第109話3.6 カイバラの領域2
「君たちか。早く逃げたほうが良い。かなり大きな下級ドラゴンだ。しかも、厄介な事に
空に浮いてる敵と戦うのか? そりゃ、無理だ。そう結論付けてツバメ師匠を見ると肯いてくれた。
師匠も分が悪いと判断したようだ。
「逃げよう」
俺の言葉を聞いた皆も、肯いてくれた。
「それならこっちだ」
スバルさんが先導してくれる『明けの明星』のメンバーと一緒に走っていく。
殿にはアズキとルリがついてくれていた。
身体能力の高い1人と一匹なら何かあっても対処してくれるだろう。
15分ほど走った所でスバルさんが一同を止めた。
カリン先生やカーチャ王女がキツそうだったから。
「まずいな。上空を旋回していやがる。森から逃げ出した奴を狙ってやるな」
辺りを探索していたスバルさんが教えてくれる。
「他の傭兵たちは、どうしたんですか?」
「わからん。近くにいた奴らも散り散りに逃げ出していた。後ろで爆発音がしてたからドラゴンのブレスで何人かやられたかもしれない」
傭兵達を集めて対策をと思ったのだが、散り散りなら難しいだろうな。
連絡手段もないし。
「このまま、隠れているわけにはいかないのですか?」
「俺たちは、それで良いかも知れないが、もう数時間もすると迎えの馬車が来るだろ? ドラゴンが馬車を見つけたらどうすると思う?」
そりゃ、獲物だと思って攻撃しますね。当然。
「馬車の護衛なんて、引退間近の傭兵がやってるんだ。ドラゴンになど襲われたら一撃だぞ。それに、もし逃走して町にでも逃げてみろ。町中が火の海だ。クソ、せめて地上に落とせれば戦う事は出来るんだがな」
「地上なら勝てるんですか?」
「ああ、安全にとは行かないだろうが、何とか倒せるはずだ。俺たちも『銀』ランクとは言え戦闘力だけなら『金』ランクに近い自信があるからな」
地上に落とすのか。
弓とか効かないだろうな。
『明けの明星』のメンバーも弓持ってるし、出来るならやってるだろうし。
「ちなみに、普通は、どうやって落とすんですか?」
「いや、どうやっても落とせない。弓は効かないし、風魔法もあまり効果が無いらしい。奴らは、鳥みたいに翼で飛んでいるのでは無いらしいので。なので、地上にいる時に攻撃するんだ。攻撃を受けると、すぐには飛べないらしくてな」
「一説には、ドラゴンは、魔法の力で重力を操って飛んでいるようです。トモマサ君の使う重力魔法と同じですよ」
カリン先生がこっそり教えてくれた。
走って、ぜぇぜぇ言ってた息も整って来たようだ。
なるほど重力魔法ね。
うーん、空を飛ぶのか。
いや、飛ぶと言うより浮くの方が、合ってる気がするな。
そうすると、重力で対抗してみるか。
「トモマサ君、何か良い案でもあるかい?」
ヒソヒソ話す俺とカリン先生にスバルさんが聞いてきた。
「えーっと、出来るかどうか確証は無いのですが、試してみる価値がありそうな方法を考え付きました。試した事は無いですが」
ドラゴンなんて初めて見るんだ。
試したことがあるはずが無い。
それでも。
「よし、それなら森の端まで行って、ドラゴンを落としてみてくれ。なるべくなら広い所で戦いたいからな」
スバルさんは同意してくれた。
黙って見ているだけなのは許せないようだった。
俺たちはドラゴンの動きを見ながら、森の端を目指し走る。
カリン先生もカーチャ王女も体力が回復したのか、付いてこれているようだ。
「よしこの辺りだな。次に、ドラゴンが近づいてきたら、落としてくれ。他の者は、戦闘準備だ。落ちたら先ずは、翼を狙え。あれが無いと飛び立つのに更に時間が掛かるようになるという話だ」
戦闘準備をし、いつでも飛び出せる体制でドラゴンが近づくのを待つ。
そんな中、こんな状況なのに、いや、こんな状況だからか、ツバメ師匠の目が異常に輝いている。
本当に好きなんだな戦うの。頼むから死なないで下さいよ。
心の中で祈っていると、声がした。
「そそそろ頼む」
森の上を旋回するドラゴンを監視していたスバルさんだった。
俺は魔法を発動するべく、魔素を込めていく。
そして視界に入ってきたドラゴンを観察しながら考える。
森の外の草原に落とせば良いんだな。
範囲指定が難しいが、落とすだけならドラゴンの胴体を指定すれば良い。
後は抵抗出来ないようにありったけの速度で行こう。
そして
「『重力上昇(グラビティ・ダウン)』」
魔法を発動する。
するとドラゴン、突然、何かに引っ張られたかのようにぐらりと揺れた。
だが、それでも落ちてはこない。
抵抗しているようだった。
かなりの魔素を込めたのに。
もっと魔素を込めよう。
そして再度
「もう一発。『重力上昇(グラビティ・ダウン)』」
魔法を発動する。
するとドラゴン、今度は抵抗出来なかったらしい。
グングン速度を上げて落下して来る。
「スバルさん、来ます」
ドゴーーーーーン!!!
ドラゴンは、物凄い轟音と共に地面に叩きつけられていた。
あたり一面に土煙が上がる。
おかげで何も見えなくなる。
「くっそ、見えないぞ」
焦るスバルさん。
確かに、危険な状況だった。
なにしろ、この隙にまた飛び立たれて、ブレスでも撃たれたら敵わないのだから。
すると
「『送風(ウインド)』」
俺の懸念が通じたのか、カリン先生が風魔法で土煙を飛ばしてくれた。
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