第146話4.9 ミヤマの町

 飛行開始から2時間ほど、トモマサ達は既にアシウの森上空に到達していた。

「ふむ、上空からなら、エルフの里がすぐに分かると思ったんだが、木が邪魔で全くわからんな」

「本当ですね。トモマサ君の追跡魔法では、エルフ達の反応は、無いのですか?」

「さっきから見てるんですが、反応は無いですね。魔素を遮断する結界でもあるのかもしれません」

 目視で分からない時は、追跡魔法で。

 これで、すぐに里の場所がわかると思ったのだけど、ダメでした。


「取り敢えず、近くの町に行って情報を集めてはどうかな?」

「そうしますか」

 このまま、上空をうろうろしてても仕方がないので、マリ教授の提案に乗ることにする。

 とは言っても、街の場所が分からないので、再度追跡魔法で、人の集まりを探す。

 すると、10kmほど南に小さな町を見つける事ができた。


 町の数キロ手前に街道を見つけたので、着陸する。そこからは、陸路で移動していく魔導車。

 本当は、町に着陸したかったのだが、あまりに目立ちすぎるので少し遠慮したのだ。


「ミヤマの町へようこそ」

 魔導車で町の門を通り過ぎる時に、門番から声が掛かった。どうやら、ここは、旧美山村があった辺りのようだ。


「こんにちは。ちょっと教えてください。エルフの集落に行きたいのですが、どうすれば行けますか?」

 俺は、早速、情報収集に乗り出す。


「え、エルフの里ですか? うーん、あそこは、エルフ族しか近寄れないんです。他の種族の者だと、認識を阻害する結界が貼ってあるとか言われてます。詳しく聞きたいなら、傭兵ギルドにいるエルフの傭兵にでも聞いてください」

