第166話4.29 スワの町
それからしばらくして、俺達は、再び魔導車に乗りスワの町を目指していた。
後部座席にアンズさんを乗せて。
「すごい乗り物ねぇ。これトモマサ君が作ったの?」
「ええと、魔法学園の研究室で先生の指導のもとで作ってるものです」
嘘は言っていない。
動力部分以外は、ほぼ外注して造ってもらってるのだから。まぁ、その動力部分が最も大変だったりするのだけど。
ちなみに空は飛んでいない。
初めて乗るアンズさんにとって、あまりにも刺激が強すぎそうだったからだ。
それに、スワの町までなら普通に走っても2時間程の行程なので飛ぶ必要も無いのだ。
そして、街道を走って辿り着いたスワの町は、はっきり言って廃墟だった。
「あの栄えていたスワの町が……」
改めて街を見たカリン先生が絶句している。
それは、そうだろう。
10年前、街を出た時には近辺の要所として栄える街だったのだから。
「大丈夫、カリン?」
アンズさんも辛そうだ。
娘の悲痛な顔に心を痛めているのだろう。
そんな街の様子を見ながら魔導車で進んでいく事数分、質素な門らしき物と人影が見えてきた。
「あれよ。トモマサ君、あそこに行っててくれる」
アンズさんの要請を受けて俺は、魔導車を進める。
やがて人影が大きくなり門が大きく見えてきたところで魔導車を止めた。
見えていた人影が何やら武器を取り出したからだ。
「アンズさんここからは、歩いた方が良さそうです。何だか警戒されてます」
「そうね。これ以上近寄ったら攻撃してきそうね。降りて歩きましょう」
俺の提案を了承したアンズさんが魔導車を降りる。
それに併せて皆も降りていった。
そして門に向けて歩いていく。
先頭は、アンズさんだ。
そのアンズさんが武器を取り出した人影、おそらく門番だろう人に声を掛けた。
「ご苦労様。驚かせてごめんね。夫に会いにきたのだけど、いるかしら?」
「これは、奥様でしたか。得体の知れない物が近付いてくるから警戒しましたよ。今、領主様に連絡がいってますので、こちらに向かって来られると思います。中に進んで行かれれば、お会いできるかと」
「そう、ありがとう。入らせてもらうわ」
そう言いながら門の中に入って進んでいくアンズさん。俺たちもアンズさんの関係者とみなされたのかノーチャックで進んでいく。しばらく進むと、前方から20歳過ぎぐらいの偉丈夫な男性が走ってきた。
「あ、母様。今、表門から不審な乗り物が来たと連絡があったのですが、ひょっとして母様ですか?」
「そうよ、ツグミツ。だから、慌てなくて大丈夫よ」
アンズさんの言葉にあからさまにホッとするツグミツさんに、おずおずとカリン先生が声をかける。
「あの、ツグミツ兄様ですか?」
「うん? お、おお、ひょっとしカリンかい? すっかり綺麗になって、全然気付かなかったよ」
言いながら、カリン先生の頭を撫でるツグミツさん。
撫でられるカリン先生は、少し顔が赤い。
「本当に、ご無沙汰しています。それともう子供ではありません。頭を撫でないでください」
「ははは、すまんすまん、あまりに嬉しくて、つい昔みたいにしてしまったよ。そうだったね。大人の女性には失礼だったね」
朗らかに笑うツグミツさん。
中々の好青年だ。
「ところで、父さんはいる? カリンがね、大切な人を連れて来たから紹介しないといけないのよ」
「ほう」
『大切な人』のところで、目を細めて俺を見るツグミツさん。
ちょっと怖いです。
「ツグミツ兄様。トモマサ君を睨まないでください」
カリン先生の抗議に、朗らかに笑うツグミツさん。
だが、さっきと比べると何処かぎこちない。
そんなツグミツさんの先導で俺達は、領主の館へと向かった。
今、俺の目の前には、武人という言葉がしっくり合う厳つい顔した40歳ぐらいのおじさんが座っている。
その横には、ひょろっとした20代後半ぐらいの青年も合わせて座っている。
「お初にお目にかかる。某は、スワ ヨリミツ。カリンの父であり、このスワの町の領主を務めさせていただいておる。ただ、今の所、街は魔物に占拠されておりとても領主とは呼べぬがな。ふっははは」
「あ、どうもはじめまして、私は、スワ ミツナガです。こっちの領主の長男で、そっちのカリンの兄です。よろしく」
「初めてお目にかかります。私は、アシダ トモマサ。魔法学園の学生です。カリン先生には、大変お世話になっております」
前の2人の挨拶につられて、俺も挨拶を返す。
本当は、ここでカリン先生との交際についても言うべきなのかも知れないけど、お父さんの威圧が凄くて言いそびれてしまった。
