第167話4.30 スワ家の面々
夕食は、狩ってきた魔物の肉中心の豪華メニューだった。
俺もアイテムボックス内に眠っていた、キノサキの蟹とかアリマのサイダーとかを提供しておいた。
特に蟹はこの辺りでは珍しいようで、皆が無言で貪り食っている。
やっぱり蟹を食べると静かになる。
そう再確認できたひと時だった。
「はぁ、美味しかった。素晴らしい食材をありがとう。トモマサ君」
カリン先生の一番上のお兄さんであるミツナガさんが満足そうにお腹をさすっている。
隣ではミツナガさんの奥さんのモモさんと5歳の男の子のヨリタカ君もニッコニコである。
最もこっちは、サイダーが気に入ったようであるが。
ヨリミツさんには、ヤヨイオススメの酒を渡しておいた。
カニミソを当てにチビチビと飲んでいる。
美味そうだ。
俺も飲みたいのだが、皆に止められるので見ないようにしている。
「しかし、皆さんお強いですね。ジャイアントビーでもデビルシープでも関係無く一撃で倒して行く様は、見ているこちらも心踊る姿でした」
ツグミツさんも酒を飲んでいるようだ。
赤い顔して話しかけて来る。
「ありがとうございます。うちのメンバーは、皆、狩の経験が豊富でしてね。もちろん、カリン先生も強いですよ。今日は、ほとんど出番がありませんでしたけどね」
「ほう、カリンも強くなったのか。これは、明日にでも見せてもらおうかな」
なんて、和やかに話しているところで、突然、ミツヨリさんが横から口を挟んできた。
「それで、どちらがカリンの『大切な人』なのだ?」
その言葉に場の空気が固まった。
どうやらミツヨリさん、俺とシンゴ王子でどっちが本命か決めかねていたようだ。
もしくは、いつまで経っても言ってこない俺に、牽制をかけてきたのかもしれないけど。
固まった空気の中、一番に声を出そうとしたのは、カリン先生だった。
「それは……」
と言ったところで、俺はカリン先生を止めた。
ここは、俺が答える場だと思ったからだ。
「すみません。報告が遅れましたが、私が、カリン先生とお付き合いさせていただいています。もちろん結婚を前提とさせていただいた真剣なお付き合いです」
ミツヨリさんの目が、ギロッとこちらを睨む。(ように見えるだけかもしれないけど)
そして、少しの沈黙の後、ミツヨリさんは話し始めた。
「そうか。君が、カリンの『大切な人』か。いや、そんなに緊張せずとも良い。別に決闘を申し込んだり追い返そうなどとは思っておらんからの」
さらに少し間を置いてから、ミツヨリさんはポツリポツリと話を続けた。
「いや、10年ぶりに会った娘に大切な男がいる。父親としては、寂しいものだ。君には、まだ分からんかもしれんがな。……それよりも、本当に寂しかったのはカリンかもしれんの。何せ6歳で家を出てずっと1人にさせてしまったからの。……だからかの。君には、感謝はすれど他に思うところはない。ただ出来るなら、カリンの事を大切にしてやってほしい。見た所、他にも沢山付き合っておるようだしの」
寂しげに笑いながら語るミツヨリさんに俺は、猛烈に感動していた。
なんて、出来た人なんだ。
これまでのアズキの父親ともコハクの父親とも違う大人の対応だ。
ヤヨイが結婚すると男を連れてきた時に、俺が参考にしたいと思うほどの対応だ。
何だか、初めて『父さん』と呼べる人に出会った気がした。
だから、俺ははっきりと宣言した。
「お義父さん、お許し戴きありがとうございます。不肖このアシダ トモマサ、全力でカリンさんを守り、幸せにする事を誓います」
そして、ヨリミツ父さんとガッチリ握手をする俺に、ヨリミツお義父さんが声をかけてくれた。
「うむ、同じ名の『建国の父』様に負けぬようにな」
「はい。睦月達には、寂しい思いをさせてしまいました。ですが、今回は、今回こそは大丈夫です!」
何が大丈夫なのかは分からないが、皆のために寝坊なんてしない。
そんな意思を込めて言葉を口にする。
そしてその言葉を聞いたヨリミツ父さんを初めとしたスワ家の面々は、なんだか戸惑っていた。
「と、トモマサ君、君は一体何を言ってるんだ? 睦月と言うのは、『建国の母』たるムツキ様の事か? そのムツキ様に寂しい思いとは……まさか……」
そこまで言って絶句しているヨリミツ父さんにカリン先生がそっと忠告していた。
「お父様。想像の通りです。ただ、トモマサ君は『建国の父』と呼ばれるのは好きではありません。この話は、ここだけにしておいてください」
「あ、え、それでいいのか? いや、しかし、うむ、分かった」
かなりオロオロしていたミツヨリお義父さんだったが、一応分かってくれたようだ。
だけど俺からも一言だけ言っておこう。
「お義父さん、無理を言いますが、出来れば普通の娘婿として扱って下さい。よろしくお願いします」
そして頭を下げる俺。それで、この話は終わりにした。
それからは、家族それぞれの近況報告が行われていた。
