第65話2.3 入学式3

「シンゴ王子は、どんな感じにするの?」

 シンゴ王子の方も聞いておく。

「僕は身体強化の他は、戦闘術を中心に取っていこうかと思ってる。魔素が少ない僕では、数を覚えても仕方がないからね」

 シンゴ王子は細マッチョを活かしてガチガチの戦士になるみたいだ。

 他の皆にも聞いたところ、アズキは俺と同じものを取るらしい。

 ずっと付いて来るつもりのようだ。


 ツバメ師匠は身体強化の他に剣術の講義を取るようだ。

 あれだけの腕前なのに入学試験で勝てなかった先生がいるらしい。

 そこで修行を付けてもらうと言っていた。

 カーチャ王女は回復魔法の上級と他に、欠損部位の復元魔法を研究している研究室で研究生みたいな事をするようだ。

「IPS細胞の研究してるみたいなものか」

 カーチャ王女の話を聞いて俺がボソッとつぶやいた言葉に王女が質問してきた。

「何ですか? そのアイピーエス細胞って?」

「昔の21世紀の話さ。あんまり詳しく覚えてないけど、万能細胞だったかな? で失われた臓器なんかを復元する研究が行われてたんだ。実用化する前に科学が滅んじゃったけどね」

 ちょっと自嘲気味に言った後、カーチャ王女を見ると王女の目が輝いていた。

 いや、そう見えただけだが。


「その話、詳しく教えていただけませんか。出来れば、先生と一緒に」

「いや、でも、この話をしようとすると、俺のことも色々話さないといけないだろう? ちょっと無理なんじゃないの? それに本当に詳しくなんて覚えてないし……」

 俺の言葉に少し怯んだカーチャ王女だったが、諦めきれなかったらしい。

「それなら先生に守秘義務の契約をして貰いましょう。破ったら、奴隷になる契約を」

「待って! 待ってよ。この話、そんなに大事? 申し訳無いけど、本当に詳しい話は知らないよ?」

「本当に本当にほんとーに大事です。かつては、存在したのです。復元魔法が! ……ただ、今は、遺失魔法として扱われてます。どうしてだかわかりますか?」

 カーチャ王女の質問に俺は答えられない。

 首を横にする。


「使い手が、帰挟者だったのです。当人の死後、扱える人は誰もいませんでした。多くの人が魔法の再現を望みました。ただ、誰も成功する人はいませんでした。知識が足りないのです。復元魔法を使うための知識が! トモマサ様が、全ての知識をご存知だとは思っておりません。ただ、少しで良いのです。研究に協力してはいただけないでしょうか? 事故で腕を無くされた方や、魔物との戦いで足を無くされた方、本当に沢山の方が待ち望んでおられるのです」

 土下座をしそうな勢いのカーチャ王女の肩をシンゴ王子が掴んで止めた。

「カーチャ、ここでは、それ以上頭を下げるのは止めたほうが良い。トモマサ君の事を不審に思う人が出ないとも限らない」

「す、すみません。どうしても、お願いしたかったものでつい」

 カーチャ王女は、後先考えず勢いの付いてしまったのが恥ずかしいのか、赤い顔でイヤイヤしている。


「はぁ、カーチャ王女がそこまで頼むなら仕方が無いけど、どんな先生なの? 信用できる人なら、話するのは構わないけど」

 仕方が無いんだ。

 正体がばれるのは困るけど、美少女の頼みは簡単には断れないんだ。

 俺の言葉に花が咲いたような笑みを浮かべたカーチャ王女がその先生の人となりを教えてくれた。

 クリ マリ教授。20歳。

 魔法学園の卒業生で卒業後は実家の治療院で働いていたのだが、研究の為に魔法学園に戻って来たそうだ。

 遺失魔法の講義も受け持ってるらしい。


「とてもお綺麗な大人の女性ですよ。キャリアウーマンとでも言うのでしょうか?」

「女性なのですか? カリン先生みたいな事にならないでしょうね」

 女性と聞いて俺は嫌な予感を覚えた。

 また嫁候補だと言い兼ねないからだ。

 俺の言ったことが良く分からない感じのカーチャ王女にアズキがカリン先生との馴れ初めを語り出した。

 すげー恥ずかしいからやめて欲しいですけど。


「うーん、マリ教授は大丈夫だと思います。昔の彼氏に魔素容量の増加を手伝わせられた挙句、捨てられた事があるとお酒の席でいつも愚痴ってますから。男なんて懲り懲りだとも」

 マリ教授、あんた、12歳の子供になに語っとんじゃい。

 どうやら酒好きの先生のようだ。

 酔って言いふらしたりしないか心配だとカーチャ王女に質問する。

「ちゃんと、守秘義務契約しておけば大丈夫ですよ。語ろうとした途端、奴隷化されて語れなくなりますから」

 何度聞いても恐ろしい契約だ。

 よくそんな契約しようとするものだ。

 俺には理解できない。


 俺が呆れていると、カーチャ王女、断られると思ったのか、おずおずと上目遣いで

「やっぱりダメでしょうか?」

 とか聞いてくる。

 だから美少女にそんな顔されたら断れないですって。

「分かりました。お話ししましょう。役に立つとは思えないですけど。ただし、守秘義務契約だけはお願いしますよ」

「ありがとうございます。すぐに教授に話をして来ます」

 再び満面の笑みを浮かべたカーチャ王女は、お礼だけ言うと研究室のある方へ向かって駆け出していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る