第143話4.6 改造

 朝食後、皆と戯れた後、俺は1人、魔導車の改造をしていた。

 コハクが旅の仲間に入った関係で車内が手狭になったのだ。


「ボディを少し伸ばして、サードシートを設置して、ついでに金属屋根も付けるか」

 これまでの幌馬車的な構造から変更して車らしく変えていく。

 他にも思いついた機能を脳の身体強化で設計し搭載していくと、ほんの2時間ほどで改造を終わらせられた。


 本当に使い勝手のいい魔法だ、脳の身体強化。


 ちなみにカリン先生に脳の身体強化について聞いたのだけど、全く知らないらしかった。

 マリ教授が、遺失魔法に似たようなものがあったとか言ってたけど、詳しくは分からないらしく、結局、俺以外誰も使えない魔法だった。


 改造を終えて食堂に行くと、アズキが昼食の準備をしているところだった。


「トモマサ様、間も無く昼食の準備が整います。座ってお待ちください」

「ああ、ありがとう。ところで、皆は?」

「はい、皆様、1度ご自分のお部屋に帰られております。昼食には戻ると仰られておりました。コハク様もカリン先生について行かれております」

「そうか、それなら、昼ご飯食べてから、ヤヨイの所に行くか。色々報告もあるしね」


 カイバラの領域のドラゴンのこと、アリマの街の魔物のこと、コウベの領域で捕まえたローブ男のこと、コハクのことと話が満載だ。

 そんな事を考えているうちに、ポツポツと皆が集まって来たので昼食を開始する。

 今日のメニューは、夏野菜たっぷりのパスタだった。

 新鮮なトマトから作ったトマトソースにナスと万願寺唐辛子とオクラと夏定番の野菜がぶつ切りでゴロゴロ入っている。

 野菜は昨日帰ってくる時に、見かけた農園で直接収穫して買って来た新鮮なものだ。


「美味い。野菜は、やっぱり鮮度が命だな」

「トモマサ君、その言い方だと、野菜だけが美味しいみたいですよ。ちゃんとアズキさんの腕前も褒めてあげてください」

 別に野菜だけを褒めているわけではないのだ。

 ただ元農家としては野菜の美味さが気になるだけなのだ。


「すみません。カリン先生。アズキ、とっても美味しいよ。野菜の美味さを完全に引き出しているよ」

「ありがとうございます。トモマサ様」

「トモマサ君、やっぱり野菜メインな褒め方な気がしますよ?」

 俺の賞賛の言葉にアズキは顔を綻ばせているが、カリン先生はこれでも少し引っかかるらしい。

 最近、カリン先生が小姑化している気がする。まだまだ若いのに。


「それより、昼からどうするのだ? 何もないなら狩りに行かないか?」

 昨日まで、あれだけ外で狩りしてたのに、まだ行きたいのかツバメ師匠。

 俺は、呆れながら午後の予定を伝える。


「いや、ツバメ師匠、昼からはヤヨイの所に行こうかと思ってます。それに、昼から狩りに出るのは時間的に厳しいと思いますが」

「そうか、ヤヨイ様のところに行くのか。それは、私もついて行って構わないのか?」

「マリ教授も是非、同行お願いします。コハクを操っていた宝石の解析など、手伝って欲しい件もありますので」

 俺のお願いに、マリ教授も同意してくれ、ついて来てくれるようだ。

 ヤヨイとマリ教授2人で調査してくれればすぐに調べられそうだな。

 頼もしい限りだった。


―――


「ヤヨイ様。待つしかできないのですね」

 時は少し遡り、トモマサがコウベの領域に足を踏み入れた頃、メイド長は1人苦しんでいた。


「そうか、ヤヨイ様は、里に戻ったか」

 今まで誰もいなかった場所に突如現れた黒尽くめの女性が、メイド長に声をかける。


「クイナ様。……ご察しの通りです。昨晩、ヤヨイ様は、突如、体調を崩され里へと向かわれました」

「それで、容態は?」

 クイナと呼ばれた女性が、苦い顔をしたメイド長に詳細を聞く。


「芳しくありません。私が知る限り最も悪いかと」

「そうか、最近は、あの男が来たおかげか、調子良さそうだったのにな」

「はい、トモマサ様が来られてからのヤヨイ様は、本当にお元気で、何も心配いらないほどだったのに」

「そのトモマサには、教えなくて良いのか?」

 淡々と発せられる質問に、メイド長の顔が、さらに険しくなる。


「ヤヨイ様からキツく止められてます」

 その答えを聞いた、クイナ、苦笑しながら小さくため息をつく。


「ヤヨイ様にも困ったものだ。自分の父親なのだろう? もっと頼るべきだと思うのだが」

 その言葉に同意する、メイド長。


「私も、何度も進言したのですが、どうしても聞き入れてもらえませんでした。『父さんの足枷になりたくないと』仰られて」

「全く頑固な方だ。それでどうするんだ? この後に及んで、隠し通すのか? 噂では、そのトモマサ、カイバラの領域でドラゴンの単独討伐に成功したと聞いたぞ。それ程の力量魔素量ならヤヨイ様も助けられるのではないのか?」

「……分かりません。ただ、今、トモマサ様は、アリマの街におられて伝える手段も御座いませんので」

「なるほど。保留という所か」

 やれやれとばかりに肩をすくめるクイナ。


「それでは、仕事に戻ります」

 そう言いながら、去って行くメイド長の顔には、変わらず苦悩の表情が浮かべられていた。

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