第168話4.31 依頼
トモマサ達が食堂を辞した後、カリンの両親が2人で話をしていた。
「アンズよ。お前は知っていたのか? 彼が『建国の父』様である事を」
「もちろん知りませんでしたよ。パッと見たところでも普通の青年だと思ってたのに。どちらかと言うと目立たない感じの」
目を合わせて苦笑する2人に長男のミツナガが声をかけてきた。
「全く、我が妹は、恐ろしい婚約者を連れてきたものですね。父さん、いきなり殴ったりしなくて良かったですね。そんな事をしていれば、どうなっていたか分かりませんから」
「儂は、そんな事はせん。それにな、あのトモマサ様は、例え殴られても復讐を考えるような男ではない。今日話しただけでもそれは分かっておる」
ミツナガの揶揄いに少し顔を背けて話をするヨリミツ。
一瞬ぐらいは拒絶を考えたのかもしれない。
それを見てアンズは、微笑んでいた。
そこに、次男ツグミツも現れて話に寄ってくる。
「彼が『建国の父』様である事にも、あの白金貨にも驚きましたが、でも、1番の驚きはあの強さですね」
「そんなに強いのか?」
「はい、父さん。全員の戦いぶりを見ることはできませんでしたが、あの小さい剣士と魔獣だけで、視界に入った魔物を全て倒していましたよ。しかも一撃で。かと言って、後ろを歩いている面々が弱いわけではありません。特にあの犬獣人の女性の身のこなしには恐ろしい物を感じましたし、当のトモマサ君からも一瞬、恐ろしい殺気が発せされました。彼らの1人に対して恐らく我らが全員で掛かって行っても勝てるかどうか……」
「それで、ツグミツはどうしたいと?」
話に何か引っ掛かりを感じたのだろう。ヨリミツが、ツグミツに話の目的を聞く。
「はい、主の討伐を依頼してはどうかと」
「何を言ってるんだ、ツグミツ。あの化け物を傷付けられる人間などいないと、この間話ししたばかりではないか」
突然の話に驚いたのだろう、ツグミツを止めようとするミツナガであるが、ツグミツは止まらない。
「奴がいる限り、この街は解放出来ない。兄さんは、このままずっとこの街の端っこで我慢しているつもりなのか!」
「だが、『金』ランクの傭兵、3パーテイー係でも傷1つ負わせる事が出来なかったのだぞ。そんな所に彼らを、カリンを放り込もうと言うのか!」
「だったら、他にどんな手があるって言うんだ。こんな滅びた街に『ミスリル』や『オリハルコン』の傭兵なんて来てくれやしないんだ」
その発言に返す言葉が出ないミツナガ。
そこに来て、2人の遣り取りを黙って聞いていたヨリミツが口を開いた。
「2人の言い分は分かった。だが、その話は、本人達の目の前でするべきだな。彼等ももう家族のようなものだ。隠し事は、するべきでは無い」
「父さんの言う通りね。カリンももう成人した大人よ。きちんと話をするべきね。それに、トモマサ君ならそれこそ片手間で片付けてしまいそうな気がしないでも無いし」
あっけらかんと話をするアンズさん。
そんな事あるはずがないと思う兄弟であったが、確かに本人達に話をしない事には始まらないと思ったのか、その場はお開きとなった。
翌早朝、昨日の続きで狩をするために準備をしているトモマサの元に、ヨリミツお義父さんとミツナガさん、ヨリタカさんの3人が訪ねてきた。
「お義父さん、おはようございます」
「トモマサ君、おはよう。部屋で少し話がしたいのだが、良いかな?」
俺達が泊まった部屋で話がしたいと言う、お義父さんだったが、今はちょっと不味い。
なにしろ、ベッドがグチャグチャなのだ。
カリン先生とコハクが張り切ったおかげで。
アズキが頑張って片付けているが、臭いはなかなか取れそうにない。
「えっと、すみません。今はちょっと……皆が着替えているので……」
「おお、そうか、済まんな。それなら、食堂は……朝食の準備をしているな。仕方がない、狭いが私の書斎に行こう」
そう言って、俺を案内してくれるヨリミツお義父さん。
後ろからは、ミツナガさんとヨリタカさんが付いてきていた。
たどり着いた書斎は、狭かった。
4畳半ぐらいの部屋に、大量の本、そこに大の大人の男が4人も入るのだからギュウギュウだ。
膝を付き合わせて座っている。
「朝の忙しい時間に済まんな」
「いえ、大丈夫です。それよりなんでしょう? やっぱりお金が足りませんか? もう一袋渡しますよ?」
態々、こんな狭いところで話をするんだ。
何か秘密の話なのだろうと思った俺は、「それなら、やっぱり金の話か?」とあたりを付けてアイテムボックスから袋を取り出す。
「いやいや、金はもう十分だ。ありがとう。それよりも頼みたい事があるのだ」
頼み事? と思って聞いていくと、どうやら、スワ湖に
しかも、そのドラゴンが主のように振舞って魔素を撒き散らすため、他の魔物がどんどん集まってくるらしく、魔物を討伐しても数が減らないのだとか。
ヨリミツお義父さんが教えてくれた。
「えっと、そのドラゴンを倒せば良いのですか?」
「早い話が、そうです。ただ、これまでに『金』ランクの手練れの傭兵3パーティ計12名で討伐を試みたのですが、結果は惨敗でした。死者2名、重症者6名、軽症者4名を出しながらも傷1つ付けられなかったのです。だから、トモマサ君達も無理なら無理と先に言って欲しい。ただ、もし可能であれば協力して欲しい。もし難しいようなら誰でも良い、討伐が可能な人を紹介して欲しい」
