が手を止めて向き直ると、カリン先生は赤い顔をしてもじもじしています。
何か言いづらい事があるようです。
私には何の遠慮も要らないのですが。と思いつつも、じっと待っていると話始めてくださいました。
「ぶしつけな質問で気分を悪くするかもしれませんが、教えてください」
随分と遠慮していますね。何の話でしょうか? ですが私に遠慮は不要です。
「カリン先生には、いつもお世話になっています。何でもお聞きください。私の分かる事だと良いのですが」
私は本当にカリン先生をとても素晴らしい先生だと思っています。
授業を受ける事で火魔法と風魔法の初級魔法を使えるようになりました。
獣人の私がです。
他の魔法は未だ使えませんが、勉強すれば使えるようになるらしいです。
後は私の努力次第という事でしょう。
おっと、今は私の話はいいのです。
私は再びカリン先生を見つめます。
するとカリン先生、おずおずと話し始めました。
「それじゃ、遠慮なく……あの、どうやってトモマサ君を振り向かせたのですか? いえ、決してアズキさんから奪おうというわけではないのですよ。ただ、トモマサ君は、これからも沢山の奥さん、愛人を作らないといけなくなると思うのですが、出来れば私も加えてもらえないかと思いまして。決して、奪うつもりはありませんので、言いたくなければ無理せずとも良いのですよ」
「まぁ、それは素晴らしい話です。是非、トモマサ様を振り向かせてください。私も協力します」
「え、いいの?」
私は感激していました。
トモマサ様は確かにこれから沢山の女性に言い寄られるでしょう。
その中には、魔素だけが目的の悪い女もいるでしょう。
独り占めしようとする女もいるでしょう。
でも、目の前の女性はどうでしょうか? とても素直で嘘もつけないような女性です。
魔法使いとしても優秀です。
なによりもトモマサ様も嫌ってはいない女性です。
授業中、良く胸を見ているのを知っています。
私より小さいですが、背を含めて小さいですのでバランスの取れた体形になっていてとても綺麗です。
そんなカリン先生には、とりあえず私の経験をお話しましょう。
「トモマサ様は、非常に難敵です。朝晩、匂いを嗅ぎながら胸で顔をはさんだり、下半身に押し付けたりしたのですが、なかなか振り向いてはくれませんでした」
恥ずかしい体験ですがカリン先生のためなら惜しくはありません。
「アズキさんの胸でもそんな反応だったのですか? 私では、どうすることも出来ないかもしれませんね」
「諦めてはいけません。カリン先生の胸も十分に魅力的です。きっと、方法があるはずです。共に考えましょう」
胸以外には、何がお好きでしたかね? 犬耳と尻尾を触ってくださいましたね。
プロポーズだと思って興奮したのも良い思い出です。しかしカリン先生は普通の人族だし困りました。
「アズキさんは、どうやって振り向かせたのですか?」
「私は、誕生日プレゼントにいただいた下着姿で迫りました」
「そ、そこまでやらないと気付かないのですか」
カリン先生が途方に暮れてしまいました。
トモマサ様を振り向かせる。なんて難しいのでしょう。
私の場合は、お情けで結婚の約束まではしてくれましたが、一向に手を出してはくれませんでした。
奥様への思いが強いようでしたから。
「最後の一押しは、こちらから強引に迫りましたが、それまでは、ゆっくりとしていましたよ。カリン先生は、もう少し大人の色気を強調する服に変えてみてはどうでしょうか?」
「なるほど、色気ですか。胸を強調する事しか考えていませんでしたね。でも、それだけでは弱くないですか? もう数か月で派遣教師も終わりですし、接点が減る前に振り向かせたいのですが」
カリン先生、少し焦っているようですね。
ですが、確かに派遣教師が終わる前に終わらせたいですね。
期間を延ばしてもトモマサ様はのらりくらりと逃げるだけでしょうし。
私は、思考を巡らせます。
「色気のある服で、カリン先生の素晴らしさを再認識していただいた後は――」
「後は?」
「トモマサ様の布団にもぐりこむしかないですね」
「結局、それしか無いのですか」
その後も、いろいろ話し合いましたが、いい案は出ませんでした。
やはり、トモマサ様を振り向かせるのは難しいです。
『タイミングを狙って突撃する』決まったのは、これだけです。
カリン先生に、頑張ってもらいましょう。
―――
「はぁ、いつの間にこんな気持ちになっていたのかな」
魔法学園の職員寮でカリンは一人頭を抱えていた。
「やっぱり、あの落ち込むトモマサ君を見たときかなぁ」
優秀な魔法使いと結婚して街の復興を目指しているカリン。
年下ではあるが魔素量の極端に高いトモマサを当初から優良物件だと思っていた。
完全に打算だったけど。
「いつもは飄々としているトモマサ君が、アズキさんに負けて項垂れているのだから、可愛くて思わず抱きしめたくなったものね。何とか、肩叩くだけで抑えられて良かったけど」
ギャップが溜まらなかったと、脳内で再現してしまい悶えるカリン。
「それともう一つ、この眼のことを何も言わない事かな。ほとんどの人は、気持ち悪がるか、取り込もうとするかの反応をするのですけどね。全くのノータッチって人は初めてですね」
実は、この世界のオッドアイ、ただ目の色が違うだけでは無い。どういう理由で表れるかは定かでは無いが、オッドアイを持つ人は総じて魔素量が高い。おかげで、後世に名を残す魔法使いの中にオッドアイの人が多い。
そんな魔素量の多いオッドアイの人は、人から訳もなく妬まれたり、利用しようと擦り寄られたりと大変なのである。
「前も、貴族の生徒が大量のプレゼント持ってきて妾にとか迫ってくるから断るの大変だったし」
今度は、プレゼントを持った太った貴族が脳裏に浮かびげんなりするカリン。
頭を横に振って思考を戻す。
「それでも、ダメ元でアズキさんに相談したけれどあんなに積極的に後押しされるなんてビックリね。付き合い始めたばかりなのに独占欲とかは無いのかしら? 私としては助かるけど」
カリンにしてみれば、恋人を横取りに来たと見られてもおかしく無いと思っていたのだ。例え貴族が一夫多妻とは言え、感情はまた別のものだと思うので。
「それはそうと、どのタイミングで寝室に行くべきでしょうか? やっぱり何かの記念日ですかね。もうすぐバレンタインデー、いや、3月まで授業があるのに断られたら合わせる顔がないですし、私の誕生日は11月に終わったところです。トモマサ君の誕生日は、確か10月……遠いです。それまでずっとこんな気持ちなんて耐えられません」
思考を巡らせるカリン。
だが。
「いい案が出ません。後日再検討しましょう。それにしても、明日は学園で仕事ですね。毎日、トモマサ君の授業をしたい、いや、一緒に住みたいぐらいです。はぁ、今頃、アズキさんはトモマサ君のナニをナニして……」
カリンは、悶々としながら、長い夜を一人で過ごした。
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