第144話4.7 飛行

 昼ご飯を堪能した後、改造した魔導車に乗って皆で出掛けた。

 広くなった魔導車、ルリとツバメ師匠が、のびのびと昼寝出来るほどの広さだった。

 

 いや、本当に寝てるし、ヤヨイの屋敷までだから寝てもすぐに起こしますよ。特に、ツバメ師匠。などと思ってるうちに、屋敷に到着した。


 魔導車を見た門番さんが驚いていたが、俺の顔を見ると何も言わずすぐに門を開けてくれた。

 それでも、通り過ぎる魔導車をずーっと眺めていた。

 やはり、こう言う乗り物は、男心をくすぐるのだろう。時間がある時に乗せてあげようと思いつつ、玄関先で魔導車を止めた。


 止まった魔導車を降り屋敷の中に入ると、メイド長が待ち構えていた。

「いらっしゃいませ、トモマサ様。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


 さも当然のようにといかけるメイド長に、俺は少し違和感を抱く。

 いつもならメイド長を含めたメイド達は俺に挨拶をすれど、要件を聞くようなことは無かったからだ。


「えーっと、ヤヨイと話がしたくて来たんだけど。ひょっとして留守だったりする?」

「申し訳ございません。トモマサ様、お言葉通りヤヨイ様は、留守にしております」

 予想通り留守のようだ。

 それにしてもメイド長、いつもより表情が硬い気がする。

 もっとも普段からほとんど笑顔を見せないメイド長であるから、勘違いかもしれないけど。


「ふーん、王城にでも行ってるの? いつ戻って来る? いや、王城なら会いに行った方が早いか」

「いえ、王城に行ってもヤヨイ様はおられません。それと……」

 とても言いづらそうなメイド長。さらに表情を硬くして言葉を続けた。


「いつお戻りになるかは、分かりません」

「は?」

 メイド長の言葉に、俺は変な声を出してしまう。


「ですので、お戻りになられるかは分かりません」

 さらに続けるメイド長の言葉。


 いつ戻るか分からない? 戻るかどうかも分からない? 自分の屋敷なのに? 俺は理解に苦しんだ。


「この屋敷には、戻らないかもしれないって事?」

 メイド長の顏が青くなっている。どうやら言ってはいけない事を言ったようだ。


「どう言う事だ。メイド長。教えてくれ。ヤヨイは、どこに・・・行った?何で・・戻ってこないんだ?」

 俺は口調を強めて問う。

 だが、メイド長、青い顔のまま目を泳がせるだけで、答えが返ってこない。


「どうした? メイド長。俺には、教えられない事なのか? このヤヨイの父親である。アシダ トモマサに」

 間違いなくヤヨイから口止めされているのだろう。そう考えた俺は、自分の立場をわざと強調する。


「も、申し訳有りません。申し上げることが出来ません」

 顔を真っ青にして、深々と頭を下げるメイド長。


「ヤヨイに口止めされているのか?」

 俺の確認に頭を下げたままのメイド長の肩がびくりと揺れる。


 やっぱりか。しかし、この調子だとあれだな。殺されても言うつもりはないのだろうな。困った。

 メイド長の雰囲気から、かなりの緊急事態だと思うのに、埒が明かない。

 仕方なく、俺はハッタリをかますことにした。


「メイド長。一つ教えておこう。隠しても無駄だよ? 俺が、本気で追跡魔法を使ったらヤヨイの居場所なんてすぐに分かるんだから。だから、手間をかけずに教えてくれると嬉しいんだけど?」

「つ、追跡魔法……」


 目が泳ぎまくっているメイド長。動揺しているのがよく分かる。


 嘘ついてごめんね、メイド長。実はもう追跡魔法使ってみたんだ。だけどヤヨイの反応は見つけられなかったんだ。まぁ、周囲500kmぐらいしかサーチしてないから、それ以外に行ってると分からないけどね。あと、魔素を遮断するような結界内にいる場合も分からないかな?


「それで、ヤヨイは、どこにいるの?」

 内心で言い訳しながら俺は、優しく問いかける。


 それでも、言い淀むメイド長に声が掛かった。


「教えてやりな、メイド長」

「クイナ様!」


 気配も感じさせず現れた女性に、

「クイナ?誰だ?」

 と思ってるところでアズキの声が聞こえた。


「婆や」


 俺は、目線は動かさず、意識だけを向けアズキに尋ねる。


「知り合い?」

「はい、トモマサ様、私の乳母をしていた方です」


 乳母ね。まぁ、元々アズキは、公爵家の子だったのだから乳母の1人ぐらいいても不思議ではないが。


「なんで、アズキの乳母だった人が、ヤヨイの屋敷にいるんだ?」

 俺は素朴な疑問を口にした。


 すると。

「それは、私から教えよう」

 元婆やのクイナさんが、簡潔に教えてくれた。

 今はヤヨイに雇われているらしい、忍びとして。


「ヘェ〜、31世紀に忍びね。まぁ、魔法があるんだから忍術があっても不思議ではないか」

 今更、驚く事はない。暇があったら色々聞きたいところだが。


 それよりも、今はヤヨイだ。

 視線をクイナさんからメイド長に向ける。

 当のメイド長は、まだ、決心がついていないようだった。


「仕方がない。私から教えるとしよう」

 メイド長の様子に無理だと思ったんだろう。

 クイナさんが苦笑を浮かべながら口を開いた。

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