第148話4.11 里への道2

 音に驚いた俺たち。

 振り向くと、ちょうど、さっきまで皆で座っていた石が、せり上がって行くのが見えた。


「何だ? 石が動いて行く? 誰か、土魔法を使っているのか? 魔法を使っているような魔素の動きは感知できないのだが」

「トモマサ君でも魔素は感知できないか。だとすると、あれは、自立型の魔法ではないだろうか?」

 俺が悩んでいると、マリ教授が推論を教えてくれた。

 自立型魔法、魔道具に込めた魔法をタイマーやスイッチなど特定の条件で発動させる魔法の事である。


「それにしても、何の魔法ですか? 俺達を攻撃するなら、上で休んでいる時に発動させれば良いものを、いなくなってから発動させるなんて何の意味があるんですか?」

 俺の疑問に、マリ教授も困り顔だ。

 皆が首を傾げている間にも、石はどんどんせり上がっていく。

 やがて、その石は、一つの形を作り出した。


「何で、ギ○ンなんだよ! そこはせめてガ○ダムにしろよ!」

 そう、せり出した石は、全長4m程のとあるアニメのロボットを形どったゴーレムのようだった。しかも、かなりマニアックなロボットを。


 思わず盛大なツッコミを入れてしまった俺は、その石でできたロボットの初動に遅れをとってしまう。意外と早い動きで、手に持ったレイピア型の剣を突いてきたのだ。


「危ない!」

 俺は咄嗟に身体魔法を起動して横に逃げる。ちょうど横で棒立ちしていたマリ教授の腰を引っ掴んで。

 何とか避けた俺はマリ教授に問いかける。


「大丈夫ですか? マリ教授。怪我はないですか? 動けますか?」

 俺の問いに、止まっていたマリ教授が動き出す。


「あ、ああ、怪我はないようだ。ありがとう。私は少し下がっていよう。トモマサ君は、行ってもいいぞ」

 よかった。大丈夫なようだ。


 一息ついてゴーレムを見ると、ルリが陽動をかけながらアズキとツバメ師匠が拳と刀で攻撃している。カリン先生は少し後ろで後方支援に徹していた。3人と1匹で攻撃を抑えられている感じだ。それでも、ゴーレムにダメージは与えられていないようだ。


 ちなみにコハクは、どうして良いかわからずオロオロしている。集団戦闘に対応できないのだろう。単独でブレスを撃てば一撃なのだが。


 そんなコハクにお願いする。


「コハク、俺も前線に行くから、マリ教授に攻撃が来ないように見ててくれ」

「わかったー」

 相変わらず、のんびりした口調で返事が返ってくる。だが、これで安心だ。心置きなく前線に突撃する。


 脳へ身体魔法をかけて攻撃手段を熟考しながら。


 さて、どうするか。

 まずは蹴り飛ばして、火魔法でも放つか? いや、石だしな。かなり高温にしないと溶けないだろうし効率が悪いか。それなら、土魔法で砕く? あいつより硬い塊を作るのも効率が悪いか。