そんな俺の後ろでカリン先生とアンズさんが、ヒソヒソ話をしている。
「父さん、すっごい厳つくなってるけど、なんで?」
「さっき言ったでしょう。魔物討伐のために訓練したって」
「ええ〜、それであんなになるの? 話し方まで変わってるじゃない」
「そうなの。初めは私も驚いたわよ。今は慣れたけどね」
いや、そんな話は、別のところでしてほしい。
今の俺は、蛇に睨まれた蛙状態なのだから。
ずっと俺を睨んでいた(本人的には見てただけだと思うのだが)ヨリミツさんだったが、次はカリン先生に声をかけていた。
「して、カリンよ。ほんに久しいな。息災であったか」
「は、はい。お父様。仕事にも慣れ、元気にやっております。ははは」
ちょっと緊張気味に返事をするカリン先生。先生もなんだか戸惑っているようだった。
そして、その場に流れる沈黙。
ものすごく居心地が悪い。
「ははは、驚いただろう? カリン。父さんが変わってて。何か剣術の修行を受けるうちに、先生の話し方が移ったみたいでね。でも、性格は変わってないから大丈夫だよ。それよりも、今日は本当によく来てくれたね。成長したカリンを見れて僕も嬉しいよ。今日は、ゆっくりして行けるんだろう? 僕の妻と子も紹介したいしね。近況なんかは、その時に聞かせてくれるかな?ね、母さん」
「そうね。ミツナガ。豪華な夕食を準備しておくわ。今日は、皆で再開を祝いましょう」
沈黙を流すかのように話をする、ミツナガさんとアンズさん。
「それじゃ、僕達は、魔物の討伐があるから、そろそろ行くね。毎日しないと、直ぐに増えてしまうんだ」
言いながら、ヨリミツさんを引っ張って部屋を出て行くミツナガさん。
そんな2人に俺は、声を掛けた。
「魔物の討伐なら手伝いますよ。こう見えて、傭兵ギルドに登録した傭兵なんです」
「へぇ、そうなんだ。それは、嬉しいねぇ。この街には、中々傭兵が来てくれなくて困ってるんだ。是非、頼むよ」
そして皆でヨリミツさん達について行った。
スワの町、スワ湖を囲むように広がった街である。
一部に城壁はあるようだが、全てを囲っているわけではないようだ。
「それでも、かつては魔物なんて近寄らなかったんですよ?」
カリン先生の話を聞きながら俺たちは、荒らされ尽くした街を歩いている。
目の前では、ツバメ師匠とルリが競うように魔物に突撃して行っている。
そして、全ての魔物を一撃で屠っていた。
この辺りの魔物は、あまり強くないようだ。
それを見ながら、さっきのカリン先生の疑問について考える。
「何で、急に魔物が寄って来るようになったんだろうな。コハクは何か知ってるか?」
俺は少し後ろを歩くコハクに話を振ってみた。
スワ湖の龍神として祭られていたコハクなら何か知ってるかと思って。
「結界がー、壊されたからー」
いつもの間延びした声で返事が返って来た。
「「結界?」」
俺とカリン先生の声が重なる。
そして、コハクが語り出した。
非常に聞きずらいので結果だけまとめると、こうだ。
大変革後、先代の龍神として祭られていたリュウジさんは、魔物が来ないようにスワ湖周辺に結界を張ったそうだ。
残念ながら、魔虫だけは防げなかったようだが。
それでもスワ湖周辺は魔物の寄らない土地として認識され、早くから大きな街として復興して行ったそうだ。
そしてその結界はコハクの代になっても守られていた。コハクが、この地を離れ操られるまでは。
「それなら、再び結界を張ったら魔物は逃げ出すのか?」
「それはー、無理ー。それにー、エネルギーがー、足りないー」
そしてまた、コハクの話が続くのだが、やはり聞きづらいのでまとめると、こうだ。
結界は魔物を近寄り辛くするらしいが、逃げ出すほどではないらしい。
再び結界を再度張るためには、大量の魔素とは違う龍人族特有のエネルギーが必要なため、無理だそうだ。
前回はリュウジさんが溜め込んでいたエネルギーで結界を張ったのだが、それももう無く、コハク自身が貼ろうとしても後、数百年はかかるそうだ。
「ままならないものですね」
しみじみと言う、カリン先生。
「でも一通り魔物を討伐して防壁を築けば、普通の街になるんだろう? それを目指して頑張りましょうよ」
俺の言葉に頷くカリン先生。
ちょっとは、元気が出たようだ。
そしてそのまま夕方まで狩をし続けて、俺達は領主の館へと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます