第165話4.28 再会

 翌朝遅くに俺は起きた。どうやら、かなり疲れていたようだ。

 いや、ナニし過ぎたからでは無いよ。

 リュウジさんと殴り合いしたからだよ……多分。


 起き上がると、既に身支度を終えたアズキが待っていた。

「おはようございます。トモマサ様」

「ああ、おはよう。アズキはいつも早いねぇ」

 そんな挨拶をしながら身支度を整える俺。

 その間に、皆に朝食に向かう旨を伝えに行ったようだ。

 ちょうど俺の準備が終わる頃に帰って来て一緒に食堂へと向かう。


「皆、俺が起きるのを待ってたのか。悪い事をしたな」

「皆様には、先に食べて頂くようにお願いしたのですが、温泉入って待ってるよ。と仰ってくださって」

 ああ、そうか。朝風呂に行ってたんだな。

 俺もちょっと行きたかったけど、流石にこれ以上遅くなる訳にはいかないか。

 まぁ、来たかったら転移魔法で一発だもんな。

 がっつく必要も無いか。

 そんな事を考えながら皆で朝食を摂る。


 朝食は、普通にご飯に味噌汁に卵焼き、珍しいものではヤマメの酢の物が付いていた。

 この甘酸っぱい酢の物が美味しくてご飯が進むこと進むこと。

 お腹いっぱい食べてしまった。

 そして朝食後、今日の予定を告げる。

「まっすぐ、フジミの町へ行くから、みんな出発準備してね。ってもう出来てるって?」

 どうやら、寝坊した俺以外、準備は整っているようだった。

 直ぐに宿をチェックアウトして魔導車に乗り込む。

 そして、シラホネの町を出てしばらくしてから、空へ飛び立った。


 魔導車の中、助手席に座るカリン先生は浮かれていた。

「家族に会うのは、本当に久しぶです。特にお父様とお兄様には、スワを離れてから会ってませんから。お兄様も結婚されて甥っ子まで産まれたとお母様の手紙にありましたし、今からとても楽しみです」

 本当に嬉しそうなカリン先生の話を聞きながら魔導車は空を進む。

 シラホネの町から、マツモト盆地を抜けスワ湖の上空でコハクに、

「スワ湖に降りなくていいのか?」

 と聞いたら、

「後でいいー」

 とのことだったので、そのままフジミの町まで直行した。


 もちろん、町の手前で地上に降りて魔導車を走らせる事を忘れずに。

 それでも、フジミの町の門番からは、かなり訝しげな顔で見られたけれど。

「それで、カリン先生の御家族のいる場所は、分かってるのですか?」

「ええ、手紙に書いてありました。町外れの民家を借りて住んでいますと。……あ、多分その道を右にいった先です」

 そう言って案内してくれるカリン先生の指示の元、進む事、10分ほどでポツンと離れた位置に一軒家が見えて来た。

「あれですか?」

 俺の問いかけに、大きく頷くカリン先生。

 今にも飛び出して行きそうだ。


 そして、到着した民家の庭にいる1人の女性に向けて、カリン先生が叫ぶ。

「お母様!」

 そう言って、女性の元に駆けていくカリン先生。

 『お母様』と呼ばれてキョトンとしていた女性であったが、カリン先生の顔を見て満面の笑みを浮かべていた。

 そして、抱き合う2人。感動の対面である。

「カリン先生、嬉しそうですね」

「そうだね。アズキも今度会った時は、ああやって抱きしめてあげるといいよ」

 嬉しさのあまり涙を流している2人に羨ましそうな感想を述べるアズキに、俺はそっと提案しておいた。

 前回の対面は、あまりにも急展開であったためよそよそしかったアズキであるが、今度会った時には素直になれると思うから。

 抱きしめてあげれば、きっと喜んでもらえると思うから。


「はい」

 ゆっくりと頷くアズキ。

 本人も分かっているようだった。

 それからも目の前で抱擁を続ける2人であったが方向的に俺たちが目に入ったのだろう、お母様と呼ばれた女性がカリン先生を促してこちらへと歩いて来た。


「皆様、申し訳ありません。あまりの嬉しさに我を忘れてしまって。カリンを連れて来てくれた方々にご挨拶もせずに」

「いえいえ、大丈夫ですよ……」

 ニコニコ話す女性に俺が返事をしてると、カリン先生が割り込んで来た。

「お母様、こちらが手紙でも書きました、トモマサ君です。私の大切な人です。そして後ろにいるのが、私と同じくトモマサ君の彼女でアズキさんとツバメさんとコハク。それで、その横にいるのが、私の教え子のシンゴ王子とカーチャ王女。後、トモマサ君の魔獣のルリ。このメンバーで今、旅をしているの。それから……」

 一気に話すカリン先生であったが、今度は、目の前の女性が止めに入る。

「ちょっと待って。カリン。私も自己紹介ぐらいさせて。それから立ち話ではなく、座ってゆっくり話を聞かせて。時間はあるんでしょう?」

「あ、うん、ごめんなさい。お母様。時間は、大丈夫よね、トモマサ君?」

 お母さんに止められて恥ずかしかったようだ。

 顔を赤くしながら、こっちに振ってくるカリン先生。そんなカリン先生に俺は親指を立てる。

 それを見て、破顔するカリン先生とお母さん。


 そして、お母さんの先導の元、皆で目の前の民家へと入っていた。


 民家のリビングルームでお茶を飲みながら話を聞く俺たちの前で、さっきからずっとカリン先生と先生のお母さん、アンズさんが話をしていた。

「そうなの。貴方が、トモマサ君ね。手紙の通り優しそうな人ね。お会いできて嬉しいわ。カリンをよろしくね。早くから家を出て一人暮らしさせてたから女の子らしい事何も教えてなくて心配だったけど、大丈夫そうね。出会ったら、すっかり乙女になって安心したわ」

 ニコニコとしながら話すアンズさんに、突然話を振られた俺は、

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 としか言えなかった。


「それで、お父様と兄様方は、どちらにおられますか?」

 早く会いたかったのだろう、ここにいない家族の事を尋ねるカリン先生。

 それに対してアンズさんは、驚きの言葉を返した。

「ああ、父さん達なら、スワの町よ。しばらくは帰ってこないわね。会いたいなら、こちらから行かないと」

「え? スワの町に住んでるの? あの街は、壊滅したのでは無かったのですか?」

 数年前に魔物の氾濫で壊滅して依頼、復興したと話を聞かないスワの町に住んでいる。

 その言葉にカリン先生は大きく困惑していた。


「そうね。今でもスワの町は、魔物が徘徊しているわ。昔は、魔物なんて全く近寄らなかったのにね。不思議よね〜。ああ、そうじゃないわね。父さん達ね。あの人たちはね、今、スワの町から魔物を駆逐して復興を目指しているの。そのために、毎日魔物討伐をしているわ。それで、あっちに野営地を作って暮らしているの。フジミの町に帰ってくるのは、2週に1度ぐらいかしらね」

 なんでもないように話すアンズさんであったが、その言葉を聞いたカリン先生は不安になってきたようだった。

「お父様達、大丈夫なの? 魔物の討伐なんて出来るの?」

「ええ、部下達と頑張って鍛えたから、大概の魔物には負けないぐらいには強くなってたわよ。それも、会えばわかるわ」

 本当になんでもないように話すアンズさん。

 十分に信頼しているようであった。

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