 うーん、考えてるうちに近づいてしまったな、取り敢えず完全結晶刀であのレイピアでも切り落とすか、攻撃力も落ちるだろうし。


 アイテムボックスから刀を出した俺は、即座に抜刀の一閃を放つ。

 だが、ゴーレムの盾に往なされてしまった。


「くそ、やっぱり、動く相手に真っ直ぐ刀を入れるのは、難しいか」

 どんなに切れ味のいい刀でも、刄が真っ直ぐ相手に入らなければ意味がない。

 それでも、生身なら多少傷付いて怯んでくれるんだが、石の塊ではそれすらも望めない。

 俺がゴーレムから距離を取りながら反省していると声がした。


「トモマサ、そんな腰の引けた腕だけでやる抜刀があるか! そんな事では、ゴブリンすら切れないぞ!」

 俺の一撃を見たツバメ師匠からの叱咤だった。


 俺は、ツバメ師匠に軽く目線をやり頭を下げる。

 確かに、今の一撃は、全くダメだった。下手に、脳の身体魔法で考え過ぎたのだろう。ただでさえ下手くそな俺が、集中もせずに上手く切れるわけがない。


 よし、先ずは刀での攻撃に集中しよう。そう決めて脳の身体魔法を切る。そして、敵の動き、仲間の動きを見ながら攻撃のタイミングを計る。


 ルリの陽動、アズキの打撃、ツバメ師匠の斬撃のコンボに続いて、ゴーレムの振り抜かれた右腕に向けて一閃を放つ。


『ザシュ!』


 いい音と共に振り抜かれた刀。直後に再度距離を取り的を見ると、ゴーレムの右腕が斬り落とされていた。


「流石です。トモマサ様」

 即座に、アズキから称賛の声が聞こえる。

 ツバメ師匠も親指を立てていた。


 ずっと前線にいる2人の方がすごいと思うのだが、ここは素直に褒められておこう。

 何せ俺は褒められて伸びるタイプだから。いや、鼻が伸びるんじゃないよ。そしてナニ伸びるわけでも。


 いやいや、戦闘中に何考えてるんだ。武器を落とされたゴーレムがまだまだ健在なのに。


 俺は再度集中して的に向かう。次の狙いは左足だ。機動力低下を狙う。

 また仲間の攻撃の隙をついて斬りかかると、左足の膝から下を切り落とす事に成功する。

 俺の腕では、1対1では絶対にできないが仲間がいると何とかなるものだ。

 自分の剣術に少し自信がついた。

 本当は、ほとんど完全結晶刀の斬れ味によるものだが。


 左足を切られたゴーレムは、バランスを崩して倒れ込む。その時左腕を変な角度で地面に突いたようで左腕も肩から崩れていた。

「何とか、倒せましたね」

「うむ、流石、『ドラゴンごろし』だな。あの石の塊を紙のように切るのだからな。あ、もちろん、トモマサの腕も良くなってるぞ。本当だぞ」

 ツバメ師匠もよく分かっている。

 刀の力だと、おかげで後のフォローが余計に身に染みる。


 俺が打ち拉がれているところで、新たに広場の端の方から石がせり上がってくる。しかも、3つも。

 その石の造形を見た俺は、またしても盛大に突っ込んでしまった。


「何で、マークIIなんだよ。確かに3体いたけどな。普通に考えたら、○ムだろ! 黒い三○星だろ! なんなんだこの微妙にずれた選択は!」


 なんだか、腹が立ってきた。


 ――今回は一気に終わらそう。


 そう考えた俺は、ツバメ師匠に完全結晶刀を渡しながら作戦を説明する。


「ツバメ師匠、今から魔法で、あいつらをひと塊りにして動きを抑えます。合図したら、3体まとめて切り裂いて下さい」

「分かった。『ドラゴンごろし』存分に振るってやろう」

 ツバメ師匠の了承を得て、一方通報魔法と重力魔法を連続で発動させる。


「『一方通行ワン・ウェイ』からの『重力上昇グラビティ・アップ

 それぞれの重力の方向を横方向に変換し、3体をそれぞれにぶつけてから、その場で重力を上昇させる。

 突然、横方向に吹き飛ばされ仲間に激突し更に重力魔法で重量の増した3体のゴーレムは、それぞれに膝をついたり尻餅をついた状態で動けなくなっている。

 その隙にツバメ師匠に合図を送る。


「師匠今です」

「うむ」

 肯き飛び出したツバメ師匠だが、気付くと既に刀は納刀されていた。


「奥義、『五連閃』」

 振り向きざまに、ポツリと告げる技名と共に、3体のゴーレムは見事にバラバラに切り裂かれていた。

 技名の通り5回切り裂いたのだろう。

 3体まとめて。

 全く見えない速さで。


 やはり俺なんて足元にも及ばないほどの、恐ろしい腕前である。


「み、見事です。ツバメ師匠」

 俺の賞賛に花が咲いたような笑顔を見せるツバメ師匠。


「しかし、この『ドラゴンごろし』、切れすぎるな。おかげで、後ろの木まで切ってしまった」

 そう言ってマークIIの後ろを見るツバメ師匠。

 俺もそっちに視線を向けると、直径1mはあろうかと言う巨木が何本か倒れている。

 2度目の驚きである。

 あんぐり口を開けて固まってると、ツバメ師匠が刀を返してきた。


「この刀、切れすぎて気持ち悪い。やはり刀は使い慣れたものがいいな。自分の技術の進歩もわからなくなりそうだしな」

 ブツブツ言いながら、自分の刀を抜いて見つめている。

 いやー、まぁ、普通の敵ならその刀で十分でしょうけど、ドラゴンクラスになると……と思っていたが、そのうち、あの普通の刀でもドラゴン切ってしまいそうだなと思い直した。


 そうこうしているうちにまた次の石が、と警戒していたが、あれで打ち止めらしい。代わりに森の中から、1人、エルフの女性が現れた。

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