第64話2.2 入学式2

「私は、アズキです。トモマサ様の奴隷ですので、苗字はありません。柔術を少々嗜んでおります。以上です」

 俺が回想している間にアズキの自己紹介が終わったようだ。

 奴隷だなんて言わなくてもいいのにと思うのだが仕方が無い。

 早く普通の身分に戻れるよう頑張りますよ。


「最後は、俺か。アシダ トモマサです。魔法は、カリン先生に師事して、属性魔法と回復魔法、あと時空魔法を少し覚えました。剣術は、こっちのツバメ師匠に修行してもらってます。こっちは、まだまだ未熟です。後は、アズキの主人であり、ヤヨイの父親? です。よろしく」

 こんな感じ? と思ってカリン先生を見たら、先生、頭に手を当て上を見上げていた。

 俺なんか変なこと言ったかな?

「と、トモマサ、今なんて言った? ヤヨイ様の父親とか何とか言わなかったか? おい、どうなんだ?」

 あ、俺余計な事言ったわ。

 ツバメ師匠には、まだ伝えて無いんだった。


「師匠、落ち着いてください。それと、声が大きいです」

「す、すまん、つい興奮して、ヤヨイ様の父親と言ったら、あの『建国の父』様だろ? あの方とトモマサは同一人物なのか? 確かに名前は同じだが、年齢が伝えられているものとは異なるようだが」

 俺は緊張した面持ちのツバメ師匠の前に座り、手を取って話し始めた。

「俺は、今から1000年以上前に、庶民の家庭に生まれ、普通に育ちました。やがて、結婚して二人の子供にも恵まれ普通の家庭を築いていました。それが、ある朝目覚めると、昨年の9月でした。子供の体で。そして、1000年の歴史を知りました。俺は、次元の狭間で1000年も寝坊した、ただのバカタレです。『建国の父』などではありません。ヤヨイの父親であることは確かですが。決して『建国の父』などではありえません。……話を聞いて、もし、俺の事が嫌になったらいつでも言ってください。ツバメ師匠の悪いようには決してしませんから」

 以前、カリン先生にしたような説明をツバメ師匠にも語った。


 しばらく黙っていたツバメ師匠だったがポツリポツリと話し出した。

「私は、不思議だったんだ。どうして、剣術も下手くそなトモマサを好きになったのか。でも、今の話を聞いて解った気がする。私は優しい父親に憧れていたんだと。……私の父は、剣術バカで、毎日毎日私を鍛える為に厳しく厳しく指導してくれた。私は、そんな父でも好きだった。だが心の何処かで、優しい父親を求めていたのだと思う。その父親像にトモマサは、ピッタリだったんだ。見た目は子供なのに、何故かおっさんみたいな言動で、あんなに痛めつけてる私に対しても優しくて、最後には腕も無いのにカリン先生を救おうと盾になったりして。その優しさが欲しくて押しかけた私を受け入れてくれて、本当に嬉しかったんだ。だから、だから、トモマサが誰であれ嫌になったりはしない。私が聞きたかったのは、ただ、正体を知った私を置いて行ってしまうのではないかと心配しただけだ。トモマサは、私を置いていかないよな?」

 いろいろと言った最後には、アズキと同じことを聞いてきた。


「大丈夫です。置いてはいかないですよ。ただ、一緒にいたいなら、さっきの事は秘密ですよ。ばれたら、危険ですからね」

「わかっている。大体、バラしたのは、トモマサではないか」

 俺の言葉に安心したのか笑顔が戻っていたツバメ師匠。

 俺を揶揄う余裕があるなら大丈夫かな。

「トモマサ君、話は終わりましたか? 全く、他の人に聞かれたらどうするつもりですか。……あ、だから私が担任なんですね。仕方がないとはいえ、いろいろ問題が起こりそうですね……」

 俺に向かって話していたカリン先生だが、一人の世界に入ってブツブツとつぶやきだした。

 しかし本当に言動には注意しないとな。

 どこでバレるか分かったものじゃない。

 いや、俺が悪いんだけど。


 その後は学園の講義の説明や必要単位なんかの話をして終わった。

 昼を過ぎるぐらいまで時間を掛けて。

 本来は、もっと早くに終わる予定だったのだが、自己紹介というかツバメ師匠の独白が長引いた所為だった。


 解散後、クラスの皆で食堂へ来ていた。

 カリン先生は、やる事があるからと後ろ髪引かれながら職員室へ戻って行ったが。

「トモマサ君は、何の講義を取るつもりなんだい?」

 昼食のハンバーガーを食べながらシンゴ王子が聞いてきた。

 ちなみに、このハンバーガーのハンバーグの肉はとても美味しかった。

 聞く所によると、オジロの街の名産品でタジマキャトルと言うモンスターの肉らしい。

 俺は、それを聞いて普通に但馬牛だなそりゃ美味いだろう、と思ったのはここだけの話だ。


 話を戻そう。


 魔法学園の講義は選択制である。

 年間で必要な単位を取るかそれに準ずる成果を挙げれば進級できるシステムである。

 ほとんどの人は普通に講義を受けるのだが、たまに自分の魔法を開発するんだと言って研究に没頭したり、強い魔物を狩るんだと言って狩りに行ったりする人もいるらしい。 

 魔物狩って単位になるのかとも思ったが、戦闘能力も重要な世界であるので単位として認められるようだった。

 ただ単位が足りないからと狩りに行って大怪我する人もいるので、学外の活動には許可が必要との事だった。


 またまた、話は戻って。


「初級は、カリン先生に習ったので属性魔法と回復魔法の中級講義を取ろうかと。まぁ、初級のテストに合格したらだけどね。後は、身体強化も取りたいな。それと気になるのは、遺失魔法だな」

「遺失魔法か、トモマサ君には良いかもしれないね。かつての帰挟者が使ってた魔法がほとんどですから。先生方も喜ぶと思うよ」

 そうなのか。

 遺失魔法って帰狭者が使ってた魔法なのか。

 それなら確かに俺に合ってるかもな。

 ぜひ取ろう。

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