第139話4.2 帰還2

「そんなに大した物はいらないんだ。鱗と皮と肉と血ぐらいで」

 俺は、言われた部位をアイテムボックスから出していく。


「こんな物で十分だ。代金は、いくらぐらいだ?」

「えっと、よく分かりません」


 素材の価格、俺に分かるはずもない。普通の魔物でも分からないのに。


「そうか。それなら、白金貨5枚でどうだ?」

 なに? そんな価格なのか? 鱗数枚と3m四方ぐらいの皮と10kgほどの肉と1Lぐらいの血が白金貨5枚5000万円


「討伐の報酬より高い?」

「いや、言っただろう? 討伐報酬は、本来はもっと高いって。まぁ、その低くなった討伐報酬の代わりに素材を高く買ってる面もあるのだけどね」


 なるほど、そこで帳尻を合わせようとしているのか。


「もっと安くても良いのですよ? ギルドが損してしまいませんか?」

「ははは、大丈夫だよ。トモマサ君。オークションならこの肉だけで、白金貨3枚ぐらい出す貴族はいるから。他を合わせても白金貨10枚を下回る事はない。オークション手数料を引かれてもギルドは、大儲けだよ」


 なんだその価格。肉に白金貨だと?


「ドラゴンって、そんなに美味しいのか?」

 驚きながら俺の口から出た言葉に、カリン先生が呆れ顔で答えてくれた。


「トモマサ君。授業でも教えたでしょう? 強い魔物の肉を食べると魔素量が上がるって。ちゃんと覚えてくださいよ? ですので、ドラゴンの肉なら魔素量の低い子供を持つ貴族が挙って買ってくれます。常識ですよ? 一応、魔素量が多い肉ほど美味しいですしね」


 おお、確かにそんな話を聞いたな。なるほど、味よりも魔素量の問題なんだな。まぁ、味も良いみたいだが。


「すみません、カリン先生。言われて思い出しました」

 俺の答えに皆の笑い声が聞こえる。

 皆知っていたようだ。常識だもんな、当然か。


「ドラゴンをも屠るトモマサ君は、常識に疎いのか。そして、彼女の尻に敷かれていると。うんうん、やっぱりそうでないとな!」

 なにやら、ヤクロウさんがニヤニヤしながら1人納得している。


「私、尻になんて敷いてないですよ?」

 カリン先生は、尻に敷いてると言われたのが恥ずかしいのか、赤い顔して慌てて否定している。


「ははは、カリンさんそんなに気にしなくても。大概の家庭では旦那は尻に敷かれてるものだからな」

 その後は、ヤクロウさんが如何に奥さんの尻に敷かれているかノロケを聞いて話は終わった。



 ヤクロウさんとの話も終わり、俺達は、魔導車で一路、イチジマの街へと向かう。


「アズキ、運転大丈夫?」

「はい、問題ありません」


 イソウの街からイチジマの街までの運転は、アズキにお願いした。

 距離も少ないし、今日は帰って寝るだけだから魔素が無くなっても問題ないので。

 その間、俺はと言うと荷台でルリと戯れていた。


 猫と言うよりも豹のような大きさになり、コウベの領域でも魔物を狩れるほどに成長したルリであるが、産まれてからようやく6ヶ月ほど。

 まだまだ、甘えたい盛りだ。

 座っている俺の足に頭を擦り付けてきたり、2本ある尻尾で顔をペシペシと叩いてきたりして、構って欲しいアピールをしてくるのだ。

 最初は魔導車改良の思案をしたいた俺であるが、あまりにしつこいので上に乗りかかって全身でもふりまくってやった。


「ごろごろ、にゃー」

 ルリの方も最初は気持ち良さげに声を出していたのだが、もふりがあまりに激しかったのか、途中から反撃を始め、尻尾で脇をくすぐってくる。

「こら、止めろ」

「にゃー!」

 狭い魔導車の荷台で1人と一匹が暴れる。

 その度に車体が揺れるものだから、最初笑っていたカリン先生が見兼ねて止めに入ってきた。


「トモマサ君、やりすぎです。アズキさんが運転し辛そうですから、大人しくしてください」

「はい、すみません」

「にゃー」

 俺が誤ってションボリしていると、ルリも同じように頭を下げていた。

 私も悪かったですと言わんばかりに。


「はは、トモマサ君、やっぱりカリン先生の尻に敷かれてるみたいだね」

 やり取りを見ていたシンゴ王子が、そう言って笑い出す。


 そんな風にドライブを楽しんでいると、イチジマの街が見えてきた。

 街の手前で、運転手を交代する。

 アズキも一応運転できるとは言っても人通りの多い王都を運転するのは怖いらしく、お願いされて交代した。


 馬車に挟まれながら、大通りを行く。

 時間帯は、夕方少し前ぐらい。

 買い物客などの人通りが多い時間帯らしく道行く人々の視線が集まる。

 中には、指差して

「何だあれは!」

 とか叫んでいる商人までいる。

 これまでのイクノやアリマの街でもかなり注目を浴びたのだが、やはり王都、注目度が半端ない。


「何だか、目立ちすぎかな?」

「今更だよ。トモマサ君」

 俺の付与に返事をするシンゴ王子、確かに今更である。


 結局、これぐらいならと割り切ってそのまま寮へと帰った。

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