第108話3.5 カイバラの領域

 翌日は、朝早くから町を出てカイバラの領域に向かった。

 朝早いので朝食は無理かと思っていたが、日が昇る前から食べれるように準備してあった。

 客の要望が多くて対応しているらしい。

 

 流石、価格だけの事はある。

 

 今は、乗合馬車に乗っている最中である。

 銅貨10枚1000円でカイバラの領域の近くまで連れてって行ってくれるらしい。

 馬車には他にも狩りに行く傭兵のおっさんでたちが大量に乗っている。


「トモマサ君、皆こっちを見ている気がするけど、気のせいかな?」

 カリン先生が小声で聞いてきたので見渡してみると、確かに視線が集まっている気がする。

 美女に美少女に美幼女までいるのだ。

 仕方が無いといえば仕方が無いのだが。


「女性の傭兵が珍しいのでしょう。気にせずのんびりしていれば良いと思いますよ。揺れる馬車の上でのんびり出来ればですが」

 言ってる傍からぐらりと揺れる馬車。

 いつも乗ってる馬車の倍ぐらい揺れてる気がする。

 確かに、大きな町道から離れて道は悪いのだが、最大の原因は、やはり馬車の性能が違いすぎるようだ。

 そんな中でも、眠れるツバメ師匠には驚きだが。


「君たちもドラゴンを探しに行くのかい?」

 斜め前ぐらいに座っていた、若い傭兵が突然声を掛けてきた。

 突然の問いに俺が怪訝な顔をしていると、若い傭兵が口を開いた。


「いや、突然すまない。俺は、傭兵パーティー『明けの明星』の代表、スズキ スバルっていう傭兵だ。一応、『銀』ランクを貰っている」

「いえ、こちらこそすみません。俺は、アシダ トモマサ。傭兵ギルドに登録はしてますが、まだ、未成年なのでランク外です。ところで、さっきのドラゴンというのは何ですか? カイバラの領域には強い魔物はいないと聞いていたのですが?」

「そうか、やはり知らずにきていたのか。実は昨日の夕方、狩に出ていた傭兵からギルドに情報が入ってな。領域の内部で下級ドラゴンを見たと言うんだ。まぁ、見たと言ってるのは、1人だけなのでな、見間違いだとは思うんだが、もしもの為にと言う事で、ドラゴン捜索の依頼がギルドから発行されたのさ。ここにいる傭兵のほとんどは、その依頼を受けて来ているのさ」

「そうだったんですね。教えていただきありがとうございます。俺たちは、まだ、依頼が受けられないので、ギルドに寄らずに来てしまいました。そうですか、下級ドラゴンが。はぁ~」

 そうか、それで、今朝ギルドにあんなに人がいたんだな。この馬車にも。


「うん、下級でもドラゴンを倒そうと思うと『金』ランク以上のパーティーが複数必要とされている。未成年の君たちではひとたまりもないだろう。十分に気をつけて行ってくれ。老婆心ながら忠告しておくよ」

 話し終えたところで、目的地に到着した。


「本当に、ありがとうございます」

 教えてくれたスバルさんに礼を言って馬車を降りた。

 しかし、下級ドラゴンで『金』ランク以上の団体が必要なのか。

 うん、危なそうだ。今日は、森の中に入らずに帰ろう。それが良い。

「森にドラゴンがいるかもしれないので、今日は守りに入らずに狩りをしましょう」

 俺は、皆に提案してみた。

「何を言っているトモマサ。ドラゴンがいるなら戦って倒すべきだ。それが、剣士というものだろう」


 戦闘狂がいるの忘れていた。

「でも、危ないですよ?」

「何を言っている。格上と戦ってこそ、力が付くというものだ。トモマサもそろそろ格上との戦いをするべきだ」

 うーん、ダメだな。ツバメ師匠こうなったら絶対に戦いに行くだろうな。

 まぁ、ツバメ師匠の言いたい事も分からなくはない。でも、命かかってるしなぁ。

「仕方がないですね。もし、もしですよ、見つけたとして勝てそうに無かったら逃げる前提で良いのなら行っても良いですけど」

「当然だな。彼我の力量を知る事も剣士として必要な能力だ。勝てない相手とは戦わない。これも兵法だと五輪書で武蔵も言っている」

 五輪書読んでるのね流石、ツバメ師匠。

 しかし、巌流って小次郎の流派では? まぁ、いいか。取り敢えず、うん、ドラゴン見つけたら逃げよう。

 俺は、そう心に決めて森へと入った。


 森に入って数時間、森は静かだった。

 魔物は一定数いるのだ。

 数が多いか少ないかは初めてきたので分からないけど、フクチヤマの領域よりは少ない気がする。

 その上、見つけた魔物も何かに怯えている。

 こちらに気付いても襲って来るどころか、逃げようとするのだ。

 魔物とは思えない行動に皆も驚いている。


「トモマサ君、魔物の動きが変だね。これは、本当にドラゴンか何かいるんじゃないかな? ルリも何だか、気が立ってるようだし」

「確かに襲ってこない魔物って変だものな。ルリよ。何かいるのか?」

「うにゃ」

 俺の問いにルリは、「いる」と言ってる気がする。


「しぃ!……あっちで悲鳴が聞こえました。こっちに逃げて来るようです」

 俺がルリと話をしていると、アズキの耳が何かを捉えたようだ。

 身体魔法で強化したアズキの耳は、かなり正確だ。

 俺の強化とは比べ物にならないほど。


「トモマサ様、決めて下さい。戦うのか逃げるのか」

 そう言われても、まだ情報が足りない。

 決められない。悩んでいると、足音が近づいてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る