「良いですよ。私が行きましょう。後の希望者を仲間内から集めますね。多分、皆行くと言うと思いますが」
「「「え? いいの?」」」
必死に危険度をアピールしてくるミツナガさんに、俺が何事もないように答えると皆が驚いていた。どうやら、断られると思っていたようだ。
「ええ、構いませんよ。レッドドラゴンなら討伐の経験もありますし」
「「「ええ??」」」
皆が声を揃えて驚く。
「そ、そうか、引き受けてくれるか。有難い。それなら、分かっている情報を教えねばな」
驚いて固まっていた3人の中で、ツグミツさんが立ち直ったようだ。
現にスワ湖のドラゴンは、10日に1度ほど地上に上陸して決まったルートを徘徊するそうだ。
まるで、自分のテリトリーを主張するように。
前に傭兵達が攻撃を仕掛けたのもその徘徊のタイミングを狙ったそうであるが、全く手が出せず無意味に終わったそうだ。
次は、恐らく明日、遅くとも明後日に出てくる想定らしい。
「それとな攻撃を仕掛けると、他の魔物を呼ぶんだ。グレートビーとジャイアントウルフをな。そいつらがまた厄介でな。前回の時も、そいつらに手間取ってる間に
その話を聞いた俺は、何だか違和感を覚えた。
「へぇー、ドラゴンが他の魔物を呼ぶんですか? 何だか不思議ですね」
魔物が魔物を呼ぶ、群れで生活するウルフなどが同じウルフを呼ぶのであれば、全く不思議ではない。
でも、今回は違う。
魔物の中でも格段に強いドラゴンがやる事ではない。
しかも、蜂とウルフと言う全く種族の違う魔物を呼ぶのだ、何か裏がありそうな気がする。
なので、俺はヨリミツお義父さんに気になる事を聞いてみた。
「そもそも、そのドラゴン、元々スワ湖にいたのですか?」
「いや、スワ湖には龍神伝説があり龍が住むとされているが、そもそも龍とドラゴンは別物だ。過去の文献でもスワ湖にドラゴンがいたという記載はなかった」
まぁ、そうだろうな。
スワ湖にドラゴンなんていたらコハクが狩ってしまうだろうし、コハクがいなくなってから連れてこられたんだろうな。
ひょっとして、カイバラの領域の時と同じで、テイムされて連れてこられてる? 可能性はあるな。
それなら、合わせてテイマーも探さないとね。
そんな感じで考えがまとまった俺は、次の質問に移った。
「ドラゴンについては、分かりました。後は、そのグレートビーとジャイアントウルフの特徴も教えてください」
その後、それぞれの特徴を聞いて俺達は、食堂へと向かった。朝食を食べてから仲間に説明するために。
「領主様、スワ湖の監視員より連絡が入っております」
ここはカンラの街、オバタ ノブヒサ伯爵の書斎である。
そこに訪れた1人の初老の男性、いわゆる執事が主人であるノブヒサ伯爵に報告する。
「へぇー、何の報告だ? あのスワ家の面々を全員殺したとかか?」
「いえ、残念ながら今回の報告は異なります。どうやら、スワの町に放った魔物が大量に討伐されたようです」
報告書を見ながら説明する執事に、ノブヒサ伯爵は怒りの声をあげた。
「なんだ、そりゃ。そんな事を態々報告する必要なんてないだろう! 魔物が足りないなら補充しろよ。それぐらい勝手に判断できるだろう!」
「申し訳ございません。減った魔物については、順次補充する手はずを整えております。ですが、今回の報告の本題は、この大量討伐が1つの傭兵パーティにて成された事です」
領主ノブヒサの怒りを軽く受け流し話を続ける執事。領主の扱いには慣れているようだった。
「そのパーティの名は、『丹波抜刀隊』、カイバラの領域でレッドドラゴンを倒したパーティです」
「な、何だと! 何で、そんな強い奴らが、あんな潰れた街にいるんだ。くそ。もう少しなんだぞ。もう少しであの愚かなスワ家を滅ぼせると言うのに、何てタイミングの悪い……」
執事の報告に怒りながらブツブツとつぶやいていたノブヒサ伯爵であるが、次第に
「あの
とか
「これで、ヌマタのバカの尻拭いになるな」
などと言いながら顔に嫌らしい笑みを浮かべ出した。
それを見た執事がノブヒサ伯爵に
「如何致しましょう?」
と返答を聞く。
「ふん、魔物の補充のために、あの薄気味悪いテイマーが現地に行くのだろう? それなら、後は放っておけ。あの黒龍様からいただいたトウキョウ湾にいたとされる
先程までの怒りは何処へやら、突然笑い出したノブヒサ伯爵。
そのまま、仕事は終わりだとばかりに書斎を出て行った。
そして、それに続く執事。
馬鹿笑いする主人に顔色一つ変えていない。
どうやらいつもの事すぎて何も思わなくなっているようだった。
しばらくして、ノブヒサ伯爵の笑い声も聞こえなくなった頃、誰もいないはずの書斎で影の中から1人の人物が浮かび上がってきていた。
「ようやく、ターゲットの居場所が絞り込めたわね。ヤヨイ様に報告後、私もすぐにスワの町に移動ね」
そう小声でつぶやいた後、また、影に沈んで行く人物。もし、この人物の顔をトモマサが見れば、こう呼んだだろう。「クイナさん」と。
そして、書斎には、誰もいなくなった。
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