第21話1.21 王城図書室

 街の図書館に行こうと思っていた日だったのに、奴隷契約やら何やらですっかり遅くなってしまった。

 行って行けないこともないが、ゆっくり本を読めないのなら、という事で、まだ行ったことのない王城の図書室に行ってみることにした。

 屋敷を出て隣の王城へ歩いていく。

 門番に、名前を告げると何のチェックもなく通してくれた。

 こんなセキュリティで大丈夫かと思ったが、ヤヨイがしっかり根回ししてくれていたのだろう。

 素性とか聞かれても困るしね。

 俺は、アズキの案内で城内を歩いていく。


「アズキは、王城に詳しいの?」

「ヤヨイ様のお世話になってから詳しくなりました。それ以前では、数回訪れただけで決まった部屋以外には行きませんでしたから」

 アズキも王城に入れるような貴族だったのかと感心する俺。

 魔虫の大繁殖のせいで没落したけど。

 そんな話しているうちに図書室に着いた。

 そして図書室の前で見知った人に出会った。

 以前王様と共に話をした第五王子のシンゴ君だった。


「ご無沙汰しております。トモマサ様。本日は、図書室に御用とのこと。案内を仰せつかりましたので何なりと申し付けください」

 優雅に頭を下げるシンゴ王子。

「こんにちは。シンゴ王子。王子自ら案内とは恐縮してしまうね。司書の方でもよかったのに」

 イケメン王子の案内なんて肩が凝りそうだと、俺はちょっとひきつった顔で話していた。

「申し訳ありません。トモマサ様。司書ですと、トモマサ様の正体に気付かれる可能性がございますので、私でご了承賜りたく、お願い申し上げます」

 納得の理由だった。

「分かりました。シンゴ王子。ただ一つ、その話し方何とかなりませんかね。王子がそんなに低姿勢では、余計怪しまれますよ? 私の立場は、一貴族の跡取りですからね」

「了承しました。ではないですね。え~、分かったよ。それなら、いっそのこと友達になろう。友達同士なら大概のことは悪ふざけとして見られるし、カモフラージュにはもってこいでは?」

 対外的にそれは、いい案に思える。だけど俺とイケメン王子が友達? リアルではあり得ない設定だけに及び腰になってしまう。

 でも、まあ、ふりだしな。と思い直した。

「友達 (のふり)でいいですよ。さあ、図書室を見せてください」

 友達なのだからため口でもと思うのだが、やはり王子には出来ませんでした。

「分かったよ。トモマサ。どんな本が見たい? どんな本の場所にでも案内するよ」

 対して、シンゴ王子は、完全にため口だった。

 本当に演技かと思うほどに。

 まぁ、良いのだけどね。

 

 王城の図書室の蔵書量は、圧巻の一言だった。

 ただほとんどの本は、俺には必要ない本だった。

 過去の財務統計や貴族の趣味一覧なんて一生読まないから。

 必要な人には、大事なのだろうけど。

 一通り本棚を見終わったところで、シンゴ王子にお茶に誘われた。

 2時間ぐらい歩きまわったので疲れていたので大変ありがたい申し出だった。

 後ろを歩くアズキはというと全く疲れたそぶりを見せていな様子だった。

 そんなアズキを見てひそかに心に決めた。

 体力をつけるために運動しようと。


 休憩に訪れたテラスでは、一人の少女が座っていた。

 こちらに来てから始めて見る、金髪碧眼の美少女だった。

 黄金色に輝くドレスを上品に着こなしている美少女だ。

 俺が思わず見とれているとシンゴ王子が如才なく紹介してくれた。

 シンゴ王子の双子の妹でアシダ エカチェリーナ、年はもちろん12歳だ。

 白人系の人は成長が早いのでとてもそうは見えないけど。


「初めまして。アシダ エカチェリーナと申します。カーチャとお呼びください、トモマサ様。トモマサ様のことは、父や兄からお噂は聞いております。お会いできて光栄ですわ」

 立ち上がって、ドレスのスカートをチョンとつかんでお辞儀をする。

 令嬢特有のあいさつに、またまた見とれる俺。

「は、はじめまして。ア、アシダ トモマサです。こちらは、メイドのアズキです」

 グダグダの挨拶だった。そしてアズキはというと。

「ご無沙汰しております。エカチェリーナ様」

 知り合いだったようだ。

「アズキさん、以前のようにカーチャとお呼びくださいな」

 気さくに呼びかけるカーチャ王女。

 だがアズキは首を横にする。

「私は、奴隷となった身、王女様にとてもそのような失礼なことはできません」

 立場上難しいようだ。

「そのような事、全く気にしませんのに」

 しょんぼりするカーチャ王女。

「カーチャ、無理はいけないよ。アズキさんは、いろいろ難しい立場なのだ。知っているだろう?」

 シンゴ王子のとりなしで退いてくれた。


 この時俺はというと何も言えずおろおろしているだけで、イケメンにはなれそうになかった。

 だが落ち込んでばかりもいられない。

 話を逸らそうと違う話題を振る。

「しかし、カーチャ王女は珍しい髪の色をしておりますね。シンゴ王子は、普通に黒髪なのに」

「ああ、それはですね。私たちの母上は、隣国、カラフト共和国の出身でしてね。友好の証として嫁いできたのですよ。その母上の特徴がカーチャには出たのですが、私は、父上に似たため黒髪黒目になったのですよ」

 二人はハーフだった。

 言われてみれば二人の顔つきは良く似ていて、少し日本人離れしていた。

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