第149話4.12 エルフの里

「試練を乗り越えし者たちよ。汝らの願いを叶えましょう」

 突然現れた、エルフの女性が何か言いだした。

 俺たちは皆、何のことだとばかりに首を傾げている。


「あれ? 皆さんは、ミヤマの町の町長に聞いて、エルフの試練を受けにきたのではないのですか? ゴーレム達を、あそこまで早く倒したのだから、てっきり、試練の内容も確かめて来たものだと思ったのだけど、違ったの?」

「は? エルフの試練? 町長からは、ただ、エルフの里への道を聞いただけなのですが」

「え?」

「「「は?」」」

 互いに首を傾げたままでは話が進まないので、俺はここに来た目的を告げる。


「エルフの里長に合わせて下さい。そのために、エルフの里を目指して来ました」

「えーっと、里長に合うだけで良いの? この試練乗り越えたら、色々なエルフの魔道具が貰えたりするんだけど。要らない?」

「要らないです。里長に合わせて下さい」

 俺は再度お願いする。

 大体、魔道具なんて要らない。必要なら自分で作るから。


「そうなの? 勿体無い。それなら、取り敢えず案内するわ。転移魔法で飛ぶから皆私に掴まって」

 なんだか、あっさりと面会の許可が下りた。


「思わず、え? 良いの?」

 って聞いてしまうほどに。


 そして、エルフの転移魔法で飛んだ先で目にした物は、31世紀の街とも21世紀の都市とも異なる独特の風景だった。


「なんか、アニメに出て来そうな風景だな」

「ああ、この里は、アニメじゃ無く、昔の『ゲーム』を真似て作ったらしいよ? 確か、『ドラ○エIII』出てくる『エルフの隠れ里』だったかしら?」


 『ドラ○エIII』ってドット絵の頃じゃないか。

 何で、あれからこの街のイメージに繋がるんだ! 訳がわからん。

 さっきのギ○ンといい、マークII3体といい、何だかずれてるエルフの感覚に1人で憤る。

 周りの人達の頭に『?』を浮かばせながら。

 その周りのあまりのアウエー感に、俺は寂しくなった。


「共感を得られないって、こんなに寂しいのね」

「とりあえず、里長に話をしているから、ちょっと待っててね」

 俺のつぶやきは無視されたようだ。


 断りを入れてエルフの女性が目の前の建物に入っていく。

 ただ、建物と言っても、上には、葉っぱが茂っている木だったが。


 中をくり抜いて建物にしているようだった。


 エルフの女性に連れられて部屋の中に入る俺たち。

 中も完全に木だった。机も椅子も本棚も含めて、全て。

 唯一、窓だけはガラスのようだったが、他には、木しか見当たらない。

 見惚れていると、椅子を勧められたので皆で座る。


「間も無く、里長が来ます。お待ちください。私は、お茶の準備して来ますね」

「あ、お構いなく」

 思わず、日本的な返しをしてしまう。あ、でも、ここも一応同じ国か。

 雰囲気は、完全にノルウエー辺りの森なのだが。

 しばらくしてノックと共に60歳ぐらいのお爺さんが入って来た。

 好々爺といった感じの人だ。

 エルフの外見が衰えるって事は、かなりの年ということか。


「初めまして。エルフの里の里長をしております。アシウ タカモリですじゃ。今日は、儂に会いに来たとの事じゃが、何用かの?」

「初めまして、アシダ トモマサと言います。単刀直入に言います。ヤヨイ様に合わせてください。よろしくお願いします」

 突然の訪問にも関わらず、和かに対応してくれていたタカモリさんだったが、ヤヨイの名前を出した瞬間に雰囲気が変わった。


「トモマサと申したかの。お主は、何者じゃ? なぜ、ヤヨイ様のことを知っている? ああ、先に言っておく、返答によっては生きてこの里を出れんからの」

 何するつもりだ、爺さん。

 何だか隣の部屋から殺気まで感じる。

 あまりの豹変ぶりに驚いた俺だが、ここで怯むわけには行かない。

 娘のためだから。


「ヤヨイ様の事は、クイナさんとヤヨイ様の所のメイド長から聞きました。そして、俺はヤヨイ様の、いや、ヤヨイの父親です。娘に合わせてください。お願いします」

 俺は正体を打ち明けた。

 養子と言おうかちょっとだけ逡巡したけど、ここで無駄に警戒されても時間の無駄だ。

 正体が知れて俺の身に危険が迫ってもいい。

 今はヤヨイを救うために全てをかける時だ。


「お主、『建国の父』トモマサ様を騙るのか? そんな事をすれば、丹波連合王国内に住む場所は無いぞ? 分かっているのか? 悪い事は、言わん、正直に話せ」

 タカモリ里長が、さっきより少し優しげに話しかけてくる。

 何だ? 懐柔しようとしているのか? だが、俺はそんな言葉に乗るわけには行かない。高らかに宣言する。


「嘘じゃない。『建国の父』なんて知らないし、関係ない。俺は、ヤヨイの父親だ。娘を会うためにここに来た。そのために、この国が敵に回るなら、全て薙ぎ倒してでも会いに行く!」

 俺の宣言に驚いていたタカモリ里長だったが、しばらくして盛大に溜息をついた。


「……はぁー。仕方がありません。我々も戦いなんてしたくないのです。全てお話ししましょう。もちろん、ヤヨイ様の元にも案内いたします」

「へ?」

 あまりの対応の変化に、俺は変な声が出る。


「ははは、驚かれたでしょう? 実は、知っていたのですよ。『父さんは、必ず来るから追い返して』だったかな? ヤヨイ様から聞いてましてね。色々仕込ませていただきました。あ、でも、ゴーレムの試練は本物ですよ? 最近は、ミヤマの町でも知る人が減ってしまって受ける人は少ないようですがね」

 どうやら、俺は、嵌められていたらしい。


「その割には、素直に打ち明けてくれますね?」

「そりゃ、国中敵に回しても娘を救うとまで言われてしまっては、こちらとしても、正直に対応しない訳にはいきません。そもそもがヤヨイ様の我儘なのですから……」

 そして、タカモリ里長の話が始まった。


―――


 タカモリ里長とトモマサの話が進むころ、ヤヨイは薄暗い部屋の中でかすかに光る水晶に囲まれて半覚醒状態で横たわっていた。

「里長は、父さんを追い返してくれたかしら? きっと父さん、すぐに探しに来るわね。心配性にも困ったものだわ。早く終わらせて戻らないとね」

 夢と現実のうつつで思考を続けるヤヨイ。

 いつしか、遠い昔を思い出していた。

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