 驚きの答えだった。


 ひょっとしてエルフって、排他的種族なのか? どこのラノベ設定だよ。

 元々みんな人間なのだから仲良くして欲しいところだよ。

 そんな事を考えながら、門番に礼を言って町の中へと魔導車を進める。すると、少し進んだところに、すぐに傭兵ギルドを見つけることが出来た。


「小さい町だね。数百人規模か?」

「そうですね。ミヤマの町は、その程度の規模です。基本は、エルフとの貿易拠点と言うだけで、何も特産物が無いですからね」

 確かに1000年前21世紀でも、美山と言えば、自然と茅葺の古民家が売りだったものな。

 現代31世紀では、どちらも珍しくも無いものだから、売りにはならないわな。

 それよりも気になるのは、エルフとの貿易だ。


「貿易という事は、エルフの里は別の国なのですか?」

「トモマサ君、授業でも一回言いましたよね。覚えてないんですか?」

 カリン先生が苦言を呈しながらジト目を向けてくる。はて、聞いたかな? 何となく、夢の中で聞いたような……。


 そんな事を思い出していると、カリン先生が説明を始めてくれた。ほんと、良かった。優しい先生で。

 そのカリン先生の説明によると、エルフの里は属国扱いなのだそうだ。領域はアシウの森全体で、入国できるのはエルフのみ。

 但し、家族は例外との事。


「それって、ほとんど鎖国じゃないですか?」

「まぁ、そうね。でも、エルフは出入り自由らしいわよ」

 更に話を聞くと、この国の形を作ったのはヤヨイとの事だ。この国ができるまでエルフは、他の種族から体を狙われていたらしい。


 特に男が。


 魔素量増加を目指す肉食系女子に。

 ちなみに女も子供を産ませるために狙われる事はあったようだが、如何せん同意がないと子供が出来ないこの現代31世紀、あまり手荒な事はされなかったようである。


「しかし、困ったな」

「はい、困りました」

 俺たちは、傭兵ギルドのロビーで途方に暮れていた。


「まさか、大使館含めてエルフが全くいないなんて」

 そう、ここ1週間ほどミヤマの町に全くエルフが来ていない事が、傭兵ギルドの受付嬢に聞き込んだことにより判明したのだ。

 しかも、普段はエルフの里の窓口であるはずの大使館員ですら姿を見せなくなっており、傭兵ギルドでも困っているとの事だった。


「これは、エルフの里も大変なことになっていそうですね」

「ええ、カリン先生もそう思いますか。やはり、ヤヨイ絡みなんでしょうね」

 頷くカリン先生にアズキ、マリ教授も同意している。


「ここは、やはり一度、こちらの町長にお願いしてみるしかありませんね」

 カリン先生が、先ほど受付嬢から聞いたもう一つの情報について切り出す。


「でも、始めて来た人間に、協力してくれるでしょうか?」

「分かりませんが、話をしない事には進まないでしょう」

 全くもって仰る通りです。

 そう心の中で思いながら、俺は町長の家に向けて歩き始めた。


 傭兵ギルドを出て、100mほど行ったとこで、他の質素な家に比べるとほんの少しだけ小綺麗な家を見つけた。

 ここが町長の家のようだ。

 意を決してドアをノックすると、中から、70過ぎぐらいの爺さんが顔を出した。


「はいはい、どちら様ですかな」

「突然すみません。私、ヤヨイ様の縁者でアシダ トモマサと申します。町長さんにお話がありまして、お取り次ぎいただけますでしょうか?」

「はいはい、アシダ トモマサ様ですな。今、聞いて参りますから、お待ちください」

 そう言って、奥に戻って行く爺さん。何とか取り次いでもらえるようだ。

 しばらくすると、50代辺りの人の良さそうなオジさんが顔を出して来た。


「こんにちは、ミヤマの町の町長、アケチ ミツヨシです。私にお話との事ですが、何でございましょうか?」

「突然の訪問、申し訳ありません。私、ヤヨイ様の縁者でアシダ トモマサと申します。実は、エルフの里にいるヤヨイ様に急用がございまして。何とか、里と連絡取れないかと、厚かましくもお邪魔しました」

 俺の話を聞いたミツヨシ町長、少し考え込んでいたが、

「詳しくお聞かせください」

 と俺たちを家の中に入れてくれた。


「さて、トモマサ様と言いましたかな。エルフの里に連絡を取りたいのであれば、ヤヨイ様の屋敷から何らかの方法があると聞いております。そちらに、お願いした方が早いのではないですかな?」

 町長の家のリビングに通された俺達は、町長の奥さんが入れてくれたお茶を飲みながら少し俺の身元の話などをしていた。

 先ほどの言葉は、一区切りついた後にミツヨシ町長が切り出して来た疑問だ。


「そうですね。その方法で、連絡がつけば良かったのですが、残念ながら無理でした。ですので、私達が直接こちらに来たのです。そして、傭兵ギルドでエルフを探して連絡を取ろうとしたのですが、エルフが全くいないのです。ですので、藁をも掴む思いで町長のところにお願いに来ました」

「ふむ」

 と考え込むミツヨシ町長。期待を込めた目で見つめる俺達。


「……」

 部屋を沈黙が支配する。

 しばらくして、ミツヨシ町長は俺達にこう言った。


「エルフの里に向かう道をお教えします」

「え! そんな簡単に教えてくれるんですか?」

 驚きを口にする俺に、町長は続けて話をする。


「道はお教えします。これは別に厳密な秘密ではないので。ただ、あまり一般には知られないようにはしてます。無闇に死体を増やすことに繋がりますから」

 物騒なことを言い出す町長。

 ミツヨシ町長の話をまとめると、こうだ。

『道は教える。ただ道には強力な魔物がおり、並の人では里まで辿り着く事は出来ない。それでも良ければ好きにしろ』だ。


 何とも無責任な言い方だが仕方がないらしい。

 かつての町長などは脅されたり拉致されたりすることがあったらしいので。

 武力の無い町長に秘密を守れと言うのは無理だから。


「貴方方も若いが、傭兵のようだ。戦いは心得ているだろう。命は、大切にした方がいいと思うがね」

 よほど強力な魔物がいるだろう。

 だが、それでも俺達には有益な情報だ。

 ミツヨシ町長に礼を言って飛び出して行く。


 エルフの里を目指して、ヤヨイを助けるために。

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