夏休み・中編
第138話4.1 帰還
アリマの街を出てから2日目、イソウの街に到着した。
傭兵ギルドの前に魔導車を停めて、建物の中に入る俺たち。
「こんにちは、ギルドマスターのヤクロウさんおられますか?」
傭兵ギルドの受付嬢に取次をお願いした。
だが。
「ご予約取られてますでしょうか?」
流石、ギルドマスターである。予約がいるようだった。
「ああ、すみません。取ってないです。今、会うのは難しいでしょうか? 次となると、いつここに来れるか分からないので」
「そうですか。ちなみにお名前伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、アシダ トモマサと言います」
「え! アシダ トモマサ様⁉ あのドラゴンスレイヤーの! すぐに、ギルドマスターに確認してきます」
ドラゴンスレイヤーって何? そんな風に呼ばれてるの。厨二病は、20年以上前に卒業したんだ。止めてくれ。と、俺が驚いている隙に裏へ引っ込んで行く受付嬢。
その呼び名広まってないでようね? 勘弁してくださいよ。
そんな事を考えていると、聞いた事のある声がした。
「トモマサ君、帰ってきたか。良かったよ。アリマの様子を聞いて心配していたんだ。色々聞きたいし、こっちの応接室に来てくれ」
ギルドマスターのヤクロウさんだった。
ヤクロウさんに連れられて応接室に入る。
「いや、1人も欠ける事なく帰ってこれたんだな。良かった良かった。さらに新しいパーティーメンバーまで増やして。流石、ドラゴンスレイヤー トモマサ君、若いねぇ」
コハクを見ながらニヤニヤするヤクロウさん、どうやら勘違いしているようだ。
「違いますよ。コハクは、俺の彼女じゃないですからね」
「ふーん、コハク
さらにニヤニヤするヤクロウさん、駄目だ、なんだか話術に嵌ってる気がする。話題を変えねば。
「そんなことよりも、ドラゴンスレイヤーって何ですか? 受付嬢にも言われましたし、まさか流行ってるんですか?」
「おお、ドラゴンスレイヤーな、『明けの明星』のスバルが言い出してな。ドラゴンを斬った刀の『ドラゴンごろし』と合わせてすっかり定着したな。『ドラゴンごろし』を持つドラゴンスレイヤー トモマサってな」
マジか、『ドラゴンごろし』ってあれだろ? バーサーカーが振り回す鉄塊だろ? あんな剣持ってねぇよ。ぱっと見普通の日本刀だよ。
その上、ドラゴンスレイヤーとか何してくれてんだ、スバルさん。俺の悲痛な顔を見たヤクロウさんがさらに続ける。
「何だ? 嫌なのか? 変な奴だな。最高の二つ名だと思うんだけどな。スバルも含めこの辺りの傭兵達は、敬意を込めて呼んでるぜ。街を救ってくれたってな。だからそんな顔するなよ。それに、どんなに嫌がってももう変えられないと思うぜ。それだけのインパクトがある出来事だったからな」
『赤い○星』とか『世紀末救○主』とか痛い二つ名に比べて、まだマシだと納得するしかないか。
そう思って溜息を出すとヤクロウさんが、この話は終わりだとばかりに苦笑いしながら机の上に布袋を置いた。
「忘れん内に渡そう。丹波抜刀隊パーティーに向けてドラゴン討伐の報酬だ。金貨300枚ある。どう分けるかは、パーティー内で決めてくれ」
「
「何を驚いている。街を延いては王都を救ったんだぞ。少なすぎるぐらいだ。けど、シンイチロウ王子が、あまり目立ちたくないトモマサ君達は、金額を増やしても喜ばないだろうというので、この金額に抑えたんだ。だから、この金だけは何があっても貰ってくれ。そうでないと困る。こちらの面子が立たないからな」
聞けば、これ以上の金額になるとイチジマの本部で授与式を執り行う事になるという。
まだ未成年でランク外の俺が授与式なんて出た日には、丹波連合国中に名が売れることは必然だろう。
復元魔法復活でただでさえ目立ってるのに、これ以上、名を売りたくはない。
生き残るためには、遠慮せず行動するつもりなのだけどね。
「分かりました。金貨、遠慮なく、いただきます。ありがとうございます」
「ふぅ、これで一つ片付いたな。それと、もう一つ、トモマサ君が成人したら傭兵としてのランクがつくのだが、このランクを『ミスリル』から始めさせて貰おう。他のメンバーも『銀』から始めて貰う。いいかね?」
『ミスリル』って、どれぐらいのランクだっけ? 俺が、首を傾げてるとヤクロウさんが教えてくれた。
傭兵ランクは、鉄、魔鉄、銅、銀、金、ミスリル、オリハルコンと上がっていくとの事だ。
普通は、当然、鉄ランクから始まるのだが、ランク外の期間の貢献度や登録までの経験、例えば騎士等を踏まえてもう少し高いランクから始まる事もあるそうだ。
実際に俺たちも大量の魔物を持ち込んだ実績を買われ、銅ランクぐらいから始められるようになっていたらしい。
ちなみに、鉄=初心者、魔鉄=初級、銅=中級、銀=上級、金から上は、最上級扱いで、ミスリルやオリハルコンは名誉ランクだとか。
「そんな名誉(ミスリル)ランク貰えないですよ」
「申し訳ないけど、拒否権はないよ。ヤヨイ様が認めてしまったからね」
なんだと! ヤヨイの奴め! また、俺が困るような事を勝手に決めやがって。
1人憤る俺の怒りをよそに話は進んでいく。
「確か、1人成人してたね。カリンさん、だったかな? ランクをあげられるけど、どうする? 今上げてもいいし、トモマサ君と同じタイミングで上げてもいいよ」
「あ、それでしたら、トモマサ君と同じタイミングでお願いします」
カリン先生の答えにヤクロウさんが大きく頷く。
「分かった。それで進めさせて貰おう。それから、最後に、これはお願いだ。ドラゴンの素材を幾つか売って欲しい。皆の装備を見る限り、かなり使っているようだが、まだ余ってるだろう? どうかな?」
「素材ですか。確かにまだまだありますね。何が欲しいですか?」
「お、良いのか? 助かるよ。カイバラの領域で倒されたのに何の素材も持ってないとかイソウの傭兵ギルドとして問題だからね」
確かに、傭兵が倒したのに最も近い街に売らないとか、仲が悪いと勘繰られても不思議ではないな。
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