第145話4.8 飛行2

「ヤヨイ様は、アシウの森にある、エルフの里におられるよ。早く行ってやりな。おっと、これ以上の情報は、言えないよ。情報が古いしね。詳しくは、エルフの里の長に聞くんだね。分かったかい」

「クイナさん、ありがとうございました。すぐに向かいます」

「ああ、急ぎな。それと最後に一つ、メイド長を許してやってくれ。この娘は、ヤヨイ様の命令を忠実に守っただけなのだからな」

 何かと思ったらメイド長へのフォローだった。


「分かってますよ。メイド長、無理を言ってすみません」

 俺の謝罪に首を横に振るメイド長、一言だけ告げてきた。


「ヤヨイ様を、ヤヨイ様をよろしくお願いします」

 言い終えて深々と頭を下げるメイド長、よっぽどの事態のようだった。


「よし、すぐ行こう。みんな、魔導車に乗ってくれ」

 俺が告げると、皆、玄関先の魔導車に乗って行く。

 今回は、マリ教授も付いてくるようだった。


「マリ教授、仕事は、大丈夫なのですか? アシウの森だと、この魔導車でも片道2日はかかる距離ですよ」

「カリン先生、大丈夫だ。1週間ぐらい、休んでも問題ない。仕事ばかりしてて有給休暇は溜まりに溜まっているのでな。それに、トモマサ君の大事な娘であるヤヨイ様の事を放っておく事は、私には出来ない。ここは、例え仕事をクビになっても付いて行く時だ」

 マリ教授、盛大な宣言をしている。

 その心意気、とても嬉しいです。

 でもね、そんなに時間かからないですよ。


「マリ教授、大丈夫です。アシウの森、2時間もかかりませんから」

 俺の言葉にマリ教授はもちろんのこと、アズキもカリン先生もツバメ師匠ですら「え?」って顔をしている。


「まぁ、見ててください。みんな準備は、OKですか? それじゃ、トモマサ、魔導車、いっきまーす」

 俺は某ロボットアニメの主人公の真似をしながら、ついさっき増設した魔石に魔素を注ぐ。


 すると、魔導車は、前ではなく、上に向かって進みだした。

 そう、俺は、魔導車を空陸両用車両に魔改造したのだ。ほんの2時間ほどで。


「「「きゃーーー!!!」」」

 車内に悲鳴がこだまする。


「と、飛んでる。どうなってるのトモマサ君」

 よっぽど怖いのだろう。カリン先生が、涙目で問い質してくる。


「はい、飛べるように改造しました。このまま、アシウの森まで一気に行きます」

 そう言って、上昇を止め、前方に向かって進んで行く。高度は、かなり高めにした。王都の真ん中だし、あまり目立っても困るので。


「飛ぶなら飛ぶと先に言ってくれ」

 マリ教授も、よっぽど怖いようだ。アズキに抱きつきながら抗議して来る。抱きつかれているアズキはというと、落ち着いているようだ。

 もっとも浮き上がった瞬間だけ、悲鳴をあげていたのを俺は見逃してないが。


「おおー! すごいな、トモマサ。街があんなに小さく見えるなんて」

 そして、1人大興奮のツバメ師匠。浮き上がりの時の悲鳴もツバメ師匠だけは歓喜の声だったようだ。

 ルリと一緒に車から身を乗り出して下を見ている。頼むから落ちないでくださいね。

 いや、本当に。


 大混乱の車内をよそに魔導車は、一路アシウの森に向けて進む。

 速度をぐんぐん上げながら。


―――


「ふっは、は、ははははははぁ。アレがアズキお嬢様の想い人か。面白い。なんて面白いんだ。こっちの予想の遥か斜め上を行っているな」

 魔導車が飛び立つのを見た、クイナは、1人大爆笑していた。


「メイド長は、知っていたのか? あの乗り物が飛ぶ事を」

「いいえ、全く知りませんでした」

 一方、同じく飛び立つところを見たメイド長の顔は、完全に引き攣っていた。


「馬を必要としない乗り物の研究をしているとは聞いていましたが、まさか、空を飛ぶとは」

 科学が滅びた31世紀、空を飛ぶなんて予想だにしない事なのだろう。移動は馬車がメインなのだから。

 転移魔法という方法もあるが、極一部の人しか使えない裏技のようなものなのだから。


「恐ろしい物を作りよるわ。あの男。ただの帰挟者ではないようだな」

 クイナのつぶやきに首肯する、メイド長。


「只者ではないのは分かります。ですが、流石にヤヨイ様を助ける事は難しいかと」

「それは、そうかもしれんな。だが、あの男がヤヨイ様に会えば、必ず助けようとするだろう。それも、あらゆる手を使ってな。子を思う親の気持ちは、何よりも強いものだから。……ふっ、私が言うことではないな。メイド長の方が詳しいだろうからな」

「はい」

 何かを思い出すように答えるメイド長。


 訳ありの女たちが集まるヤヨイの屋敷。メイド長にも、いろいろな事があったのだろう。

 もちろん、全く態度に表さないクイナにも。

 それぞれの過去を思い出しながら頷き合った2人は、それからしばらく、ただ空を眺めていた。

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