第147話4.10 里への道
翌日、俺達は森の中にいた。
ミツヨシ町長の家を飛び出した俺達であったが、エルフの里へと向かう道を確認した時点で日が傾きだしたので、一度、ミヤマの町へと帰り宿を取ってから再出発したのだ。
「この道であってますか? 大した魔物も出ないのですが」
「そうですね。合ってると思います」
幾度となく、そんな会話をしながら足を進める俺達は既に飽きて来ていた。
ミツヨシ町長にあれだけ嗾けられたにも関わらず全く魔物が出てこないので。
不審に思った俺が追跡魔法で確認するも周囲10km以内には、魔物の反応は全くなし。
実に不思議な森であった。
「トモマサ、少し先に広場があるぞ」
先行して偵察に行っていたツバメ師匠とルリが戻って来て教えてくれる。
「取り敢えず、そこまで行って昼休憩しますか」
少し早足で歩く俺たち。
時間は既に昼近く。
朝が早かった事もあり腹が減って来ていた俺としては、早く昼ご飯にしたかったのだ。
到着した広場は綺麗な円形で、くり抜かれたように木が生えていない。
明らかに人工的なものに見える広場。
何と無く不気味だ。
「この空間、何の為に造られたんでしょうね」
それとなく皆に聞いてみるが、明確な答えは返ってこない。
「分からないけど魔物の気配はないみたいだし、あそこに丁度いい岩場もあるし、昼ご飯にしない? 腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょう」
まぁ、そうだね。気にし過ぎても仕方がないし、追跡魔法で警戒しながら食事にするか。
そう思って広場の真ん中付近、岩が椅子のように固まってるあたりに陣取って座る。
その後、アイテムボックスからすぐ食べられるサンドイッチや、おむすびなどを出して行くと皆の手が伸びて来た。
カリン先生とマリ教授はサンドイッチ、アズキとツバメ師匠とコハクはおむすびを手に取って食べている。
その隣に、唐揚げやポテトフライ、ミニトマトなどを並べて行く。
飲み物の日本茶も忘れずに。もちろん、ルリには別メニューで生肉を出してあげた。
上手に前足で押さえて食べている。
俺も、おむすびを頬張っていると、マリ教授がそっと肩を叩いて来た。
「どうしましたか? マリ教授。ひょっとして、もっと唐揚げが食べたいですか? いくらでもありますよ?」
この唐揚げ、イチジマの街のお気に入りの屋台で購入した逸品である。
この屋台、鳥だけでなくオークやボアの唐揚げも作っており、味も醤油、ガーリック、こだわりのごま油など多彩で見つけるとつい買ってしまうのである。
そのためアイテムボックスの中は、唐揚げだらけなのだ。
と、唐揚げの説明をしたが、マリ教授のお願いは全く別のことであった。
「あの、おてあ……では無く、お花を摘みに行きたいのだが」
「あ、ああ、トイレですね」
はっきり言われたマリ教授、バツが悪そうに赤い顔している。
男は俺しかいないし、生理現象なのだからそんなに照れなくてもいいと思うのだが。
そう思いながら、アイテムボックスからある魔道具を出す。
「組み立て式トイレー」
バックで『タララッタラ〜。』と聞こえそうな出し方である。
「使い方は、分かりますか?」
俺が問うと、マリ教授首を横に振っている。それじゃあ、と俺が説明しようとすると、カリン先生に止められた。
「説明は、私がするわ。全くトモマサ君、いくら彼女でもトイレは恥ずかしいのよ。シンゴ王子のように、とは言わないまでも、もうちょっとデリカシーを持ってくださいね」
なぜか叱られる俺。
でも、まぁ、分からなくもない。
妻も娘も女だと。だから、その時と同じように「ごめんなさい」と謝っておいた。反論しても勝ち目がないから。
妻と娘合わせて3人でも勝てなかったのに、今は、女性が5人(4人彼女)がいるのだ。
万に一つも勝ち目はないだろうから。
ちなみに組み立て式トイレは、ホンダ魔道具製作の魔道具だ。収納時は、軽くてコンパクト。ボタン一つで21世紀で言うところの簡易トイレのようになり、排泄物は魔法で風化して自然に返してくれると中々の高機能製品だ。
金貨1枚といいお値段がするのだが、女性傭兵や旅商人御用達の逸品となっている。
少し離れた所で、トイレを起動して中に入って行くマリ教授。
あまりジロジロ見てるとまた叱られそうなのを感じた俺は、後ろを向いて食事に戻っていった。
マリ教授に続いて、カリン先生、アズキ、ツバメ師匠と使っていたようだ。
俺は見てないけど。
最後にコハクがトイレに向かって行くときには、思わずガン見してしまった。普段食事をしない龍人族が排泄をするのに驚いたから。
おかげで、カリン先生に耳を引っ張られてしまった。
後で、こっそりコハクに確認したら、「食べたらー、出るー、当然ー」と間延びした声で教えてくれた。
食べたら出る。
確かに、自然の摂理だね。
そんな風に、呑気に楽しんだ昼休憩を終え、後片付けをする。もちろん、トイレも含めて。
「さて、行きますか」
そう言いながら、広場を抜けようとした所で、背後から大きな音が聞こえてきた。
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