横ではルリの背中に跨ったヨリタカ君が、楽しそうに遊んでいた。
もちろん、ツバメ師匠も一緒だ。
子供を見ると遊んであげる、ツバメ師匠とルリの共通の趣味のようになっている。
そんな中、俺達はミツヨリお義父さんやミツナガさんの話に「そうですか」とか「大変ですね」とか相槌を打ちながら話を聞いていた。
話がひと段落したところで、カリン先生も気になっていたのかスワの町の状況について質問していた。
「お父様は、いつから街の魔物の討伐をしているのですか? 討伐は順調ですか?」
「うむ、かれこれ3年になるかな。ただ、それだけの時間をかけても、今我々が拠点としている部分しか開放できていないのだがな」
「そんなに長い事してるのですね。どうして教えてくれなかったのですか? 手紙には何も書いてなかったですよね」
3年もの間、戦っていたのに全く知らされない。
そんな事実を知らされたカリン先生は、寂しそうな顔になってしまっていた。
そんなカリン先生の手を取って、アンズさんが謝ってきた。
「ごめんなさい。カリン。話を聞けば、こっちに帰って来ようとすると思って、黙ってたの」
「私だけ仲間はずれなんて寂しいです……」
つぶやくように言ってうつむくカリン先生は、アンズさんに抱きしめられていた。
「しんみりしてしまったな。すまんな、トモマサ君」
「いえ、大丈夫です。それよりも、少し気になったのですが、この討伐にかかる資金は、何処から出ているのですか?数が少ないながらも傭兵も参加しているようですし……。すみません。不躾な質問で」
街の復興のために、魔物を排除する。
確かに必要な事であるのだろう。
だが、同時に大量の金がかかる。
まして傭兵を常時雇ったりしたら大変な額になるだろう。
その上、開放した街に新しい領主の館や少ないながらも街並みまで整えられているだ。
とても質素な作りだが。
それでも税収が無い中で、とても個人の資産で出来るような規模ではない。
そう思った俺は、思い切ってミツヨリお義父さんに聞いてみた。
「資金か、資金はな、昔のツテを頼って借りたのだよ。この街の復興を願っている近隣領主や商人は多いからな。何とか初期資金だけは借りることができたのだ。その後は、魔物の素材などを販売する事でどうにか賄っている。利子を払いながらだから、かなりギリギリだがな」
「なるほど。借りていたのですね。しかも、かなりギリギリと。……分かりました。それなら、私もお貸ししましょう無利子で構いません。遠慮はいりません。私もカリン先生の家族を応援させてください。本当は、寄付でも良いのですが、お義父さん的に受け取り辛いでしょうから、ここは融資で」
そして、アイテムボックスから徐にズッシリと重い布袋を取り出す俺。そして、その袋を強制的にミツヨリお義父さんに握らせる。
「え、いや、しかし」
と戸惑っていたミツヨリお義父さんだったが、その袋の中身を見て、今度は慌てだした。
「白金貨⁉」
そう、俺が渡したのは、白金貨が100枚入った袋だ。
例のダークな金だ。
狩で稼いでいる俺には全く必要のないやつだ。
ミツヨリお義父さんは、オロオロしている。
うん、まぁ、いきなり
そこに、さらに言葉をかける。
「足りなければ、もう一袋如何ですか? アイテムボックスで眠ってる金ですので、使って回してもらえると嬉しいです」
「え、あ、いや、しかし……カリン、どうしたら良いんだ?」
ミツヨリお義父さん、自分では決められなかったようだ。
カリン先生に助けを求める。
「お父様。受け取って下さい。トモマサ君には、後で私からお礼しておきますから」
そのカリン先生の言葉に従ったのか、素直に2袋目を受け取ったミツヨリお義父さんは、テーブルに頭を付けて礼を言ってきた。
「トモマサ君、いや、トモマサ様、ありがとうございます。このご恩は、一生忘れません」
「いや、そんなに重く受け止めないで下さい。それより、白金貨200枚で足りますか? 何なら、もう100枚ぐらいいきますか?」
俺としては、もう200枚でも構わないぐらいだと思いながら聞いてみるが、やっぱり遠慮された。
「いえ、流石に、もう十分です。これだけあれば、借金を返しても十分な運転資金が残りますから。本当にありがとうございます」
そう言って再び頭を下げるミツヨリお義父さん。
それに合わせて、ミツナガさんにツグミツさん、更には、モモさんやヨリタカ君まで頭を下げてくる。
それを見て俺は思った。金を出すタイミングを誤ったと。
ミツヨリお義父さんと2人のときに出すべきだったと。
そんな、スワ家一同からの御礼にちょっと気まずい思いをしながら、その場はお開きとなった。
そして、その夜のカリン先生と(何故か)コハクの奉仕が凄かったのは、言うまででもない。
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